第五十五話 クリスタルの少女
※微百合注意
フラウが魚類モンスターを倒した後、宝箱を開けた三人はそれぞれの職業にあった特典を手に入れた。
まず、フラウは“グール”の影響なのか“キングフィッシュ”のスキルを手に入れた。
このスキルを使うと速く泳げる他海の中でも自由に息ができるようになった。
リリィとリーリアはフラウの影響を受けたのか、毒無効を手に入れた。
他リリィは“水難の大剣”を手に入れ、リーリアは“海王の脛当”を手に入れていた。
どちらも水系統に特化した品物だと説明には書かれていた。
そして、今日も三人集まりボスモンスターを探して“水晶の洞窟”に来ていた。
壁一面水晶でできており、透過性も高いためたびたび額を壁にぶつけた。
さらに、どうやら壁が鏡のようになっているところもあり道を間違えやすくなっている。
なかなかボスの部屋にたどり着けないため、三人は疲れて休憩していた。
「どうしたものか……困ったねぇ」
フラウがそう言ってのんびり構えている。
「どうしますか、一旦地図を見直すためにも外に出てみますか?」
「せっかくここまで来たのにもったいないだろ~もうちょっと頑張ってみようぜ」
リリィとリーリアがそう言い争っていると、フラウがあっと思い出したように手をたたく。
「リリィの弁慶の必殺技でここの水晶全部壊しちゃえないかな?」
「え?」
「鏡があるからわかりにくいから、鏡を壊しちゃおうよ」
「なんていうか、暴論だな」
「やってみて~」
フラウがそう言ってリリィから距離を取る。リーリアも同じように距離を置いた。
「仕方ないなぁ」そう言ってリリィは弁慶を呼び出し、「“七宝・太刀千罪咎”」と投げやりに唱えた。
発生した幾本の刀が水晶を貫き、洞窟内をめちゃくちゃに飛び回る。
フラウは「“ディバインプロテクト”」を使ってリーリアをかばっていた。
しばらく飛び回った刀は視界にあるすべての水晶を貫いていた。
しかし、一枚だけ貫かれずにいた水晶があった。
「ここが正解?」
フラウが近づいて手をかざすと水晶は波紋を描き、フラウは向こう側に手が届く。
「やった!」
フラウが元気よく飛び込むと後の二人も続いて飛び込んだ。
抜けた先にはきれいな水晶が輝き、王座がある。
そして、その王座の上にアルビノ風の美しい女の子が座って目を閉じていた。
フラウたちは恐る恐る王座に近づいた。
それでも女の子は目を覚まさない。
「寝てるのかな……?」
「おい、気をつけろよ」
思わず声が小さくなるフラウとリリィ。
リーリアは警戒して剣を構えて少し距離を置いている。
フラウが少女に手を伸ばした時、ふと少女の膝の上に鍵が落ちているのを見つけた。
「なんだろうこれ」
フラウが拾い上げると途端に“ピロン”と機械音が聞こえる。
唐突なその音にフラウは思わず「うわっ」と声を出し驚いた。
そして、少女に目をやると先ほどまでなかった鍵穴が少女の前に映し出されていた。
フラウはその鍵穴に手に持っていたキーを差し込む。
するとまばゆい光が一面を包み込み、視界が奪われた。
「構えろ! フラウ!!」
「目覚めましたよ!!」
二人の声にフラウはやっと視界が晴れてくる。
眼前に先ほどまで座って目を閉じていた少女が王座のさらに上の方で浮遊していた。
「“剣舞”、天誅!!」
「“エアーカッター”!!」
リリィとリーリアが同時に敵に向かってとびかかる。
しかし、少女は魔法の壁に守られているのか、どちらの攻撃も無効化してしまった。
一旦距離を置く二人にフラウも慌ててついていく。
「だぁれ……ここに、なぜ……?」
少女は美しい黄金色の瞳を三人に向けた。
三人は何が起こっても大丈夫な様に武器を構える。
「わたし、の……主は、あなた……?」
少女はそう言ってフラウに視線を寄越した。
フラウは「え?」と目を丸くする。
「私は、ネメシス……主の力……試させてもらいますわ」
不気味に微笑み“ネメシス”と名乗った少女はそのまま両手を前に掲げる。
「な、なんだ、動かない……!!」
「え、なんで……!?」
リーリアとリリィは困惑し、体を捩じるがびくともしない。
フラウが慌てて「“ディバインプロテクト”」と唱える。
「クリスタル・プロティアン」
ネメシスはがそう言うと三人に向かってクリスタルが地面から飛び出してくる。
三人は避けることができずそれを真正面から受け止めた。
悲鳴を上げて崩れる三人。
一足早く起き上がったフラウは“ウルフメイク”を使って狼の姿になっていた。
そのまま飛びつくフラウ。
リリィは慌てて声をかける。
「ま、まて、フラウ!!」
しかし、一足遅くフラウはネメシスのバリアによって跳ね飛ばされていた。
その衝撃で狼から元の姿に戻る。
「いたたた……」
「何か弱点を探さなきゃ!!」
リリィがそう言ってリーリアに視線を送る。
リーリアは立ち上がり剣を振り上げる。
「“アイス・ワイドニング”」
リーリアの剣は少女に振り下ろされる。ネメシスを囲っていたバリアごと氷漬けにしてしまおうと言う考えだ。
思惑通りバリアは氷を纏い、ネメシスは地面近くに降り立つ。
「フラウ! 行くぞ!」
「うん!」
リリィが素早く弁慶を呼び出し、ネメシスに向かってその大きな剣を振り下ろす。
フラウはそのあとに続くように“アーティラリーブラスト”と唱えた。
大剣を何とか防いだネメシスだが、その衝撃でバリアがとうとう割れて散り散りになり、そのバリアを張りなおす前にフラウのレーザーが眼前に迫った。
地面を揺らす大きな衝撃。
ネメシスはレーザービームを真面に喰らってふらふらと膝をついた。
「やった!!」
リリィもリーリアも喜んで飛び跳ねる。
しかし、しばらくしてもネメシスは電子にならなかった。
不審に思ったフラウはネメシスに近づき前にしゃがみ込む。
「あ、あの~……?」
フラウが「おーい」と声をかける。
しばらくうつむいていたネメシスだが、ふっと顔を上げてフラウに顔を近づける。
フラウは驚いて後ろに尻もちを搗くが、ネメシスはさらに近づいてきた。
「主……あなたを認めます。私の大切な主に」
ネメシスはそう言って顔を近づけ、フラウの唇に自分の唇を重ねた。
「あ、あれえ!?」
「ひきゃぁ!?」
フラウを後ろから眺めていたリリィとリーリアは驚いて素っ頓狂な声を上げる。
そんな中、一番驚いているのはフラウだった。
思いもよらない行動に尻もちをついたまま後ずさり「えぇえぇ!?」と声を上げる。
そして、さらにフラウの右腕に異変が生じた。
クリスタルが肩の辺りに現れ、そこから根が張るようにツタが腕を覆った。
「な、なにこれ!?」
「主、いつでも呼び出してください。私はあなたを守り、あなたを愛する」
ネメシスはほほを染めニコリとほほ笑む。
そしてフラウの腕のクリスタルに吸い込まれていった。
そのあまりの光景にリリィもリーリアもついていけず、唖然としている。
「い、いつから、そんなゲームになったのですか」
「つーか、新ステージ新要素詰め込みすぎだろ……」
リリィとリーリアは顔を見合わせてフラウを見た。
フラウもきょとんとしており、まだ理解しきれていないようだった。
その後、王座の前に宝箱が湧いてくる。
ひとまずそれを開けた三人は疲れた様子で洞窟の入り口まで戻る。
すると水晶の洞窟はその姿を隠して入り口を示していた魔法陣もその場に存在しなくなる。
「隠しダンジョンだったんですね、これ」
リーリアがそう言ってその出現条件を探ろうと色々な方法を試してみたが、洞窟は一切姿を見せなかった。
「なんなんだ、この洞窟。めちゃくちゃ疲れたぞ」
リリィは呆れてフラウの右肩をちらりと見る。
そこには間違いなく水晶がはめ込まれており、皮膚に食い込んでいるようで痛そうだった。
「痛くないの、それ」
「それが痛くないんだよ~」
フラウが能天気にそう言ってあははと笑う。
リリィは胡散臭そうにそれを見つめたが、一旦情報を整理するためにオーシャンの街に戻ることになった。




