第五十話 神話級
ライライ島を離れた三人は海を漂い次の目的地を探していた。
「そう言えばみんなスキル試した?」
フラウがそう問いかけると、二人は「そう言えば」と話し始める。
「私は"ウィンドラッシュ"と"ウォーターボール"です。何となく想像つきますので、試すまでもないかと思います」
「あたしは色々増えたけど"ストームウォーター"と"メイルストロム"がよく分からないかなぁ。ちょうどやることも無いし、試してみるか」
リリィがそう言って立ち上がる。
船を壊さないよう中央にある船長室の屋根に立つ。
「いくぞー!」
リリィはそう合図をして大剣を構えた。
「"ストームウォーター"」
リリィがそう言って剣を振り下ろす。
すると、水が集まり竜巻を作って直線に走り出す。
下にいたフラウとリーリアは左右に避けて竜巻を見送った。
「次なー! "メイルストロム"」
リリィは大剣を屋根に叩き込む。
その場に高波が現れ、船を飲み込まんと暴れる。
「すっげ! てかどっちも広範囲攻撃かー」
リリィが高波を切り裂き、屋根から飛び降りた。
水が細切れになり雨のようにザッと落ちてくる。
「びっくりしたー」
「怪我ないか?」
「大丈夫〜」
フラウとリーリアは立ち上がり、濡れた服を絞る。
「次はフラウさんですね」
「フラウのスキルよく分からなかったから、楽しみだな」
二人にバトンを渡され、フラウは気合を入れてスキルを再確認する。
「じゃあまず、"スキュラ"」
「あ!! まてまて! ちょっと離れろ!!」
リリィの制止は少し遅く、フラウは既に杖を振り上げていた。
フラウの杖から発せられた紫色の霧がフラウを包み込む。
それはバチバチと雷を纏い、大きく拡がっていく。
リリィとリーリアが状態異常に気づいたのは船の半分を覆った時だった。
急に皮膚がピリピリとし始めたのだ。
その時にはもう体力値は半減していた。
「ヤバい! フラウ!?」
リリィが慌てて呼びかけるとフラウの弱々しい声が聞こえる。
「これは、可愛くない……」
「は?」
「だめ、見ちゃダメ!!」
フラウが濃い霧の中からそう言って二人と距離を取る。
「どうしたんですか!?」
リーリアも心配しリリィに目配らせを送る。
二人は剣を構えてスキルを唱えた。
「"ウィンドラッシュ"!」
「"ストームウォーター"!」
リーリアから放たれた風の斬撃と、リリィから放たれた竜巻が混ざり合い、紫の霧が晴れていく。
そして現れたフラウの姿は、皮膚が灰色になり、耳は尖っている。
一番不可解だったのはスカートから除く足元にある6つの狼の頭と赤く光る瞳。
「全長二十五メートルぐらい?」
「また、大きくなりましたね」
二人は半ば呆れた様子でその姿を見ている。
「この顔、悪魔みたいじゃない?」
フラウは見た目を気にする方だったようだ。
水面に映る自分の姿を見て「せめて綺麗な顔になりたかったよ〜」とボヤいている。
「これって神話の海の魔物……ですね。グールってスキルも多分それ関連だとしたら、今使わない方がいいですよ」
「なんなんだ?」
「たぶん私とリリィさんは食べられますよ、アレに」
「……それはやだなあ」
リリィは元の姿に戻ったフラウを見る。
得体の知れないスキルを手に入れることが多いフラウだが、最終的にはどうなるのか、見てみたくもあるとリリィは密かに楽しみを覚えた。




