第十七話 リリィの奮闘
フラウが"ホライズン"に向かったその日、リリィは"フロー"と言う谷間にできた街にきていた。
一言で言うと、崖にたくさん家が刺さっているような場所だとリリィは感想を持った。
リリィは、ここにある"ランダムダンジョン"に挑もうとしている。
"ランダムダンジョン"とは、どんなモンスターが出てくるか分からないダンジョンのことである。
もちろん、各ダンジョンに毎度配置されている"ラスボス"と呼ばれるモンスターも何が出てくるか分からない。
リリィはここに"特殊スキル"を求めてやってきていた。
「やるぞ!!」
リリィが気合を入れて大剣を握る。
何故"特殊スキル"が必要なのか、それは次のイベントで上位に割り込むためである。
フラウは既に特殊スキルを持っている。
狼のモンスターに変身できるスキルだとだけ聞いていたが、詳細はよく分からない。
ただ、それにより実力以上の力を発揮しているのは事実だ。
リリィは思っていた。
「私もフラウと並んで戦うために、手に入れなくちゃ」
足手纏いはごめんだ、と。
〇
リリィは大剣を駆使してダンジョンを突き進む。
出てくるモンスターは落ち武者風なモンスターだった。
「あともう少し……!!」
大剣を大きく振り回し、三人の落ち武者が音を立てて崩れる。
そして見えたのは、初めてフラウと攻略した時に見た大きな門。
「ここだ!!」
リリィは勢いよく門を開ける。
「頼もー!!」
飛び込んでいくとそこに見えたのは、よく歴史ドラマで見るような武将が静かに座っていた。
「お前がここのボスなのか?」
リリィが尋ねると、武将はゆっくりと立ち上がる。
「如何にも。我が彼のモンスターを総べる総大将。名を"弁慶"と申す」
「べ、弁慶? それって武蔵坊弁慶か? 牛若丸の?」
「多くの語りは不要。貴様の刀、我のものとせん」
弁慶はそう言うと間髪入れずリリィに飛びかかる。
リリィは大剣を駆使してその刀をとめた。
「う、嘘だろ!! 手が刀? 背中にも武器? ひぃ!! 剣が飛んできた!!」
リリィの驚きも束の間。
明らかに格上のモンスターに気は抜けなかった。
「"ファイアーソード"!」
「なに!! 呪術か!! ますますその刀、手に入れたく候!! 覚悟!!」
リリィの大剣をいとも簡単に受け止める弁慶。
さらに、背中の刀を掴むとリリィに突き立ててきたが、リリィも"要塞ノ型"で耐える。
「まだまだ!! "剣舞"」
リリィのスピードが一段と上がる。
その勢いを持って大剣を弁慶めがけて振り払う。
「ぐっ……!!」
「"アイスソード"」
リリィの剣が絶対零度の冷たさを放つ。
触れたもの全てを凍らせる冷たさを放つ大剣を、リリィは弁慶の足に向けて振り下ろした。
弁慶は足元を凍らせ体制を崩しかけたが、膝はつかなかった。
「なに!?」
「こんなことで、この弁慶が……!!」
雄叫びを上げる。
それは部屋全体に響き、木霊する。
それだけでリリィの耳は潰れそうになったが、足を踏ん張り隙を見せない。
「貴様、なかなかやるな」
「あたしだって……負けられない理由があるんだ」
「忠誠を誓った者がいるのか」
「そんなんじゃない! あたしとフラウは友達だ! 友達は対等で、困った時には助け合うんだろ。だったら、フラウが困った時に助けられる一発逆転の力がいるんだ」
リリィは負けじと言い返した。
言い返した後、自分の発言に照れたように顔を赤くする。
弁慶はフッと笑ったように見えた。
「何? 文句ある?」
「いや……我にも友がいた。尊敬できる男だ。あれは友であり我の主でもある。貴様のその思い、見失うでないぞ」
弁慶はそう言って刀を構えた。
「これで終わりにしよう。"妖陰・一式"」
"断裂"
そう弁慶が続けると同時に、横一文字に衝撃波が、目にも止まらぬ速さで飛び出した。
「あたしだって!! "要塞ノ型"! "剣舞"!」
リリィが叫ぶと衝撃波に真正面から向かった。
剣舞のスピードのまま大剣を力いっぱい振り下ろし、衝撃波を打ち砕く。
しかし、衝撃波はそれだけでは消しされず、ダメージは受けたが、要塞ノ型によりそれは半減された。
「どぉりゃあああああ!!」
リリィは大剣を弁慶に振り下ろした。
弁慶は真っ二つに切り伏せられ、電子となって静かに消え去った。
リリィはフッと一息吐き出し、ガッツポーズを天に向け振り上げた。
そして、電子音が流れた時、リリィのスキルに"天誅"と"ハテナボックス"が組み込まれた。
ハテナボックスは、条件達成により開放される"特殊スキル"だ。
リリィは、きっと開放されるのはあの口の減らない男だと思うとウンザリした。
「あ、アイテムも増えてる。武器……大剣・鬼面。攻撃力上がるのか〜便利かもな。おっこれ死亡に値する攻撃を受けてもHPが少し残るやつか、あいついいもん持ってんじゃん」
リリィはニヤリと笑って魔法陣に乗り込んだ。
外に出ると空が真っ暗になっており、崖に沢山ある家の灯りが提灯を彷彿させた。
平和で幻想的に見えるその映像に、リリィは力が抜ける。
スキルの解放は明日しようと考えた。




