第六話 イベント三日目
イベント三日目。
フラウは二日目と同じようにアイテムを駆使して攻略しようと考えていたが、同じようにアイテムを使いだしたプレーヤーが多くなってきたため、場所取りもままならなくなっていた。
「昨日で五千枚…これだけでもアイテムとかは手に入るけど、やっぱりスキルが欲しいなあ」
フラウはムッと顔を顰めさせてそう呟いた。
頭に生えた三角の耳もへにゃっと力なく項垂れている。
そんなフラウの向かい側で大きな爆発音と地鳴りが響いた。
何だろうと身を潜め、音のする方へそろそろと向かうと、初めてログインした日に出会った立派な甲冑の男がいた。
「確か…オルト、さん?」
オルトはどうやら四人でパーティーを組んで集めているようだ。
各々が能力が高いため、それぞれ別行動しているが、着実にコインを集めている姿がみられた。
「オルトさーん!」
フラウはモンスターを倒してひと段落着いているオルトに手を振る。
オルトもそれに気づいたように手を挙げた。
「あの時の子か〜格好が変わってたから気づかなかった」
「モンスターを倒したら手に入れたので!」
「と言うと、ドロップアイテムか。その装備は初めて見るな」
オルトはそう言って興味深そうにフラウを眺めている。
「進捗はどうですか?」
「おぅ、それなりかな三日目で十万いかないくらいだ」
「凄い!! 私は五千枚で、どうやって今日やろうか考えてたところです」
「五千枚か、初心者にしてはいい調子じゃねぇか! 俺も負けてられねぇな!」
オルトはそう言って豪快に笑った。
そこへ、パーティーを組んでいたであろう三人が集まってくる。
水色で魔女っぽい服装をした女性がマリン、格闘家風の服装をした男性がリュウジ、スカーフを巻いて狩人風の服装をしたのがサエと紹介された。
「おやおや〜? オルトさん、みんなが頑張っている中ナンパですかぁ?」
「ちげぇよ! 前に道を教えてあげた初心者の子だよ」
「あぁ〜魔術師だったって言ってた子だ。衣装は獣人モチーフ?」
「モンスターのドロップアイテムらしい。見たことあるか?」
「うむむ…私でも分かりませんなあ」
マリンはそう言って顎に手を当ててまじまじとフラウを眺める。
「フラウちゃん、それはどのモンスターから手に入れたの?」
「えっと、東門から出た丘の、洞窟? みたいなところに入ると急にダンジョンに入ってしまって…」
「あー丘の隠しダンジョン"地下道"だね〜ってことは、ボスモンスターって狼の?」
「そうです! あと、昨日偽物の宝箱と戦って耳としっぽは手に入れました」
「なるほど〜。今まで何回かイベントやってたけど、まだそんなアイテムを隠し持っていたなんてね。ちなみに、特殊スキルや高レアリティのアイテムは一人しか所持することが出来ない代物で、同じ物を手に入れることは出来ないらしいよぉ〜。フラウちゃんラッキーだね〜!」
ヨシヨシとフラウの頭を撫でるマリン。
フラウの頭に生えた耳が撫でられる体制をとると、マリンはそれを気に入ったらしく「カワイイ〜」と笑っていた。
フラウは少し恥ずかしくなって「これ、勝手に動くんです」とはにかむ。
そんな二人の戯れを、暫く眺めていた他のパーティーメンバーだが、リュウジが周りを警戒して三人に告げる。
「おい、そんなことより、モンスター集まる前にまた狩り進めるぞ」
その言葉を聞いたオルトやマリン、サエは戦闘モードに切り替える。
「じゃあなフラウちゃん! この辺はたまに上級モンスターも出るらしいから、一人だと危険だと思うぜ? 気をつけろよ!」
「ありがとうございます! オルトさん!」
元気よく別れを告げたフラウは、オルトの忠告通り元来た道を引き返そうと考えた。
だが、歩いている途中キラリと光る何かにつられ、帰り道を外れてしまったのだった。
〇
フラウがつられたもの、それはモンスターがプレーヤーを誘うための罠だった。
フラウは誘導されて、気づけば水の底に落ちていた。
突然のことに驚いたフラウは、肺の中の空気をボコボコと吐き出し溺れかけている。
そんなフラウを狙って池の底の方からニョロニョロと何かが伸びてくる。
それがフラウの足を捉えてずるずると水中へと引きずり込んだ。
「ふぎゃっ」
ゴボッと息を吐き出し、このままでは死んでしまうと思ったフラウ。
そうして、気を失い、次に目を覚ました時はスタットの国へ戻っていた。
「ゴホッゴホッ!! あ、あれ、ここは…あ、そっか、私倒された……のか……?」
フラウはへにゃへにゃと腰を抜かしてその場に腰をかける。
フラウが立っていた場所は、初めてログインした時、一番最初に降り立った噴水の前だった。
ふぅと一息吐き出し周囲を見渡すと、同じように唖然としているプレーヤーや、怖かったーと言う声が聞こえる。
どうやらイベントで死んでしまった場合、この噴水前に飛ばされるらしい。
ちなみに、普段利用している普通のフィールドで死んでしまった場合、ログイン画面に飛ばされることになっている。
「あのモンスターなんだったんだろ〜? 怖かったー! 水中戦ってまだ体験したことないし……と言うか、あのモンスター奥の穴? みたいな所から出てきてたよね。もしかして、水の中にもダンジョンがあったりするのかな?」
気になる様子で頭をひねるフラウ。
しかし、水中で戦うとなるとまだ必要なスキルが身についていない。
さらに言えば、体力も魔力も、もう少し強くならなければあのモンスターに通用しないだろう。
どうにか倒せないかとフラウは頭を捻らせたが、いい方法は思いつかなかった。
フラウは諦めて再びイベント会場に向かった。
だが、狩場に選んだのは先程倒された森ではなく、反対側の"砂漠地帯"だ。
ここは砂漠の砂から小型の竜が飛び出す地帯だとされている。
そのモンスターは砂竜と呼ばれており、全長三十cm程度、砂の中を泳いで移動していると説明に書かれていた。
「"砂竜注意"だったよね」
フラウは先程見た看板の文字を思い出し、キョロキョロと当たりを警戒した。
「そうだ! 狼になれば早く走れるし、モンスターに擬態できるから危険も少ないかも!」
フラウはそう言って"ウルフメイク"を唱えた。
途端に、体は狼のモンスターに変化する。そして、フラウは砂漠地帯を走り始めた。
しばらく走って様子を見ていたフラウだが、思惑通り砂竜は姿は見せるが、襲いかかっては来なかった。
フラウはそれをいいことに、油断している砂竜に噛みつき、どんどん倒していく。
「これ、いいかも!!」
フラウはそう言って三日目の狩りをこなした。
危険地帯であるため、人が少ないのも好都合だった。
明日もこのスキルを使用して砂漠地帯を中心に狩りをしようと心に思ったフラウだった。




