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第二十二話 憤怒の女

 イベントも終盤、既に順位にこれ以上の変動が無く、フラウとリリィは安全地帯で身を隠していた。


「イベントが終わるのもあと二時間程度だね」

「このまま穏便に済ませたいところだが……」

「大丈夫だよ〜」

「そうだな。だが、急に順位が変動してもすぐ動けるように、寝るんじゃないぞ」

「分かってるって〜」


呑気に欠伸するフラウに、リリィは心配そうに頭を擡げる。


「あたしちょっと周り見てくる」

「一人で行くの?」

「フラウは疲れただろうから、ここで待ってて」

「うん、気をつけてね〜」


 リリィは落ち着かない様子で立ち上がる。その背中をフラウは見送った。


 リリィは周囲を警戒するように、木々の間に身を潜めて動いた。

あまりフラウの居る離れすぎると危ないのを自覚しつつ、少し離れた崖の上に立つ。


ふぅ、と一息つくリリィ。

そこへ、ガサリと草を踏む音がした。


 リリィが武器を手に取ると同時に、くノ一風の少女が躍り出る。


「誰だ!!」

「見つけたわよ!!」


少女はそう言って短刀を構えた。


「私の名前はボタン! お鈴ねぇ様を討ち取ったのは貴方達よね!!」

「お鈴……姉様!?」


リリィの驚きも束の間、ボタンは短刀を持ってリリィの首元を狙い刃を振り抜く。


「あっぶね……!! たんま! 今じゃなきゃダメなのか!?」

「当然、今勝負をつけなければ、私がねぇ様に並べないじゃない!!」


ボタンはそう叫び短刀で次々にリリィに対し攻撃を繰り出した。

リリィも負けじと大剣を盾に応戦する。


しばらくの攻防、そして二人の刃が混じりあった時、派手な金属音を立てて二人の距離が開く。

リリィより一歩早く、ボタンは術を唱えた。


「"東雲・朝霧(しののめ あさぎり)"」


すると、ボタンを中心に濃い霧が広がっていく。

幻術で生み出された霧だ。

霧はまとわりつくようにどんどん広がり、リリィの視界を狭くさせる。


このままではボタンの独壇場となる。

焦るリリィに、ボタンはさらに攻撃を加えた。


「"忍術壱ノ段(にんじゅついちのだん)雷撃(らいげき)"!!」


ボタンがそう言い終わると、霧の中を雷が伝ってリリィを掠めた。

それらは霧を伝って余波を残しつつ霧の中を巡る。

そして跳ね返ってさらにリリィに攻撃を加えた。

四方八方から飛んでくる雷に、リリィは大剣で己を守る以外できなかった。


「こんな……こんな弱いやつに、お鈴おねぇ様が負けたなんて……!! これで終わりよ! "忍術一ノ段(にんじゅついちのだん)鎌鼬(かまいたち)"」


ボタンはそう言って短剣を構え、リリィに迫る。

どこからか現れる刃にリリィは奥歯を噛み締めた。


「ま、負けてたまるか……!!」


リリィはそう言って大剣を構え、呼吸を整える。


「くそっ! "顕現せよ弁慶"!!」


リリィの声に反応し、肌を痺れさせるような緊張感を発した。

異変を感じたボタンは攻撃の手を止め、その場に留まり警戒する。


ボタンが次に見たのは、リリィの背後に大きな黒い影だ。

それは霧の中であるため、はっきり見えない。

だが、確かに存在感を放っていた。


さらに、リリィの周囲に光を帯びた七つの武器が現れた。

大きな影はその中の一つ"太刀"を手にし、リリィの動きに合わせて振り上げる。


「"七宝(しちほう)太刀千罪咎(たちせんざいきゅう)"」


リリィと黒い影は霧の中、一太刀の剣を振り下ろした。


何もない空間から、幾千の光の刃が霧の中を駆けて空気を斬る。


それにより、幻術で生み出された霧は斬撃により切り開かれた。

もう一太刀振り払うと再度生み出された刃は、ボタンにも襲い来る。

ボタンはそれらを短刀で去なすが、数に気圧され徐々に体力を削られていく。


リリィは隙を見せたボタンに一気に駆け寄る。


「"天誅(てんちゅう)"!!」


リリィの大剣と黒い影の太刀から放たれた斬撃は、ボタンの後ろの地面にまで亀裂を走らせた。

そして、ボタンに振りかぶった。

ボタンは防御の体制をとったが、その力に押し切られ、地面に切り伏せられる。

ボタンは悲鳴にならない悔しげな声を腹の底から出していた。


「畜生!! 畜生畜生ッ!! ごめんなさい、ごめんなさいおねぇ様……私……」


地面に顔を擦り付けるように泣きじゃくるボタン。

その姿にリリィは眉をハの字にして狼狽えた。


「だ、大丈夫か……?」

「うるさい!! 私の想いはあんたには一生わからないのよ!! さっさと、一思いに殺ればいい!」


地面に蹲り(うずくま)つつボタンはヒステリックな声を上げる。

まるで駄々っ子だ。

そんなボタンにリリィは何とも言えない渋い顔をした。


「……もうイベントも一分もすれば終わる。別に今あんたを倒さなくてもあたしは大丈夫なんだよ。よく分からないが、えっと、何と言うか、お鈴さんによろしくな」


 リリィがそう言うと同時にイベントエリアが少しづつ電子となり消え始める。

ボタンを慰めようとリリィは前に屈むが、強く手を振り払われた。


  こうして怒涛の三日間は幕を閉じた。

フラウとリリィは無事"七位"という好成績を納められ、充実した三日間だった。


 翌日の朝、友理彩(ゆりあ)は考えていた。今度ボタンにあったらどんな顔をすればいいのかを。

そんな悩ましげな友理彩(ゆりあ)に、香瑠(かおる)はどう話しかけるべきかソワソワと落ち着きをなくしていた。

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