第四話 コピーボックス
洞窟は一言で言うと綺麗だった。
水晶が地面から突き出し、洞窟の壁は光る苔が張り付いている。
たまに響くドラゴンのような咆哮に、フラウは緊張を高まらせた。
フラウが歩いている道は、ダンジョンらしく入り組んでおり、たまに罠も発動する。
罠には状態異常を発動させるものや、単にHPを削ってくるものがあった。
「うぅ〜……ひとりじゃちょっと辛いかも」
そう言ったフラウは、何度目かのポーションを飲み干した。
そして、休憩がてらモンスターの死角にある小さな横穴に腰を下ろす。
「ここなら安全だよね〜」
そう言ったフラウだが、次の瞬間裏切られる。
フラウの腰を下ろした場所が眩い光を放ち始めたのだ。
「う、うそッ!?」
次の瞬間、浮遊感を感じたフラウは悲鳴も忘れて真っ逆さまに落ちていった。
〇
「いてて……ここは……?」
フラウがたどり着いた場所は見慣れない暗闇と、先ほどまでとは打って変わって禍々しいオーラを放つ水晶の数々。
「トラップかなあ? にしても……」
フラウがキョロキョロと周りを伺う。
奥から、明らかにフラウのレベルでは攻略できそうもない、レベルの高そうなモンスターの気配を感じた。
「うぅ〜……当たって砕けろか〜……」
しょぼしょぼと歩くフラウ。
暗闇をくぐり抜け、大きな広間にたどり着く。
「……ん? あれは、宝箱?」
フラウは広間の中央に鎮座する場違いな宝箱に目を奪われた。
恐る恐る近づくとーー宝箱がひとりでに開き始めーーそしてーー"ボォン!!"ーーそんな効果音が聞こえる程大きな爆発が起こる。
よろめくフラウに宝箱から"グケケケケ"と不気味な笑い声が響いた。
「やっぱり、モンスター!! きゃぁ!!」
フラウは飛びかかってくる大きな口になすすべもなく尻もちを着く。
「ファイアーボール!!」
慌てたフラウは、モンスターの至近距離で魔法攻撃を仕掛けた。
モンスターは跳ね飛ばされたが、その頭上に表示されたHPは微量の変化しかおこらない。
グゲ、グケケケケ!!
宝箱のモンスターは口から何かを吐き出した。
それはフラウが先程当てたファイアーボール。
どうやらこのモンスターは人の真似をするのが得意なようだった。
「な、なら、好都合かも!!」
フラウはまだ、そこまで強力なスキルを身につけているわけではなかった。
そのため、返ってくるのもフラウレベルの初級魔法。
しかも、フラウは魔術師だ。魔法攻撃に対する耐性は元から少し付与されている。
フラウは、何度か魔法をモンスターに向かって当てた。
やはり、モンスターはフラウの真似をしてそれらを返してくる。
モンスターのHPを徐々に削り半分まで持ってきた時、フラウは奥の手を解放した。
「ウルフメイク!!」
その言葉と共にフラウの体は狼のような姿になる。
モンスターは相変わらずフラウの使った魔法を返すだけで、物理攻撃は噛み付く程度だった。
フラウは一気にモンスターを攻めた。
爪で引っ掻き、体当たりをし、魔法を軽々避ける。
以前に手に入れた称号のおかげだった。
また、"ウルフメイク"を使用すると少し元の能力より能力値が上昇するのも有利に働いた。
「これで終わり!!」
最後の引っ掻き攻撃をフラウは目一杯の力で放つ。
モンスターは"グギャア!!"と悲鳴をあげて電子の粒子となった。
「や、やった……!!」
フラウは狼の姿のまま、心の中でガッツポーズを決める。
そして、モンスターの代わりに現れた本物の宝箱の蓋を勢いよく頭で持ち上げた。
すると、中身がキラキラと輝き、フラウのアイテムボックス欄に新たなアイテムを追加した。
〇
フラウは元の人の姿に戻り、先に所持スキル一覧を開いていた。
「スキルも増えてる! なになに……えーっと"スキルイーター"これを使用すると相手の魔法をレベルや威力関係なく、一度アイテムとしてボックスに取り込むことが出来る。使用回数は2回。へぇーあのモンスターとおんなじような感じかなあ?」
さらに追加されたのは"カウンター"のスキル。
自動発生で、自分のレベルよりはるかに上回る攻撃を受けると一定の確率で発動するらしい。
常時発動する訳では無いため、頼りすぎないように気をつけなければならない。
フラウはさらにアイテムボックスを開いた。
そこには"シャドウウルフ"と書かれた装備アイテムが追加されていた。
「ウルフって……あのモンスターは宝箱なのに、なんで? まぁいいか……つけてみよっと!」
フラウはそう言ってアイテムをタップする。
今の装備だと首周りにファーの着いたワンピースとマントだったが、新たなアイテムは本物のような黒い狼の耳と、ふさふさのしっぽをモチーフにした腰飾りだった。
これらのアイテムには暗闇の状態異常の耐性がついており、闇属性の攻撃を半減させると書いていた。
夜に狩りを行う狼を模したアイテムだった。
新アイテムの追加により、フラウは見た目だけで言えば狼の獣人のような風体になっていた。
「耳としっぽ……なんだかちょっと恥ずかしいなあ」
えへえへと笑うフラウ。
恥ずかしいとは言いつつも、気に入ったようで耳に触れてみたり、しっぽを触ってみたりしている。
「フワフワだ〜。あ、凄い、これ勝手に動くんだ!! しっぽも!! へぇーなんだかレアリティの高いアイテムみたいだし、暫くこれで……私のスキルともなんだか噛み合ってるし、いい感じ!!」
フラウが喜ぶとしっぽはパタパタと左右に揺れる。
それを見たフラウは自分の感情なのだが、なんだか少し恥ずかしさが増した。
そして、魔法陣に乗り込み、元のダンジョンに戻る。
元のダンジョンの奥地にはボスモンスターの姿はなく、宝箱の中には回復薬や便利な道具が数点入っていただけだった。
流石に戦い続けるのは疲れると思っていたフラウは安堵のため息を吐き出した。