第一話 早速ボス戦!?
目を開けるとそこは商売盛んな国の中。
"スタット"と言われ中央都市とされている所だった。
初心者のプレーヤーが一番最初に招待される国とされている。
香瑠は頭上にフラウと自分の名前が表示されているのを見て、喜色満面になる。
「うわーうわー凄い!! 本当にゲームの世界に来ちゃったよー!!」
元気にはしゃぐフラウ。
ぴょんぴょんと跳ねると直ぐに足がもつれてドタッと転げる。
「いたた……なに……?」
そう、ゲームの世界ではフラウはまだ赤子にも満たない存在だ。
直ぐにHPと言うこの世界での体力が少し減る。
「あ、そっか。私まだレベル1だから、強い衝撃を受けたりすると簡単に死んじゃうんだ」
ほへーと呑気な声を出しながら、ゆっくり立ち上がる。
歩くスピードも周囲よりもどことなく遅いような気がした。
ひとまず歩き始めたフラウは、キョロキョロと周りを見渡し、どこに向かうべきか検討をつけようとしたが、人が多く目的地も特にない。
「と、とりあえず、初心者向けの森?とかでレベル上げでもしようかな……?」
オロオロと歩き出すフラウ。
途端にドスンと何かにぶつかった。
「ふぎゃっ!!」
フラウが再び尻もちを着く。
そんな彼女を立派な赤い甲冑を来た男の人が見下ろしていた。
「す、すみません!!」
「あ、初心者の子? 大丈夫?」
手を差し出しフラウを軽々持ち上げたのはオルトと言う男だ。
このゲームを始めて早数ヶ月、なかなかのベテランプレーヤーである。
フラウはすみませんともう一度頭を下げると、オルトはいいよーと気楽に告げた。
「あ、そ、そうだ。あの、私さっき始めたばかりなんですけど、どこに向かったらいいでしょうか? その、レベルを上げたいので、初心者におすすめの場所とか……」
「君、職業は?」
「魔術師です!」
「魔術師なら東門からでた丘がいいと思うよ。モンスターも強くないし、それに魔術師の腕力でも二発当てれば倒せるモンスターばっかりだから」
「ありがとうございます!」
じゃあね〜そう言ってオルトは仲間と共に人混みに戻る。
フラウは教えてもらった情報を頼りに、東門の方へと向かった。
その間も様々なプレーヤーの姿を目にした。
猫の耳をつけている女の子や、ちょっとダークな甲冑を着た男の人等……とにかくバラエティに富んだ姿があちらこちらに存在していた。
フラウも彼らに触発され、とりあえずレベルと資金を貯めて服装をどうにかしようと決意する。
そして、東門を出た先にさっそくスライムのようなモンスターや小動物のようなモンスターを見つける。
フラウは自分の装備で持たされていた魔法の杖のような木の棒を振り回しモンスターを追いかけ始めた。
オルトに教えられた通りモンスターは二回叩けばすぐに倒せる。
しばらくそうしていると、空が暗く、夜になってきた。
夜になるとモンスターの姿も相応のものへと変貌していく。
慌てて元いた国に帰るフラウに、モンスターは追いかけて攻撃を繰り出してくる。
火の玉のようなモンスターの攻撃をギリギリで避けたフラウは自分がどこを走っていたのか分からなくなっていた。
「ど、どうしよ〜!!」
とりあえず、と近くの祠に逃げ込むフラウ。
心臓がバクバクと音を立てていた。
「こんなのきいてないよぉ」
半泣きの状態で祠の奥へ奥へと向かう。
そして、突き当たりにたどり着いた時、足元が"フォン"と音を立てて輝き出した。
「うぇ!? 何これ……!?」
次の瞬間フラウはその光に飲み込まれて行った。
〇
フラウが目を開けるとダンジョンのような場所が広がっていた。
初心者用のダンジョンなのか、モンスターは比較的穏やかで数も少ない。
「とりあえずここから出なきゃ!!」
そう言って振り返るが、先程の魔法陣はどこかに消えており、外に出られる道が閉ざされていた。
「あれぇ〜……どうしよ……」
フラウはまだ初心者だ。
レベルも先程少し上がったがまだ五に到達したばかりだった。
ダンジョンに挑戦するには心もとない数字だ。
一度、ログアウトしてみたら外に出られるかと思い、ホームに戻って改めてログインしてみたが、フラウの視界は先程のダンジョンの光景が広がっていただけだった。
「とにかく、進むしかないよね!!」
意を決してフラウは薄暗い洞窟の道を歩き始めた。
洞窟は真っ直ぐの一本道になっていたため、迷うことなく歩けるが、一番の問題は洞窟のあちらこちらに配置されたモンスターだった。
どうやら、この洞窟に配置されているモンスターはフラウより少しレベルが高い。
何度目になるだろう、小鳥のようなモンスターがフラウに襲いかかる。
クチバシでフラウの頭をつつくと、フラウのHPは少し減った。
フラウは慌てて反撃するが、覚えたての魔法は威力もコントロールも悪く、小鳥を仕留めきることができない。
「スモールファイアー! スモールファイアー!!」
フラウは無茶苦茶に魔法を使った。
フラウの杖先から出てきた火の玉は、三回に一回程度で小鳥に当たる。
小鳥はフンと鼻で笑っているかのようにまたフラウをつつき始めた。
そうして少しずつ着実に小鳥を倒していると"ピロン"と機械音が鳴り、フラウのレベルがまたひとつ上昇する。
レベルが上がる度、HPやMPは回復する。
モンスターからドロップするポーションもHPと同時に少しだけMPも少し回復するため、重宝する代物だった。
「ふぅ……結構進んだかなあ?」
キョロキョロと周りを見渡しても自分の位置を特定するまでに及ばない。
石の壁と、たまに見える水溜まりが広がるばかりだ。
そして、さらに奥へ奥へと足を進めると、大きな石の門が現れた。
「ここはきっとボスが居るところだよね! やっとたどり着いた!!」
フラウは長かった道のりを思い出し、そしてレベルが八になった自分をプロフィールで確認した。
相応に所持金もかなり増えている。
「いけるかもしれない……!!」
フラウは意を決して石の門を押した。
門は抵抗なく簡単に開く。まるでフラウを歓迎しているようだった。
フラウは恐る恐る足を踏み入れた。
そして"グォオオオオオオオォォ"と地響きのような唸り声が響き、BGMが戦闘向けの激しいものへと変化した。
〇
地面がえぐれ、砂が舞う。
まっすぐ立っていることも難しいぐらい地鳴りのする中、フラウは瀕死で戦っていた。
相手は大きなビル程ある黒い狼の獣の形をしたモンスターだ。
今までのモンスターと比べ物にならないぐらいの攻撃力。
なけなしのポーションを飲みつつ、覚えた魔法を使っていく。
「スモールファイアー! ウォーターボール! サンダーボール!!」
何が効いて、何が効いていないのか分からないフラウは適当に魔法を使っている状態だった。
暫く続けると、狼のモンスターは怒りの咆哮を響かせる。
その恐ろしさに気圧されるフラウだが、狼のHPが減っているのは確かだった。
そして、フラウが最後の攻撃を終えた時、狼は電子の粒子となって消え去った。
BGMも穏やかなものとなり、フラウはやっと一息つけた。
「もうポーションもMPも残ってないよ〜! あー疲れたあ!!」
そう言ってフラウは倒れかけたが、キラキラと集まった粒子がフラウのHPとMPを回復していく。
それはフラウの重くなった体を軽くしてくれているようだった。
フラウはそれを確認してから、狼のいた場所に残された宝箱に近づく。
「何が入ってるんだろー?」
フラウが重い蓋を持ち上げると、宝箱の中身がフラウの手荷物に追加された。
「装備? 武器かなあ? どんな形なんだろう?」
フラウがワクワクと言った面持ちでアイコンをタップする。
すると、フラウの手に先程の狼の頭をかたどった少し変わった魔法の杖が現れた。
それと同時に簡易だった服装が首にファーが着いたワンピースとマントに変化する。
「これってあの狼がモチーフなのかな? ふわふわで可愛い!!」
装備品に困っていたフラウは素直に喜んだ。
そして、自分のスキルとステータスポイントが追加されていることに気がつく。
「ファイアーボール、ヒール、ポイズンボム……あ、ステータスポイント何に振り分けようかなあ」
フラウはそう言ってしばらく考え、この先必要になるであろうHPとMP、そして攻撃力に追加した。
魔術師で言うところの攻撃力と言うのは、攻撃魔法の威力が上昇するようだった。
「あれ、なにこれ?」
フラウは付与スキル欄にハテナボックスが出ていることに気がついた。
これはボスモンスターを倒した時にランダムに付与されるもので、条件を満たした時開放されるガチャ要素の強いスキルだとされている。
しかし、何が出てもレアリティは高いスキルであるため強力なものが多い。
「条件はレベルが十になることと、狼モンスターを二十匹倒すこと、か……明日やってみようかなあ」
そう言ってフラウは外に続く魔法陣に乗り込んだ。
足元から光が包み込み、目を開けた時には東門の傍に転移していた。
遠くの空から朝日が昇ってきていた。
どうやらかなり時間が経過していたようだった。
ひとまず街に入り、ログアウトをする。
○
視界が現実に戻った香瑠は、ベッドで寝転んだ状態で伸びをした。
「楽しかったー! あれ、もう十二時!? 明日も学校なのに!!」
香瑠はそう独り言を言うとバタバタと寝る準備を始めた。