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第三十二話 二つ名

  祝祭も終盤に差し掛かっていた。

そして、今回の二つ目の注目株である、ライラとグリズリーの闘いが始まろうとしていた。


大舞台に少女が降り立つ。

足元は地面から離れふわふわと、まるで妖精のような可憐な少女だ。


相対するのはブルーの艶めかしい甲冑を着た背の高い爽やかな男。


司会が煽り文を声高らかに読み上げ、会場は大いに盛り上がる。


 開幕のブザーが響く。


先手を打ったのはライラだ。

ライラは両の手を広げてボソボソと小さな声で呪文を唱えた。

すると、リングには大きな魔法陣や小さな魔法陣が無数に浮かび上がる。


「"インフェルノ"」


ライラが最後の言葉を告げると同時に浮かび上がった魔法陣からは炎が吹き出した。

火山の如き激しさで、リングを溶かしていく。


ライラの先手に負けじとグリズリーも剣を構える。


「"エヴォーク・ワイバーン"」


グリズリーの掛け声とともに魔法陣が現れる。

そこから出てきたのは蛇のように長いしっぽ、蝙蝠の翼を持つ大きなドラゴン。

ワイバーンはその大きな翼をはためかせ、グリズリーの近くで噴き上がる炎を消し去った。


強風に煽られたライラは手で髪を抑える。


グリズリーはドラゴンに飛び乗ると一気に距離を詰める。


「ライラ、少し痛いかもしれないぞ"オーバーウェルム"!」


グリズリーはドラゴンのスピードに上手く剣を合わせて振り切った。

その剣はライラにダメージを与えるかと思われたが、ライラは魔法で防御壁を作っていた。


「"プロテクトカバー"」


ライラは防御壁をさらに硬化させ、グリズリーの剣から完全に身を守る。

"ガキン"と嫌な音が響いた。

一旦身を引いたグリズリーは己の剣を見る。

剣は少し刃こぼれを起こしていた。


「やるな、ライラ! 私も負けてられない。これは、君の今後に関わることだからな!」

「……ウザイ」


ライラは眉根を顰めた。

そんなライラの態度をグリズリーは気にせず受け流す。


「ワイバーン"劫火"! そのまま突き進め!」


グリズリーの指示を受けたワイバーンは、彼を背中に乗せたまま、炎を吐きながらライラに向かって羽ばたいた。


そのスピードにライラは驚いたが、冷静に次の攻撃体勢を作った。


「"アイアンメイデン"」


ライラの目の前に大きな箱が現れる。

それはワイバーンを飲み込み、消滅させた。

グリズリーは間一髪でワイバーンから飛び降り助かったが、飲み込まれていたらタダでは済まない。


「抵抗するのかライラ!! なぜだ!!」

「貴方……嫌い」

「なぜなんだ!!」


グリズリーは力強い拳を地面に叩き付ける。


「私は君と本当は闘いたくないんだ。だが! 君を正しい道へ導くためには不可欠……」

「貴方嫌い」

「なぜ同じことばかり言うんだライラ!」

「……」


ライラは顔を顰めて両手を広げる。

ライラの服の両袖から魔道具が現れた。

細い鎖に赤い宝石が嵌め込まれた綺麗なものだった。


 初めて姿を見せたライラの武器に会場は何が始まるのか、息を飲む。


「"エンドレス・カタストロフィ"」


"チャリン"と魔道具が揺れる。それは、大災害の前触れだった。

魔道具の揺れが激しくなり始め、地面に亀裂が走る。

大地がまるで割れるかのような歪みがライラを中心に光の速度で広がる。


大地の怒りが観客も巻き込み、逃げる術を奪った。

こうなれば試合所ではない。

慌てた司会がマイクを通してライラに語りかけるが、ライラの耳にはもう既に何も聞こえていなかった。


「"エスケープ"」


ライラが空高く舞い上がる。


「"ワースト・ワンダーランド"」


ライラがリングに向かって手を振り下ろす。

地面を破り、木々が生え、それは大きく大きく成長し、全ての生命を奪い尽くす。


生命を得た巨木は漲る魔力を感じ、雄叫びを上げる様に身体を揺らした。


巨木に触れたものは無差別に消滅させられる。


グリズリーは既にダメージを受けていたこともあり消滅していた。

しかし、被害はそれでは留まらず、一気に国一つを覆い込む事態にまで発展した。


 国民は突然現れた巨大な木に為す術なく取り込まれていく。


ライラはそれを上空で眺めていた。

むしゃくしゃする気持ちを抑えるように、ライラは表情を無くしていく。


 ふと、視界の端に黒い狼が見えた。

黒い狼は大きくなり、機敏に木の幹を避けた。


「ライラ!」


狼はその顔に似合わず少女の声でライラの側まで飛躍する。

ライラの場所までは到底届かないが、その声がはっきり聞こえる位置にまで狼はやってきていた。


「ライラちゃん、お願い、止めて! 国の人達、コンピューターだけど一応生活してるから、困ってるよ!」


フラウは大きな声で吠えた。


「それに、折角ライラちゃんを応援してくれてた人も消滅しちゃう!」


フラウの言葉にライラはハッと目を覚ました。

怒りに我を忘れ、扱いきれない力を発動させてしまった。

ライラは「止めなきゃ」と慌てて手を広げた。


「"インフェルノ・ヴァーミリオン"」


ライラの周りに先程よりも数多くの魔法陣が起動する。

それらは火を噴き、地面を覆う大きな巨木に燃え移り、火力を上げて広がった。


 一瞬の出来事だ。


あれほど生命力を漲らせていた巨木は、悲鳴をあげるように身体を大きく揺らして燃え尽きた。


ライラは疲れてぐったりと地面に降り立つ。

その傍にフラウが走り、ライラを咥えて背中に乗せた。


「大丈夫? 疲れたよね〜」


フラウの変わらない能天気な声がライラには心地が良かった。


「あの人ムカつく」

「でも他の人に八つ当たりしたらダメだよ〜」

「……ごめんなさい」

「いいよ〜もう今日はゲームは終わろっか。皆居なくなっちゃったし」

「うん、またね」


ライラはそう言って姿を消した。

フラウは再構築を始める国を見守り、姿を消した。


 こうして、闘技場の祝祭は有耶無耶に終わった。

翌日、再び戻ったプレーヤーが闘技場のモニターに集まる。

そこにはライラの圧倒的な力が映し出されていた。

それを止めに入ったフラウの黒い狼も映っている。


ライラの"独裁者"の噂が"魔王"に塗り替えられた。

その側にいたフラウはそれに因んで"悪魔"や"怪物"と呼ばれる事となった。


その噂はフラウの耳にもしっかり入ってきている。

フラウはその二つ名をどうも気に入らないが、まぁいいかと聞き流すことにした。

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