第二十五話 ショッピング
ロームは王国をモチーフにして造られている。
国の中央には闘技場が日夜開かれており、腕に自信のあるプレーヤーが挑戦している。
国内は武器屋や商人のNPCが多く毎日違う商品を扱うお店もあった。
砂漠のど真ん中にあるため、日差しが眩しいぐらいに差し込んでいる。
それらが石の煉瓦に反射し、歩いていると目が痛くなるほど眩しい。
また、国の周りにいるモンスターはイベントでも出会った砂竜を中心にドラゴンのような見た目のものが多かった。
フラウとリリィは"お祝い"まで街を探索する事にしていた。
今は防具屋を覗き、めぼしいアイテムが無いか探している。
「プレートアーマーを買う!」
「私はスノーウルフのスタイルに合わせて、白いローブにしようかな〜あ、見て! これ月の装飾が可愛い!」
「むっ! あたしも可愛いのにしようかな……」
「こんなのはどう?」
「ふぇ……!? そ、それは際ど過ぎるだろ!」
そんな会話をしつつ、二人はショッピング気分で防具を選んでいる。
暫くあれこれと手に取って楽しんでいると、店の入口が騒々しくなった。
「なんだろう?」
フラウが気になって見に行くと、そこには幼い子供でありながら、一部では"独裁者"と呼ばれている"ライラ"がいつもの無表情で店をふわふわと浮遊している。
フラウは驚きリリィを呼んだ。
リリィも駆けつけ、野次馬に混ざり、ライラが何を購入するのか伺う。
ふと、ライラはチラリと野次馬に視線を向けた。
「……!!」
すると、ライラは眠そうな目を一瞬輝かせ、ふわふわと道を外れ始める。
そして、フラウの前までやって来た。
「ん? な、何?」
フラウは驚き、視線を合わせるためにひとまず屈む。
「動画で見た、わんわん」
「はぇ?」
「でっかいわんわんになる子、だよね」
ぽかんと口を開けるフラウに、ライラは不安気な視線を泳がせた。
「……違うの?」
「そ、そうだよ! 私がわんわんだよ!」
フラウは潤む大きな赤い瞳に負け、慌てて「ほら、触っていいよ〜」と腰の尻尾をフラフラ揺らしてライラに見せる。
「……! フワフワ……えへ、私もね、お家でわんわん飼ってるんだよ! お姉ちゃんの色と同じ黒い犬」
「そうなんだ〜!」
「お姉ちゃん、私の家のわんわんなの?」
「え? いや、えっとお姉ちゃんは別のわんこだよ〜」
「……そうなの?」
悲しげに眉根を寄せるライラ。
フラウはそれを見て、なぜか罪悪感で胸を押しつぶされる感覚になる。
そして、そうそうと手を叩いた。
「で、でも、もしかしたら、お姉ちゃんはライラちゃんのワンコと知り合いかもしれないね!!」
「ホント?」
「お姉ちゃんもワンコ会議に出てるからね!!」
フラウの言葉に花が咲いたような表情をするライラ。
フラウは額に汗を感じつつ、ライラに笑みを向けた。
そんなフラウを、隣で見ていたリリィは肘で小突く。
「だってだって!!」
「……適当言ってると後で痛い目見るぞー」
「うぅぅ……」
リリィの警告を受けたフラウは耳を項垂れさせた。
「じゃあまたね、ライラちゃん」
「……ん。お友だちになろ」
「えっ!! いいの?」
「うん。今度はわんわんの姿見せてね」
「うん! まっかせて! 背中に乗せてあげる!」
フラウはそう言ってライラからフレンドコードを受け取った。
初めてのリリィ以外のフレンドに、フラウは顔が緩む。しっぽもこの時ばかりは激しく揺れていた。
ライラと別れた二人は次にロームで流行っているというハーブティーのお店に向かう。
店内は甘酸っぱい匂いが充満しており、香りだけでも癒された。
「リリィ何する?」
「あたしはレモンカミツレ茶にする〜」
「私はどうしよっかなあ、迷うなぁ〜」
「フラウは優柔不断だからなー日が暮れる前に決めろよー?」
「むぅ……そんな迷わないよぉ」
そう言いつつ、結局フラウが決めたのは、リリィのハーブティーが運ばれてきた時だった。
それをリリィは笑いつつ、ハーブティーに口をつける。
レモンのスッキリとした味わいと、ローズヒップの甘みが口に広がり、なんとも穏やかな気持ちになった。
二人は一頻り談笑に花を咲かせ、やっと店を出たのはもう夕方だった。
昼間とは違い、ロームの夜は何処となく大人な雰囲気が漂っている。
「他に行きたいとこある?」
フラウがリリィに声をかけると、リリィは「うーん」と地図を広げた。
すると、遠くの方で言い争う声が響いてきた。
驚いた二人は騒がしい方向へ視線を向けると、野次馬の中央に暴れている男がいた。
そして、その男に注意した男は、フラフラとした出で立ちと酒に酔っている雰囲気を醸し出していた。
「酔っぱらいの取っ組み合いか?」
「ゲームの中のお酒も酔いが回るの?」
「さぁ? 雰囲気で酔う奴もいるしな、あとは、ゲームする前に呑んでたとか?」
「ふーん……じゃあ私たちは呑んじゃダメだね〜」
「まぁ、未成年だしな」
リリィはそう言って地図に視線を戻したが、フラウは気になるのか、野次馬に紛れて二人の男を眺めている。
リリィが「危ないぞ」と声をかけようとしたが、酔っぱらいの片方を見た時、ハッと目を見開いた。
「フラウ、あの酒瓶持った方、イベントで上位だった"玄武"とか言う男じゃないのか?」
「そうなの?」
「動画で見た時は戦ってたけどあの酒瓶腰に巻いてたし、なにより、あの麻の旅装束とか双剣は覚えてるぞ。あの双剣、片方ずつ属性が違うらしくって珍しいなって」
「珍しいものなの?」
「あぁ、あの双剣、スキルの属性が真反対になるんだ。普通だと相殺し合うはずなのに、あの玄武とかいう男はそれを組みあわせて使っていた」
「へぇ器用なんだね」
フラウの単純な回答にリリィは空返事を返した。
このゲームの特徴で、癖のある武器は、何故か見た目も変わっていることが判明していた。
したがって、それらを所持しているということは、自ずと上級者だと判別できる様になっている。
リリィは、玄武が双剣を抜くことを期待し、野次馬に紛れていたが、とうとう剣は抜かなかった。
なぜなら、もう片方の男が玄武の素手の殴りで伸びたからだ。
玄武はそんな男を見て「はっはっはっ」と楽しそうに笑っていた。
「いやぁ……ご迷惑をかけたね〜。彼は私が宿に連れていくとするよ。酒は飲んでも飲まれるなって言うのに、だらしのない男だなぁ」
玄武は、フラフラとした足取りで野次馬に近ずき、ペコペコと頭を下げて立ち去る。
一見、どこにでもいるようなオジサンだったが、その実力は謎のままだった。




