第十五話 魔女と誘惑のお菓子
フラウはとりあえず遠くに見えるお城をめざして歩いていくことにした。
マリンの言っていたとおり"ヘルスサイド"のダンジョンエリアはなかなかに広かった。
その上、戦闘頻度も高く、度々幽霊風のモンスターがどこからともなく現れ襲いかかってくる。
フラウは何度か戦い、ウルフメイクでモンスターに擬態しようとスキルを発動させたが、どうやら幽霊風のモンスターは、生きているもの全てに襲いかかる仕様らしい。
戦いを避けることが出来ないため、マリンに貰ったポーションが頼りだった。
そうしてひたすら進むこと数分、気づけば怪しげな森の入口まで来ていた。
「迷いの森?」
看板の文字に首をかしげるフラウ。
看板の裏側には"先の道進むべからず"と表記されている。
「うーん……でも、ここ以外道はなさそうだし……」
フラウはそう言って恐る恐る森に足を踏み入れる。
森へ入ると、入口から真っ直ぐ一本道が出口の方へ続いていた。
その先は見えないが、それ以外特に目立つ点はなく、ただ真っ直ぐ道があるだけだ。
「ん? あ、この道クッキーで出来てる!! 可愛い〜!」
そうはしゃぐフラウ。よく見ると、周りの木も飴でできており、生えている草や花もお菓子でできている。
「ここ好きかも〜甘い匂い〜それにお花が食べられるなんて夢見たい」
フラウはそう言って道端の花をひと口食べる。
ほんのり甘い苺の味が口に広がり、つい顔が綻んだ。
そうして数分、ひたすら真っ直ぐ森を歩いていたのだが、やはり出口が近づいてくることは無かった。
「やっぱりそう簡単には抜けられないなあ」
うーんと頭をひねるフラウ。
お菓子も食べ飽きてそろそろ森を抜けたいと感じている。
「先の道、先の道……道……あ、道を進むなってこと?」
フラウはそう言って横道に入って行った。
獣道に入ると、背の高い草が生い茂り、チョコレートの沼が広がっていた。
おおよそ人が歩ける道ではなかったが、イベントで手に入れた"沼地の覇者"の称号の効果なのか、フラウが足を取られることはなかった。
これなら大丈夫、とフラウはどんどん草をかき分け進んでいく。
そして、視界が晴れた時、突然"お菓子の家"が現れた。
お菓子の家は童話ヘンゼルとグレーテルにも出てくる有名なモデルだ。
フラウは初めて見たお菓子の家に、また少しテンションを昂らせる。
「お菓子の家……ってことはまさか悪い魔女がいたりするのかな?」
少し警戒しつつお菓子の家に近づいたフラウ。
すると"バンッ"と音を鳴らして家の扉が開いた。
フラウが中を覗き込むと、そこには恐ろしい顔で、天井まで身長がある魔女がフラウを見てニヤリと笑った。
「いらっしゃい、迷いの森で迷子になったのかい?」
「い、いえ、あの、」
「ヒッヒッヒッ鍋で煮て喰ってやろう」
魔女のその言葉を皮切りに、流れていたBGMが激しいものへと変化した。
やっぱり! とフラウも慌てて杖を構える。
魔女はどんどん大きくなり、お菓子の家の壁を突き破り、お菓子の家と一体化してしまう。
「"ファイアーボール"!!」
フラウが先手を打つ。
杖から放たれた火の玉はお菓子の家の壁にぶつかり、少し風穴を開ける。
それを受け止めた魔女は、怪しい笑い声と共に隕石を広範囲に降らせた。
「あんなのにあたったら死んじゃうよ〜!!」
フラウは何とか攻略できないかと思考を巡らせる。
「そうだ! 凍らせてから叩けば……! "アイスバーン"」
つい最近覚えた魔法により、魔女の足元から氷の膜が登っていく。
そして魔女の下半身が凍った時、魔女は怒り狂った様子で血走った目をフラウに向けた。
「"ウルフメイク"! "グロウボディ"!!」
フラウは大きな狼の姿になる。その大きさは魔女と同等か少し小さいぐらいだ。
大きくなったフラウは、勢いをつけて凍った部分に体当たりをした。
魔女の体は傾き悲痛な声を上げる。
「もう一度!!」
フラウが再度体を思い切りぶつけると、魔女は悲鳴と共に電子となって消えてしまった。
それと同時に迷いの森は消失する。
フラウが呆気に取られていると、そこは先程まで遠くに見えていたお城の門の前だった。
「よかった、勝てた〜!」
フラウはほっと一息つく。
そして、魔女の代わりに現れた宝箱を開けてみた。
アイテム欄に"魔導書"と表記されており、早速タップすると"ピロン"と音がする。
「新しいスキルを覚えたのかな……えーっと"メテオ・ストーン"さっき魔女が使ってた隕石の魔法かな?」
フラウが喜び、早速試し打ちをしようとするが、なぜか"ブブッ"となってエラーが出る。
「なんでだろ? ん? MP不足……? あ、そっか私攻撃とスピードしか上げてなかったから……あっ!! もしかして今まで範囲攻撃を覚えられなかったのってこのせい!?」
フラウは慌ててステータス画面を開いた。
熱心にレベルを上げていたお陰で、ポイントは大量に溜まっている。
フラウはそれらを全てMPに振り分ける。
改めて先程覚えた"メテオ・ストーン"を打ってみると、MPの消費が殆どないぐらいになっていた。
「いっぱいあった方がいいかなって思ったけど、ちょっと振り分けすぎたかな? でもどの程度あったらいいとかよくわかんないし、ま、いっか……」
フラウが気楽な様子でステータス画面を閉じた。
改めて、グッと顔を引き締め、とうとうお城に足を踏み入れた。
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