第二十六話 黄金の洞窟
次の日二人は闘技場の下見に来ていた。
「やっぱ一番人が多いな」
「そうだね〜」
二人はそう言って闘技場の中を歩いている。
闘技場は円形で、石の煉瓦が積み重なってできている。
よく映画や漫画で見るコロシアムに似せて作られていた。
中に入るとリング全体を映す映すモニターが設置しており、今もプレーヤー同士が激闘を繰り広げているのが映し出されている。
「すごいねー」
フラウはそう言ってモニターを食い入るように見ていた。
「のんきしてる場合じゃないぞ、あたし達もあそこに行くんだから」
リリィはニヤリと笑ってフラウに告げた。
するとフラウはうーんと考え、眉尻が少し下がる。
「なんか怖いかも……」
「そうは言っても出るって言っちゃったからな、気合い入れて行くぞー! 出るからには優勝ただ一つ!!」
「そうは言っても今回私達は優勝と関係ないんだよね? 余興だし、勝ち抜き戦に出場するわけじゃないから」
「わかってるって! 気持ちだけ優勝取りに行く勢いでってことだよ」
「私はあんまり戦いたくないや〜」
消極的なフラウはそう言ってあははと笑う。
そんなフラウにリリィは「じゃあ」と話を持ちかけた。
「どっちが相手に勝てるか勝負しようぜ! 相手に負けた方は、学校の近所に最近できたワッフルを奢るってことで!」
「おぉ! いいね〜! 食べてみたかったんだ〜!」
「アイス付きだぞ!」
「やる気が出てきたかも!」
「ははっ現金なヤツめ!」
二人はそう言って笑い合った。
すると、そこに「楽しそうだな」とお鈴がやってきた。
「お鈴さんこんにちは〜!」
二人が元気よくそう言うとお鈴も挨拶を返す。
そして、改めて二人に感謝を述べた。
「二人とも来てくれたんだな」
「約束しましたからね」
「本当に助かるよ。他のプレーヤーも集まってきているらしい。今やっている試合は前予選なんだ」
そう言ってモニターを示すお鈴。
二人は「そうだったんですか?」と驚きの顔をする。
「あぁ思いの外応募者が殺到してな、皆上位プレーヤーに興味があるらしい。残るのは実力者だから二人とも油断は大敵だぞ」
そう悪戯っぽく笑うお鈴に二人は改めて緊張した。
それからお鈴はまだ話し合いがあると言ってどこかへ向かう。
残された二人は暫くモニターを観戦したあと、自分たちも少しでも強くなるため、ロームの近くにあるダンジョンに向かうことにした。
「今度のラスボスはドラゴンらしい」
「どんな攻撃なんだろうね〜」
「ドラゴンって言うからには破壊力は高そうだよな」
「新しいスキル手に入るかな?」
「だな、楽しみだ!」
二人はそんな話をしながら砂漠を進んだ。
砂漠は砂竜が多く出没するため、リリィは大きくなったフラウの背中に乗せてもらう。
フラウはリリィを落とさない様ゆっくり歩いた。
〇
ダンジョンに入った二人は壁も床も全てが黄金で出来ていることに驚いた。
そして、宝物が山積みになって壁を作っている。
暫く湧いてくるモンスターと戦っていた二人だが、終わりの見えない道に苦戦する。
ふと、リリィは呆れ顔で壁を見る。
「こんなにあるなら、一つぐらい盗んでもバレなさそうだな」
「えっ! ダメだよ!」
「フラウは真面目だな〜どうせ電子で出来た偽物なんだから、手に持ったら消えるとかそんな感じじゃねぇの」
リリィがそう言って試しに一つ手に取る。
キラキラとした大きな宝石が嵌った王冠だ。
「どう? 似合う?」
「本物みたいすごいね〜」
そうして、二人がふざけて被って遊んでいると、大きな地面を揺れが発生した。
「な、なんだ?」
「か、壁が崩れるよ!!」
慌てて避けようとした二人だが、再び発生した揺れに足が取られて転けてしまう。
「フラウ大丈夫か!?」
「リリィも怪我してない?」
二人は特に怪我のないお互いの姿を視界にとらえてホッとしたのも束の間、フラウが目を大きく見開いた。
「リリィ!! 後ろ!!」
フラウの声に「えっ」と振り返るリリィ。
その背後には黄金に輝くワニのようなドラゴンが佇んでいた。
ドラゴンはリリィの頭に乗る王冠を捉えて目を血走らせた。
そして、グォオオと唸りを上げて黄金の山を泳いでリリィに迫る。
「"ファイアボール"!!」
フラウは向かってくる巨体に向けて火の球を二回、三回と放った。
しかし、ドラゴンは止まる事なくリリィに向かって突進する。
「"要塞ノ型"!!」
慌てたリリィは大剣が弾かれて黄金の山に叩きつけられる。
ドラゴンは大口を開けてリリィ向かって飛び込んだ。
「"ウルフメイク"! "グロウボディ"!」
フラウは狼の姿になってドラゴンの尻尾に噛みついた。
グッと後ろに引っ張られるドラゴン。
雄叫びを上げてジタバタと前進しようと体を動かしたが、フラウは放さなかった。
「"ファイアソード"」
リリィは体制を整えて一気に攻め込んだ。
大剣はドラゴンの顔を大きな切り傷をつける。
ギャアァアとドラゴンは声を上げた。
しばらくのけ反っていたドラゴンだが、新たに姿勢をリリィに向けて整えた。
そして、大口を開けてその中央に光が集まる。
「"ブラッド・ヘムンド"!!」
リリィの叫びと共に集まった光は一直線に放たれた。
そしてその強い光はリリィの体を包み白く染めていく。
「リリィ……!!」
フラウは慌ててドラゴンの脇腹に身体をぶつけた。
ドラゴンは大きくしなり、黄金の山に巨体をぶつける。
「だ、大丈夫……!!」
リリィは光線の中で耐えていた。
大剣・鬼面の効果でどうやら生き残ったらしい。
それでも、リリィの服がチリチリと火の粉をあげている。
フラウはホッと胸を撫で下ろしてドラゴンに向かい直した。
「"解除"!!」
リリィはそう叫ぶや否やまた迫り来るドラゴンに飛び込んでいく。
大剣を振り上げるとリリィの体はオーラに包まれ始めた。
それに合わせて、フラウも「アーティラリー・ブラスト"!」と叫んだ。
ドラゴンは真正面から自分の攻撃力の何倍もの力を叩きつけられ、横からレーザービームがぶつけられる。
グォオオと最後の声を上げると、そのまま電子となって消え去った。
その途端、黄金のダンジョンは地響きを鳴らして天井から崩れ始める。
「ぅえっ!! 待って待って……!! は、早くリリィ、捕まって!!」
フラウは慌ててリリィに駆け寄る。
リリィは片手を上げてフラウの毛束を適当に掴んだ。
そのままフラウは全速力で駆け出した。
しかし、出口がどこかわからない。
このまま生き埋めになるのか、とフラウは諦めかけたが、ふと視界の端に光を放つ魔法陣が見えた。
フラウは一目散にそちらに走り込み、その後、黄金のダンジョンは完全に崩れ去った。
恐る恐るフラウは目を開ける。
そこはさっきとは打って変わって静かで何も無い空間だった。
中央には、ボスモンスターを倒した時に現れる宝箱が置かれている。
「あっこんなところに!!」
「し、死ぬかと思った」
フラウは人型に戻り、リリィに肩を貸して歩いた。
そして、宝箱の前まで来ると勝手にそれは開いた。
いつも通り"ピロン"と機械音が響く。それは、アイテム欄にも何か追加している。
フラウはウィンドウを呼び出そうとしたが、疲れ切った様子のリリィを見て、苦笑いを浮かべる。
「スキルは……帰ってからにする?」
そうして、二人は無事ロームに戻ることができた。
リリィは国に入った瞬間に全てが回復され、焦げた服も元通りになった。




