第五十七話 ギルド設立
三人はアンダーマップの中をこれでもかと言うほど歩いた。
「ここは?」
「大きすぎるだろ」
「じゃあこっちは?」
「うーん、もうちょっと規模があったほうがいいですね」
「これよくない?」
「あたしらの手持ちでは足りないぞ」
そんな会話を繰り返して数時間になる。
「一体どんなのがいいんだろう」
フラウが困ったようにきょろきょろとあたりを見渡す。
フラウたちの居る場所はまだ新築物件の多い場所だった。
このアンダーマップにギルドは点在するが、購入されたものは許可がなければギルドメンバー以外は入れないようになっている。
また、その場所も見つけられなくなっており、作戦会議の漏洩や乗っ取りを防ぐためだとされていた。
スパイとして他所のギルドへ潜入することも禁止されていた。
それも、プレーヤー同士のいざこざを減らすためだった。
フラウが次に入り込んだのは森に囲まれたログハウスのようなギルドだった。
雰囲気も良く、春のような日差しがのんびりとした気分にさせた。
ギルドには基本的に大きい庭や小さい庭などが付属していた。
そこではモンスターの育成や自主鍛錬、カスタマイズ戦などが行えるようになっている。
「こことかどう? 値段も規模もそこまで大きすぎないし、ぽかぽか穏やかな気持ちになるよ」
フラウは気に入った様子でギルドの前にあるハンモックに倒れこむ。
「こうして昼寝もできるね~」
フラウがそう言ってゆらゆらハンモックで遊んでいる中、リリィとリーリアはギルドの設備や周辺を観察していた。
「いいんじゃないか」
「私も賛成です」
二人はそう言ってフラウのもとに集まってくる。
フラウはパッと顔を明るくして「じゃあ決まり!」と声を高らかに上げた。
「購入ってどうやるんだろう?」
「あっちに入金ボックスがあるので、そこに所持金を移動させればいいんですよ」
リーリアはそう言ってギルドの入り口、ポストの横にある「販売」と文字を書かれた箱に案内する。
そこへ三人はそれぞれ所持金を出し合い“チャリン”と音がしたと同時にギルドが輝いた。
「やった!」
「名前とギルドマスターを登録しなきゃならないみたいだぞ」
「ギルドマスターは誰にする? リーリアちゃんが良く知ってるから、リーリアちゃんにする?」
フラウがそう言ってリーリアを見るが、リーリアは首を激しく横に振って拒否する。
「ここは名前に影響力があるフラウさんでいいんじゃないですか? ほら、メンバー集めるのにちょうどいいと思うんです」
リーリアの提案にリリィは賛同した。
「フラウはそれでいいか?」
「うん、二人がそれでいいなら、私はいいよ~」
フラウは二つ返事でそう答える。
早速ギルドマスターの欄に“フラウ”と名前が登録された。
「ギルド名だがどうする?」
「そうですね、ぱっと思いつきませんねぇ」
リーリアとリリィがそう言ってフラウに視線を送る。
フラウも「うーん」と唸り、首を横に振っていた。
「フラウさんがマスターだから、狼がメインのほうがいいですよね」
「どうして?」
「え? だって狼が好きだから、そんな格好しているんじゃないんですか?」
「これはドロップしたのをつけているだけで、特に狼が好きってわけじゃないんだよ~」
「そうなんですか?」
きょとんとするリーリアにフラウは頷く。
「だけど狼ってのは賛成! カッコいいじゃん」
リリィがそう言って頷いて「あっ」と声を出す。
「ギルド名、満月の夜とかどうだ?」
「あ! それなら、英語でFull moon nightって言うとチーム名っぽくてよくないですか?」
「たしかに! でもそれだとちょっと長くないか?」
「なら、Moon nightとかにします?」
「それいいな! 大文字にしようぜ」
二人が盛り上がり、勢いのままギルド名を命名することになった。
フラウは特に反対することもなく、ことの成り行きを見守る。
「ムーンナイトって言うとなんか狼男の出てくる映画みたいだね」
そう呑気な様子でフラウが笑うと「どっちかって言うと狼女だけどな」とリリィが調子よく声をかける。
「決まりですね! まぁ後からでも変えられるので、しっくりこなかったら変えるのもありかもしれませんね」
「だな、とりあえずこれで」
リリィが“作成”のボタンを押した。
するとギルドのポストに「MOON NIGHT」と看板が立てられる。
「なんかかっこいいね!!」
「だな!! とりあえず中で荷物の整理とかしようぜ、これで死んでも所持金も持ち物も減らないし、大切なものは置いとかないとなぁ」
三人は軽快な足取りで中に入る。
そして、これからメンバーを集める会議を始めようと黒板の前に集まった。




