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第十六話 地獄の番人ケルベロス

  お城の中はホコリの被ったシャンデリアがかかっていた。

カーテンは引きちぎられた形跡があり、肖像画はあちらこちらが焦げ付いている。


まるで幽霊屋敷だとフラウが思っていると"バァン!"と大きな音を立てて入口の扉が施錠された。


 フラウは、今にも何か飛び出てくるのでは無いかと警戒し杖を構える。

しかし、特に何も起こらない。

辺りをよく見ると、エントランスから続く階段の上に、広い部屋の扉が見えた。

さっきまで閉まっていたように思えたが、今は開いている。


「あそこかな? 書斎……?」


フラウが階段を登り、中をのぞき込むと、床に大きな魔法陣が描かれていた。

他にも羊の頭や燭台、怪しげな魔導書が散乱している。


 フラウがよく見ようと身を乗り出した時、その大きな魔法陣が突然輝き始めた。

フラウは慌てて隠れようとしたが、魔法陣を中心に竜巻が発生し、その引力で部屋に転がり込んだ。


 "グォォオオオオオオ"


獣の声が木霊する。


 "汝、我を呼び出し者"


地獄から響く様な低い声が、直接フラウの頭に響いてくる。


 "愚かな人間よ"


 "喰ってやる!!"


そこに現れたのは、大きな体、三つの頭と鋭い牙、そして、フラウを睨む六個の目。

それは、紛うことなき"ケルベロス"そのものだった。


 〇


  ケルベロスはその三つの頭から各々"氷"、"炎"、"雷"の魔法を放つ。


それは書斎を焼き付くし、稲妻で天井に穴を開け、氷柱を降らせた。


フラウは"スノーウルフ"の装備に付け替え、ケルベロスの氷と炎の攻撃を無効化する。


「"メテオ・ストーン"!!」


ケルベロスの頭上に石礫が形成される。

それはケルベロスを貫くように降り注いだが、鋼のような体に弾き返された。


 そして再び、炎と氷、雷が同時に襲い来る。

フラウは落雷を避けるのに集中した。

雷は広範囲に落ちている。それは柱となって暫くその場で滞在し、少しでも触れると皮膚がチリチリと焦げ始める。


「"ポイズンボール"! "アイスバーン"!」


フラウが相手の動きを封じようと魔法を打ち続けた。

ケルベロスもそれに負けじとそれらを蹴散らす。


 何度目かの毒により、ケルベロスの状態異常が発生した。

これを好機とフラウはケルベロスの足を氷結させる。

毒で弱ったケルベロスは身動きが取れなくなり低く威嚇の声を発する。


「"ウルフメイク"!」


フラウは真っ白な狼の姿となった。

そんなフラウめがけて、ケルベロスは炎や氷、稲妻を放ったが、フラウは軽々避ける。


「"グロウボディ"!!」


フラウの体がケルベロスと同じぐらい大きくなる。

フラウはケルベロスの喉元を狙って噛みつき、力のまま床に押さえつける。


「これで……! "ファイアーボール"!!」


フラウがケルベロスの至近距離で火の玉を放つ。

ケルベロスは顔が焦げ付き、そして低く苦しげな声を発する。


 "オノレ……オノレェ……ノロッテヤル"


 "ウ、ウラムゾ、ニ、ニンゲンゴトキガ……!!"


ケルベロスは最後そう言い残し、電子となって散り散りになった。


「や、やったぁーー!!」


フラウは元の姿に戻り、喜びで飛び跳ねた。


 ケルベロスの足元にあった大きな魔法陣はすっかり消え失せ、激しい攻防により崩れかけていた部屋はみるみるうちに綺麗になる。


部屋の真ん中には宝箱が現れていた。

それを開けると"ピロン"と新たなスキルを手に入れた音がした。


 早速確かめてみようとスキル画面を開いたフラウ。

そこには"ヘルススタイル"と言う文字と"地獄ノ業火"と書かれていた。


「地獄ノ業火は何となくわかるけど……ヘルススタイルってなんだろ?」


フラウがそう呟いて、百聞は一見にしかずとその新しいスキルを試してみることにした。


「"ヘルススタイル"」


フラウが唱えると、フラウの体がみるみるうちに大きくなり、そこに現れたのは、先程のケルベロスの姿。


「うわぁ〜! 凄い!! あ、呪いってこのことなのかな!?」


フラウは驚きを隠さず三つになった頭をあちらこちらに動かした。

どうやらステータスもかなり上昇している。

先程覚えた"地獄ノ業火"を使用してみると、三つの頭からそれぞれ炎が吐き出された。


「三連攻撃になるのかな? というか、私、どんどん人から離れているような……? わんこに縁があるのかな?」


特に思い当たる節のないフラウはうーんと三つの頭で考え、まぁいいかと済ませる。


 フラウが元の姿に戻り書斎から出ると、エントランスに帰還の魔法陣が輝いていた。


ようやくこのダンジョンから出ることができるようだ。


フラウがそれに乗り込み、光に覆われた後、元いた"ホライズン"の洋館の前に降り立つ。

そこにはマリンが居たようで、フラウが出てきたら直ぐに声をかけてきた。


「どうだった〜?」


マリンがそう訪ねると、フラウは中であったことや新しいスキルを手に入れられたことを伝える。


「それにしてもビックリですね、まさかケルベロスになる日が来るとは……マリンさんも攻略したんですよね?」

「ん? うん。そうだけど……ケルベロスになるって?」

「え? その、新しいスキルで変身出来るスキル手に入れませんでした?」

「ンン? いや、私は地獄ノ業火と十双璧だったよ?」

「ん? あれ? なんか呪ってやるって」

「えぇ〜? そんなセリフあったかなあ?」

「あれ〜?」


 二人はどこか噛み合わない会話に、首を傾げてお互いを見る。

やがて諦めてフラウが「そうだ」と手を叩く。


「マリンさん、私広範囲の魔法習得したいんですけど、いい方法ありますか?」

「あ、ならこの国でいい魔道書が売っているお店あるから連れてってあげるよ」

「ありがとうございます!」

「早速着いておいで〜」


 マリンが手招きして、その後ろをフラウが続く。

二人は暫く会話しつつ新たな魔導書を物色した。

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