第三十四話 出航! 新ステージ"パラノア"
リアティでは最近流行り始めたことがある。
それは、新ステージ"パラノア"が関わっていた。
祝祭を経て翌日から新ステージ"パラノア"が開放された。
そこは海、つまり船の上で海賊のようなNPCが沢山現れていた。
最近の流行はその"パラノア"に到達したプレーヤーが海賊のような装いで旅をし、海上でチーム戦をする事だった。
珍しい海賊団のNPCや、お宝をたんまり持ったプレーヤーを倒すと"強奪"と言ってパラノアで手に入れたアイテムのみ好きな物をいただくことができる。
当然、強いチームはレアリティの高いアイテムを持っており、他のチームから狙われやすくなる。
「行くぞー! 航海の時間だ!」
「おー!」
リリィとフラウは当然その流れに乗った。
目的は高レアリティのアイテムだ。
パラノアで手に入れたアイテムはちゃんと他のフィールドでも使用可能だ。
フラウとリリィの一番求めているアイテムは海の中で有利に働くアイテム。
それを手に入れ、海中のダンジョンを目指すのが最終的な目的だ。
「船は用意したかフラウ!」
「ありません!」
「え!?」
「実は、この間船を買ったんだけど、パラノアの海に試しに放ってみたら、海の魔物に奪われちゃった」
あははと笑うフラウにリリィは頭を抱える。
「あたしの資金が……!」
「ごめん……で、でも! 小さい船だったら私だけでも購入できたから、とりあえず海には出られるよ」
「小さい船……あれだな、格好はつかないが、適当に船を強奪すれば……」
「えぇ! うばうの? 乗せてもらおうよ〜」
「だってそれが醍醐味だろ? 気合い入れて行くぞー!」
リリィはそう言ってフラウの用意した小型船に乗り込む。
海に出るには頼りないが、一応帆が張られており、船らしい雰囲気はある。
「狭いくて殺風景だが第一歩にはちょうどいいかもな!」
リリィがそう言って船の先頭に立ち「出港」の合図をフラウに送る。
フラウは取り付けられた操作盤を動かす。
船は真っ直ぐ海上を進み始めた。
〇
暫く海を浮遊して釣りや海獣と呼ばれるモンスターの観察を行っていた。
「あのモンスターは食えるらしいぞ」
「えっそうなの? どんな味がするんだろ」
「にしても、誰もいねぇ」
「海は広いからね〜どっかにダンジョンないか潜ってみる?」
「モンスターに食われないか?」
「さぁ?」
フラウが試しにと飛び込む。
慌てて手を伸ばしたリリィだが、フラウは既に海の中に潜っていた。
すごい。
フラウが海に飛び込んだ感想はそんな単純なものだった。
海の中は大小様々なモンスターが気持ちよさそうに泳いでいる。
大きなモンスターも全てが肉食というわけではないらしく、フラウを横目にさっさと身を隠す。
横を見たらどこまでも続く真っ青な世界。
下を見たら深い深淵からキラリと何かの瞳が光ってこちらを静かに見ている。
吐き出した泡が、キラキラと空に向かって登っていく。
船の上ではリリィが心配そうにその泡を眺めていた。
すると影が海面に現れ、顔を見せる。フラウだ。
リリィはホッと胸を撫で下ろした。
「凄いよ! リリィも来てみなよ!」
「生きてたか!!」
「大丈夫! モンスターも襲ってくるのは少ないよ!」
「うーん、ちょっと怖いけど……とりあえずフラウ、一旦船に上がれ」
リリィがそう言ってフラウに浮き輪を渡す。
フラウはそれをつかみ、船に這い上がった。
「あのね、キラキラしてて、静かで、本当に海にいるみたいに冷たいんだよ!」
「へーでも服を着たままじゃ危ないぞ」
「へへ、じゃあ水着でも買う? たしか水中で特殊効果あるやつあったよね、あと海賊っぽいマントとかも買ってみよー! 楽しそう」
フラウが慣れた手つきでショップのコマンドを開く。
「ほら、これとか?」
「は、恥ずかしいだろ」
「大丈夫だって、絶対似合うよ〜!」
フラウがそう言って自分とリリィの分を用意する。
二人は手早く水着に着替えてマントと装飾を付けた。
「ほら、海賊っぽいよ!」
「うん、悪くないな」
「見てみて、背中に髑髏だって! あんまりこんな服着ないから楽しー」
「水着も似合ってるぞ」
「でしょ? 私もリリィもこれでバッチリ!」
はしゃぐ二人はそれぞれの特殊効果も確認した。
フラウもリリィも水着の効果により、水中での息がかなり持つようになった。
また、海賊のマントのおかげでお宝探知の効果も発揮される。
「これで、海の中も探索できるね!」
「近くに船もあるみたいだけど、どうする?」
「うーん、そっちに向かいつつ、海の中見て回ろっか」
「ラジャー! 船長に続け!」
「ふぇ!? リリィが船長じゃなかったの?」
「この船の持ち主フラウだし、船長はフラウなんじゃないのか? それに、名義がフラウになってるからあたしじゃ動かすのは引っ張る以外舵とか切れないみたいだぞ」
「そうなんだ〜! え、でもそれじゃあ船奪っても動かせないってことじゃない?」
「大丈夫だ。パラノアのルールで相手を打ち負かした者は相手の持ち物を1つ奪える。そのルールを使って船を奪えばあたし達のものになるってこと」
「じゃあ絶対リーダーを倒さなきゃなんだね!」
二人はそうして一つ目の船へ向かうことにした。
今二人が欲しいものは大きな船だ。
好戦的な相手であれば奪い取って自分たちのものにしてやろうと考えていた。
しかし、相手の人数が多ければそれも不可能だ。
運がいいか悪いかは着いてからわかるだろう。




