第二十一話 意外な訪問者
イベント最終日。
フラウとリリィはお鈴を倒した後、大きくポイントが貯まり見事"七位"に収まっていた。
「このまま動きがなかったら、目的達成じゃん!」
「お鈴さんも、あれからどうなるかと思ったけど、今四位だって! すごいね!」
「前六位だったのにな〜あたしらと戦った時もまだ奥の手ありそうだったから、早めに終わってよかったよな」
「だね〜長期戦だとまだ倒されちゃうよね」
そう言ってほっと息を吐く二人。
現在、フラウとリリィの上には、一位カナト、二位ライラ、三位グリズリー、四位お鈴、五位リーリア、六位玄武の名前が記載されている。
二人の今回の目標は"十位以内"。
そのため、後半はポイントを維持しなければならない。
二人は倒されない様に派手に動かず、できるだけ暗殺を意識して動いていた。
二人が十位以内に入れたのは、お鈴を倒したからと言っても過言ではない。
それと同じように、二人が誰かに倒されてしまうと、一気に十位以内には届かなくなる。
二人とお鈴の戦った映像が、広場のモニターで流れた時、その波に続こうと自分より強いプレーヤーに挑む人が多くなった。
そして、その対象にフラウやリリィも含まれている。
それは二人とも自覚していた。
なぜなら、明らかに前日より戦いに来るプレーヤーの数が増えていたからだ。
「いたぞ!!」
「やべっ! 見つかった!!」
リリィが慌てて撤退の姿勢をとる。
それを好機と三人のプレーヤーが追いかけてくる。
リリィはフラウのいる方向へ真っ直ぐ走った。
その間にも背中から攻撃の手は止まなかったが、極力当たらないように努めた。
リリィが向かうと、既にフラウが杖を構えて待っていた。
「"ファイアーボール"!」
「ありがとうフラウ!!」
二人が合流して体制を整えた時、追いかけてきていたプレーヤーは足を止めて剣を構える。
ファイアーボールは残念ながら避けられたが、男はフラウとリリィを見て、唇を噛む。
「チッもう合流したか。面倒だが倒すぞ!!」
「援護は任せて!」
男の後ろから現れた女の魔法使いは、フラウとリリィに向かって広範囲魔法を使った。
フラウとリリィは離れすぎないようにそれを躱す。
そして反撃の体制をとった。
「"サンダーボール"!!」
「"ファイアーソード"!」
二人は息を合わせて攻撃を目の前の男にぶつける。
男は一筋縄では行かないが、HPもかなり削られた様子だった。
「"メテオ・ストーン"」
さらにフラウが隕石を降らせると、男は避けきれず、電子となって消える。
残された魔法使いは逃げようと背を向けたが、リリィが追いつき倒す。
そうして暫く奮闘していた二人の前に、怪しげな雰囲気の男が現れる。
この男を二人は知っていた。
警戒する二人に、男は両手を上げて戦う意思はないと示す。
「よぉ、お鈴を倒したのはテメェらだよな?」
「お前は……カナトだったな」
リリィがそう言うと、カナトは頷きながら歩み寄る。
「あの狼のスキル見せてくれねぇか?」
カナトはそう言ってちらりとフラウを見る。
しかし、それに返答したのはリリィだった。
「ふん! 簡単に手のうち明かすわけないだろ!! な、フラウ!!」
そうフラウの方を見たが、フラウは「え?」と首を傾げつつ黒い狼の姿になっていた。
「っておい!! なんで変身してるんだ!」
「だって戦いに来たわけじゃなさそうだし、それに昨日モニターで全世界配信されちゃったから……これで穏便に済むならいいか〜って」
「この男から穏便な雰囲気は感じられないだろ!!」
リリィはそう言ってカナトを睨む。
カナトは笑い声を上げて「警戒すんなよ」とフラウに近づいた。
「へぇ〜ほんとに狼じゃねぇか」
「あ、それ以上フラウに近づくなよ!!」
「分かってるって。俺はアドバイスに来たんだ」
「はぁ?」
「特殊スキルは進化する、知ってるだろ?」
カナトの言葉に二人はピクリと反応する。
「ん? そっちの白熊も持ってるんだな? まだ見せてないだけってか? 出し渋るなよ」
「うるさい! 気になるから早く教えろ!」
「お前、お鈴に似てるな」
「……それは褒めての言葉なのか?」
苦い顔をするリリィに、カナトは続けた。
「進化条件ってやつがあるんだ。ただ使ってたら進化するわけじゃない。その条件が……」
そのカナトの言葉を遮るように、アサシン系のプレーヤーが数人、木々の隙間から飛び出してきた。
カナトはそれを見て不敵に笑うと、大剣を円の形に振り払う。
一瞬だった。
飛び出てきたプレーヤーは跡形もなくその場から消え去る。
驚いて反応が遅れたフラウとリリィは、唖然としてカナトを見た。
「チッよえーやつら……で、条件は"強者を倒す"こと。この場合強者ってのは、"例外"以外は大型のモンスターを指すんだが……そのモンスターってのがな"一匹で災害レベルの力"を持ったやべぇやつ。それを"一人"で倒すことだ。まぁ、これで大抵"第一進化"を遂げている」
カナトはそう言って木の幹に飛び乗った。
「じゃあな。早く強くなれよ、そんで俺と戦え」
そう言い残しカナトは風のように立ち去った。
フラウが人型に戻った後、二人は首を捻って立ち尽くす。
「なんなんだ、あいつは……?」
「いい人だね〜アドバイスくれるなんて〜」
「わざわざお喋りにくるなんて、どう考えても変なやつだろ」
「そうかなあ?」
そして、二人は自然と顔を見合わせる。
渋い顔をしているリリィに、フラウが"にへ"っと脳天気な笑顔で話した。
「いつかあの人も倒して一位になろうね!」
「ん……どっちがあいつを先に倒すか、勝負だな!」
二人はそう言い合い、お互いに「負けないから」と元気よく宣戦布告する。
そんな二人に再びプレーヤーが奇襲してくる。
次は遅れをとることはなく反応できた。
そうして、フラウとリリィは気合いを入れ直し、後半戦の戦略を立てた。




