第五十六話 告知
町に戻った三人はネメシスの正体を探るため、掲示板で聞き込みをすることになった。
掲示板にコミュニティを持っているリーリエが早速フラウの手に入れたネメシスについて質問してみた。
しかし、思いのほか情報は集まらなかった。
「どうだった?」
フラウがそう言ってリーリエの画面をのぞき込む。
「それがまだ情報が少なくなんとも……」
「なにかわかったことはないのか?」
「彼らに情報を提供したところ、ネメシスは単純に精霊のようなものではないかと言う考察がされていますね」
「精霊?」
「風とか、雷とか、魔法に精通する仙人や魔道先駆者の職種につけば見えるようになるらしいです。ただ、ネメシスはキーで目覚めました。キーとロックの情報はそう言えば新要素追加の中に記載されていたそうですが、それが何を表しているのかわかってなかったんですよ」
リーリエがそう言って更新情報のページの中央部分を指で示す。
「これ、文字が細かくって私よく読んでないや~」
「あたしもちらっと流し読みしただけだ」
「パッチとかなんたらとかよくわからない専門用語ばっかりだもんね」
そんな二人にリーリエが簡単に説明する。
「キーは新要素です。この新大陸のどこかに三つだけ存在するようです。それを手に入れた人はその人のためになるような特別なものが贈呈されるって書いてたんですよ。私も狙っていたのですが、まさかそれがあんな感じだとは思わなかったんですけどね」
リーリアはフラウの身の上に起きた出来事を思い出したのか、少し頬を染めて目を伏せる。
「私はああいうのには耐性のある方だと思っていましたが、まさか目の前で起きるなんて……」
そんなことをボソボソと呟く。
「でもフラウ女の子でよかったじゃん。男だったらファーストキスがゲームってなんか虚しくない?」
「そう? よくわかんないけど、照れくさいのはわかったよ~」
そう言ってえへへと笑うフラウ。
特に気にした様子もなく、リーリエの掲示板を眺めていた。
「掲示板ではこれ以上情報がもらえそうにありませんね」
「リーリア、掲示板では普通に呼びかけられるんだな」
「うるさいですよ。現実じゃないので気楽なんです!!」
そう言ってあきれるリーリアにリリィは「何が違うの」と頭を捻る。
その後、三人はしばらく談笑していたが、次の目的地を決めることにした。
ワールドマップを広げてああだこうだと言い合いしていると、途端に各自のメニューバーに警報音が鳴り始める。
オーシャンのモニターにも「緊急速報」とでかでかと表示された。
なんだ、なんだと周りにいたプレーヤーも集まってくる。
『新たな地・オーシャンをみんなは楽しんでるかなぁー?』
現れたのはこのリアティの広報担当兼看板アイドルAQUAだった。
AQUAは元気よく画面から飛び出て周りのプレーヤーたちを見渡す。
『君たちの実力が今試される!! 新たなイベントのお知らせだよー!』
その言葉に周りは浮足立って喜んだ。
『いいね、いいね! その勢いで今日から4日後、イベント開始しちゃいます!! なんと今回はギルド戦!! これを機にギルドに入っていないプレーヤーの皆さんもみんなと親睦を深めちゃいましょう!!』
AQUAはそう言ってにこにこと笑っている。
「ギルド戦!?」
驚いた三人は顔を見合わせた。
三人ともギルドには所属していなかった。
また、特に意識したこともなかったのだが、どうやらここでギルドに興味のないプレーヤーに興味を持たせようと考えたようだ。
「確かに、プレーヤーは増えたし、ギルドに入ろうって考えるやつも出てくるな。ちょうどいいイベントなのかもしれない」
リリィがそう呟いてAQUAを見た。
AQUAは『その通り!! そこのかわいい女の子が言った通りだよ』と拳を振り上げる。
『今回はギルド戦! ギルドに入ってみんなでイベントを盛り上げよー!! ギルドに入っていない子も、これを機に気になるギルドに加入してみたらどうかな? ではまた、詳しい情報は今夜一斉送信するから、みんなメールボックス見てみてね』
AQUAはそう言って画面に返って行った。
残されたプレーヤーたちはうきうきと早速お祭り気分になっている。
ギルドマスターと思わしきプレーヤーたちも早速人を集め始めた。
「どうする?」
フラウはそう言ってリリィとリーリアを見る。
二人は顔を見合わせて考える。
「ねぇ、これを機に私たちもギルドつくっちゃおう!」
フラウは妙案だと手をたたいた。
二人は驚いて声を出したが、フラウは大丈夫だと根拠のない自信で満ち溢れている。
「私たちも強くなったし、リリィもギルド欲しいって言ってたよね!! さっそくギルドホームをみにいってみようよ」
フラウはそう言ってワールドマップのアンダーマップを開いた。
そこにはギルドホームと呼ばれる家を売っている場所があり、このゲーム海上とは別の空間を設けられていた。
ギルドホームはどこからでもはいれるように宇宙を模した場所に点在しており、空き家もたくさん用意されている。
そこへ行けばフラウたちもギルドホームを手に入れられる。
リリィは頷き、リーリアを見る。リーリアもイベントには参加したいらしく、反対しなかった。
「じゃあさっそく行って見よー!!」
フラウはそう言ってアンダーマップに指を置いた。
空間にゆがみが生じてギルドホームを販売しているアンダーワールドに続く扉が開かれた。
三人はそこへ足を踏み込んだ。




