第二十四話 ローム
二人は危機に陥っていた。
「ここで死んだらまた出戻りなんだよね」
「大丈夫、ここを乗り越えればポーションもまだ残ってるから……死んでたまるか!!」
リリィの叫び声は薄暗い洞窟で反響する。
雄叫びと共にモンスターの群れに飛び込んだリリィ。
それに続くように、フラウも狼の姿でモンスターの群れに飛び込んだ。
そして、目の前に見えたのは洞窟の果て。
大きな石の門が二人の前に佇む。
中から隙間風の音が"ヒューヒュー"と聞こえている。
「行くぞ!!」
「援護は任せて!!」
二人は中に飛び込んだ。
そして、視界いっぱいに広がったのは棘の着いた蔦。
壁にも天井にも、それは這うように存在していた。
その中央に居たのは大きな花。
中央が口になっており、幹から生えた葉っぱが手のように蠢いていた。
「この蔦はあのモンスターの足って訳か」
「燃やすね! "ファイアーボール"」
フラウがそう言って二人を狙う蔦に火の玉をぶつけた。
しかし、その炎は広がることがなく、その場で爆風とともに消え去る。
「はれぇ!?」
「一筋縄ではいかないってことだな」
「うーん、困ったね〜」
「私が切り開くから、フラウはその後ろに続いて! あの本体にたどり着ければダメージも与えられると思う!! "ブラッド・ヘムンド"」
「わかった!!」
リリィは大剣で襲い来る蔦を切り伏せつつ、道を切り開いていく。
フラウはリリィが動きやすいように死角を潰していく。
「"剣舞"」
「"ウルフメイク"」
二人が一気に本体に距離を詰める。
そして、本体の眼前に躍り出た。
「"解除"!!」
「"アーティラリー・ブラスト"!!」
二人が本体の眼前でスキルを発動させる。
植物のモンスターは、悲鳴のような金切り声を上げて大きく体を仰け反らせた。
「やったか!?」
「あれ、光ってるよ!?」
植物のモンスターは蔦を自身に集め足と手が生える。
そして顔の花は枯れ、ギョロりとした瞳が現れた。
「第二形態!?」
植物のモンスターは体に光を集めた。
すると、HPがみるみる回復し、そして、怒りの声を上げて二人を睨んだ。
「リリィ、危ない!!」
フラウは大きな腕がリリィに迫っていたことを間一髪で知らせる。
リリィは「"要塞ノ型"」と唱えてそれに耐えたが、それでも勢いよく弾き飛ばされた。
駆け寄ったフラウは人型に戻り、リリィに手を差し出しつつ声をかける。
「大丈夫?」
「なんとか……でも大分削られたかも」
心配そうなフラウに、リリィは眉根を寄せて笑う。
更に追撃を加えようとするモンスターを視界に捉えたフラウは、リリィを庇う様に前に立ちはだかった。
「フラウ!? 避けろ!!」
「"ヘルススタイル"!!」
フラウの足元に大きな魔法陣が広がり、その体が植物のモンスターと同じぐらい大きくなる。
さらに、頭が三つに別れ、瞳は深い紅色を放つ。
「はへ!? フラウも第二形態!?」
リリィの驚きを背に、フラウの三つの頭は大きく口を開いた。
「"アーティラリー・ブラスト"!!」
三つの頭から三本のレーザーが放たれた。
一瞬、洞窟の全ての音が聞こえなくなり、時が止まったような静寂が広がった。
次には植物のモンスターの悲鳴が部屋全体に響く。
電子となったモンスターを前に、フラウは元に戻る。
「やったー! これで先に進めるね、リリィ!」
「お、おう……フラウ……」
「ん? あ、そうそう前に言ってた"ホライズン"で、ダンジョンに入った時に手に入れたんだ〜! 言うタイミングがなくて、そういやリリィに伝え忘れてたね」
「そうか、スキルね……てっきり進化したのかと」
「まさか! 私はモンスターじゃないから〜そんなことできないよ〜」
「……だ、だよな」
「あれだと攻撃が三連攻撃になって、ステータスも狼よりパワーアップするんだよ! でもMPの消費激しいかも……あと大きいから動きにくくって」
はにかむフラウに、リリィはから笑を送る。
「とりあえず、進むか」
「ここ抜けたら"ローム"なんだよね!!」
フラウが「はやく!」とリリィを呼ぶ。
リリィもそれに続いて魔法陣に乗り込んだ。
○
降り立った場所は砂漠のど真ん中。
そこには、煉瓦で出来た城壁とそれを囲うように水路が敷かれている国が見えた。
「すげ〜アラブの王国みたい」
「なんかドキドキするね〜」
二人は怖々城門に続く石の橋を歩く。
橋にはあちらこちらに露店が開かれており、旅人風なNPCが歩いている。
怪しげな占い師も店を開き、通行人を手招きしていた。
好奇心にくすぐられて近寄るフラウを、リリィは引っ張って統制しながら進む。
「あ、そうそう、私ここについたら、一度武器屋とか防具屋とか見たかったんだ〜」
「ここは珍しいアイテムもあるらしいから、あたしも見てみたいかも」
「じゃあ一番初めに見るところ決まりだね」
「そうだな! お宝があるといいな!!」
二人は門を潜る。
そこはいつもお祭り騒ぎをしているかのような喧騒があった。
国の中央では今日も闘技場が開かれているのか、元気な司会の声が国全体に響いている。
その喧騒に当てられた二人は楽しげに目を輝かせた。




