第二十三話 最新情報
フラウとリリィはスタットの広間に来ていた。
広間ではイベントの残り香があちこちに感じられる。
中央のモニターには、イベントでの出来事を簡易なPVにしたものが流れていた。
当然、フラウの暴れっぷりやリリィの戦いも映像化されて残っている。
「なんか、派手に取り上げられたなあ」
リリィが感心して言うと、フラウは同意する。
「そうだ、特別なスキルってもう私たちに渡されているのかな?」
「そうか、すっかり忘れてた! 見てみようぜ!」
二人は笑みを浮かべながらそれぞれの画面を動かした。
「あった! リリィ、あったよ! でもこれってどうなの?」
「あたしも見つけた。うーん……それぞれの戦闘スタイルに合わせてのスキルになっているみたいだな」
二人はお互いの画面を見せ合う。
フラウのスキルには"アーティラリー・ブラスト"、リリィは"ブラッド・ヘムンド"と書かれていた。
「ブラスト……大砲みたいなやつ?」
「あたしは血って入ってるから不吉な名前だなあ」
「とりあえず試し打ちに行こうよ!」
「じゃあ東門の丘で試す?」
「人の少ないところ探そう!」
二人は早速東門へ向かった。
しばらく歩くと、丘から森に姿を変え、丁度いい大木が二人の視界に入ってくる。
「あの木に向かってやってみるね!」
フラウが意気揚々と大木の前に立つ。
「"アーティラリー・ブラスト"」
スキルを発動させ前方に杖を振り下ろした。
すると、凄まじい轟音と共に大木は根元から抉られ、その後ろの森の木々も薙ぎ倒し、真っ直ぐレーザービームが放たれた。
あまりの衝撃に二人して体を硬直させた。
しばらくの静寂ののち、先に口を開いたのはフラウだ。
「つ、強いね、このスキル」
「そ、そうだなぁ、さすがイベントのギフトだよなぁ」
それぞれ空笑いを響かせつつ、額に冷や汗を流した。
まさか、ここまで強いスキルが上位に十人に配られたとなると、ゲームバランスがおかしくなるのでは無いか? と心配になる。
「リリィのはどんな感じ?」
「そうだな、じゃああっちに向かってやってみるよ」
リリィがそう言うとフラウが掠めた反対側、まだ木々が生い茂る方向へ体を向けた。
「"ブラッド・ヘムンド"」
その言葉に反応しリリィの体にはなにやらオーラのようなものが漂い始めて、しかし、すぐにそれは消えた。
そして、それ以上は何も起こらなかった。
「なんだ? どんな説明だったっけ?」
リリィが再び詳細を開くと"攻撃ダメージが蓄積し解放と示せば倍にして相手に返す"と表記されていた。
「うーん……よくわからないな。フラウ、ちょっとその杖で叩いてくれ」
「分かった〜えいっ!」
フラウが狼の杖でリリィを軽く小突く。
そしてリリィも大剣の柄の部分でフラウを小突いた。
「"解放"」
すると、フラウが驚きの声を上げた。
「HPがいつもより減ってる!」
「ほんとだ! そう言うことか! 要は、カウンターの一種ってことだな」
「すごいねーこれだといつでも好きな時に使えるねー!」
二人は手を合わせて喜んでいた。
そこへ、見知った和服の女性が現れる。
「ランクインおめでとう」
そう言って近づいてきたのは、お鈴だ。
二人は笑顔で駆け寄る。
「あの時は対戦ありがとうございました」
「お鈴さんも四位おめでとうございます!!」
「お鈴はどんなスキル貰ったんですか〜?」
興奮気味な二人にお鈴は含み笑いを浮かべ「秘密だ」と告げた。
そこへもう一人、二人とお鈴の間にボタンが舞う様に降り立つ。
「あんたたち、離れなさい! お鈴ねぇ様に馴れ馴れしいのよ!! たかが一度ランクインしたからってちょーしにのらないでね!」
キーキー響く声でそう言い、リリィとフラウを睨むくノ一の少女。
お鈴は「そんな所にいたのか」と半ば呆れている。
「お鈴ねぇ様!! 今日もお美しいです!! こんなヤツら放っておいて、私とダンジョン行きましょうよ」
「まぁ落ち着けボタン。今日は何もただ話に来たわけじゃないんだ。二人にも伝言を伝えに来た」
お鈴がそう言いボタンを落ち着かせて二人に向き合う。
「近々新しいエリアが開かれるそうだ。そこに繋がるのは"ローム"って街なんだが、新エリア解放前にお祝いをするらしく運営が人を集めてくれってことだ」
「そこで」とお鈴が続ける。
「お祝いっていうのが、ロームにある"闘技場"で格闘大会を開くって話だ。参加は自由なんだが、今回のイベント上位に進んだプレーヤーには積極的に参加してもらいたいんだ」
都合はどうだろうか? そう締めくくったお鈴に二人は疑問を浮かべる。
「どうしてお鈴さんにその話が?」
「私は今回、解説席で行事のサポートをしてくれないかと依頼が来たんだ。その一環で上位の知り合いに声をかけて回っている」
「あ、そうなんですね〜!」
「正式な発表が今日中にプレーヤー全員に知らされるはずだ。そういう事だから少し協力して欲しい」
お鈴が言い終わると、隣でお鈴の腕に絡みつきつつ聞いていたボタンが睨む。
「お鈴ねぇ様が直々に声をかけに来たんだから、絶対参加しなさいよ! まさか、負けるのが怖いとかないわよね?」
不敵な笑みを浮かべるボタンを横目に、二人は苦笑いを浮べる。
二人には特に参加できない理由もなく、二つ返事で答えた。
「ありがとう、助かるよ! 闘技場は勝ち抜き戦だが、上位のプレーヤーは余興程度に戦ってもらうだけだ。だから、勝ち残ったプレーヤーか、上位のプレーヤー同士でしか戦わなくていい。参加表明はこちらで伝えておくよ」
「覚悟なさい、あんた達! 私も参加して次こそ勝ってやるんだから!」
「とりあえず、二人は"ローム"を目指して欲しい。そこでまた会おう」
そう言い残しお鈴とボタンは共に立ち去る。
二人は「楽しみだねー」と気楽に話し合った。
「こうとなれば、何がなんでも"ローム"に向かわなくちゃな」
「そうだね、リリィ。どんな所なんだろう?」
「さぁ? また事前に情報仕入れておくか」
「私もネットで調べておくね〜」
二人はその後しばらくモンスターを倒していたが、一旦ログアウトすることにした。
今日はゲームをあまり長くできなかった。
なぜなら、明日二人の教室で小テストがあるからだ。
成績が落ちたらゲーム所ではなくなるので、二人は気合を入れて復習を始めた。




