第三十話 リリィvs玄武
カナトとユウの闘いは、舞台袖で見ていたフラウやリリィにも大きな衝撃を与えていた。
同時に、あの舞台に自分も踏み込むんだ、と言う程よい緊張も与えている。
「変なやつだって思ってたけど、やっぱ強いな」
「あの武器すぐ変えられるやつ凄いね! 何個まで変えられるのかな?」
「大剣、双剣、斧……今のところ3つしか判明してない……と言うか、スキル名なんか言ってたか?」
「さぁ? 聞こえなかったよ」
うーんと悩む二人だが、その思考も司会者の言葉に遮られた。
先程まで行われていた八位、九位の戦いに決着が着いたらしい。
勝者は八位のプレーヤーだった。
「次だね、リリィ!」
「おう! やれるだけやってくる」
少し緊張した面持ちのリリィだが、気合いは十分らしい。
司会がリリィと玄武をリングに呼ぶセリフを述べた。
リリィはそれと同時にリングに向かって歩いた。
〇
開始と同時に響く金属音。
リリィの大剣が空を切り、玄武の双剣は受け止められる。
「やるねぇ」
玄武は余裕の表情で見た目にそぐわぬ早業を繰り出す。
仄かに香るアルコールの匂いが、彼が酩酊状態だとわかった。
その上でスピード、パワー共にキレのある動きを見せているため、リリィは顔が引き攣った。
「"常闇"、"後光"」
玄武がそう呟くと双剣が片方づつ魔力を帯びていく。
片方は禍々しい影を、片方は神々しい光を纏い、そして、玄武が「"エアーカッター"」と双剣をクロスに振り下ろした。
影と光は交わり、光を増し、どちらも負けじとパワーを放つ。
「"要塞ノ型"」
リリィがスキルを発動させたが、その凄まじいパワーに後ろへ押し込まれる。
少し体勢を崩したリリィだが、何とか耐えきれた事に束の間の安堵を覚えた。
そして、体勢を立て直し玄武に攻撃を仕掛けようとした時、ふと目の前から彼の姿が無くなっていることに気づいた。
「お嬢ちゃん、油断は禁物だよ」
玄武は既にリリィの背後を捉えていた。
二本揃えて横に振り払われる双剣。
それは、リリィの無防備な脇腹を抉り体を弾いた。
「チッ!!」
リリィはその場で悪態ついて痛みを誤魔化す。
その様子を、玄武は腰に下げた酒瓶を飲みつつ笑っている。
「お嬢ちゃん、強いね〜……早く終わるかと思ったけど、なかなか骨が折れそうだよ」
「バカにしやがって!!」
「おぉっと、失敬、口が過ぎたよ。まぁ見ての通り酔っ払い故口が滑る滑る」
はははと笑う玄武は、再び双剣を構えた。
「させるか!! "アイスソード"!!」
リリィは玄武に飛び掛り、氷を纏った大剣を全力で振り下ろす。
その力は玄武の足元まで伝わり、地面に亀裂を走らせる。
玄武は大剣を暫く双剣で受け止めていたが、リリィのアイスソードの効果により双剣に霜が降り始める。
霜は瞬時に氷になり広がり始めた。
それを確認した玄武は大剣を受け流し、距離をとる。
「まだまだ!! "天誅"!!」
リリィはそう言って地面を殴打する。
地面は割れ、玄武の足元を崩した。
「おっとっと」
玄武はふらりとよろけて簡単に体勢を崩した。
リリィは強く地面を蹴り、玄武に近寄る。
玄武は受け止めようと構えを取ったが、リリィが予想していたとばかりに「"剣舞"」を発動させた。
スピードの上がったリリィは素早く体を捻り、真正面から下方へ体勢を沈めた。
そして大剣を地面から振り上げる。
見事に不意を付かれた玄武は上方へ弾かれた。
玄武はその反動のまま一回転し、地面に着地する。
「いたた……お嬢ちゃんキレがよくなってきたね」
玄武はどこか嬉しそうにそう言った。
「"宵闇"、"一筋ノ光"、"幻影"」
玄武の影が伸びる。
その影はリリィの足を掴み離さない。
慌てるリリィ、一瞬玄武から目を離してしまう。
玄武はそんなリリィに双剣を構えて上空から迫る。
リリィがそれを受け止めるため大剣で自身を覆うが、上空から迫っていた玄武が消えていた。
動揺するリリィ。その前方から、光の刃が空を切り裂き向かっていた。
「ヤバッ……!」
自分が先程見せた技を玄武が自分の持っている技で再現したようだ。
光の刃は目にも止まらぬスピードでリリィの腹に切れ目を入れる。
「……アイツは、どこ……?」
リリィがハッと背中を振り返る。
「いない?」
玄武の姿を捉えられず焦りを見せるリリィ。
その背中にまた刃が迫った。
無防備なところを突かれるとダメージは思ったより大きい。
「ぅあッ!ぶ…… "ブラッド・ヘムンド"……!!」
リリィは苦し紛れに奥の手を使わされた。
暫くの間、何度も何度迫る光の刃に抵抗してみるが、それは凡そ人が捉えられるスピードをしていない。
どこだ、不味い、リリィの焦りはどんどん体勢を崩しはじめた。
同時に脇腹を刃が掠る。
「グッ……! ちくしょう! "顕現せよ、弁慶"!」
リリィの言葉に黒い影が光の武器を纏って現れる。
揺れる大地。その巨体がしっかりと地面に足をつけた。
弁慶は太刀を手に取り、光の刃からリリィを守るように振り払う。
そして、その先にいた玄武を目敏く見つけ、大きな太刀を振り下ろした。
光で姿を見えなくなしていた玄武は、弁慶の太刀を受け止めるため双剣を構えたが、力が強く押し返される。
「うーん……凄いね、召喚? 君、戦士だよね?」
玄武のヒューと言うふざけたような口笛がリリィを苛立たせた。
「やっと、見つけた……! "リミッターロスト"!」
リリィの体を紅いオーラが漂い、湯気のようにゆらゆらと空へ消えていく。
「覚悟しろ!! "七宝太刀千罪咎"」
リリィの周りに千の刃が漂う。
全ての刃は玄武を捉えて発進した。
玄武は双剣で薙ぎ払うが四方八方から迫る刃に対応しきれない。
さらに、リリィの背後にいた"弁慶"も太刀を振り下ろす。
幾千の刃が玄武を襲い、とうとう地面に膝を付けた。
「マズイね……」
そう呟いた玄武の頭上にリリィと弁慶の刃が迫っていた。
「"解除"!!」
リリィは大剣を振り下ろした。
それに合わせて弁慶も振り下ろす。
リミッターロストにより一時的に限界まで跳ね上がっていたステータス。
玄武に与えられたダメージを倍増した力。
それらは、地面を唸らせ、爆風を起こし、観客席にいたプレーヤーにまで影響を及ぼす。
さらに、弁慶の力も相まって地面が亀裂を走らせ、大きな溝が玄武を通り越して街の方へ走っていった。
玄武はギリギリでダメージを軽減させるため身を翻したが、それでも力が強すぎてその場に倒れる。
司会が唖然としたまま「リリィ選手の勝利、か?」とリリィを見る。
リリィはあまりに強い力を扱いきれず、体に負荷がかかったのか玄武と同様倒れていた。
「おおっと!? これは、まさか……両者引き分けです!!」
司会が驚きを隠さず声を張り上げる。
観客席は動揺が広がっている。
こうして、リリィ対玄武の闘いは終わりを告げた。
闘いで生み出された亀裂や影響は、二人が強制的にリング外へ帰還させられたことにより修復される。
リリィは控え室で少しの間意識を失っていたが、ハッと意識を取り戻す。
そして控え室を見渡して自分一人だと認識する。
「負けた? 勝った?」
頭にハテナを浮かべるリリィ。
コンコンと扉を叩く音がして「はーい」と声を出すと外から先程まで聞いていた緩い声が聞こえた。
「リリィくん、私たちは引き分けになったみたいだ」
玄武はそう言ってモニターに指をやる。
そこでは先程までのリリィたちの戦いが再放送されていた。
「おっさん、強いな、やっぱり」
「そりゃ君より長いんだから、当然だろ?」
「でも次は負けない」
「おじさんはもう戦いたくないね〜それより呑もうじゃないか」
「あたし未成年だし。呑みすぎ」
「それは、残念だね〜。酒は神の飲料と言うだけあって絶品。このゲーム内で飲むとどれも甘くてスっとフルーツの匂いがするんだよ」
「おっさん好みの味に感じてるだけじゃねーの?」
呆れたリリィは、次に始まるフラウの試合をモニターで見ることにした。
玄武は床に座って酒を煽り始める。
フラウの試合が始まった。




