第十二話 初心者狩り!?
雪山を攻略したフラウとリリィ、あれから数日に渡りレベル上げやクエストに勤しんでいた。
多少場数をこなした二人は今日、中級者向けの"廃れた街"に挑もうと足を踏み入れていた。
「なんだか不気味だな」
「お化けとかいるのかな?」
二人はそんな話をしつつ瓦礫の山を歩いていた。
この場所は元々国があったらしいが、今はその活気をすっかり忘れている。
煉瓦でできた建物が天井を無くして佇んでいたり、お店を彷彿させる建物は、ガラスが飛び散りがらんどうになっていた。
二人は気分を盛り上げるため、楽しい会話をして歩いていた。
だが、ふとフラウはリリィの様子が落ち着かないことに気がつく。
「どうしたの?」
「んー? いや、さっきから何かの気配が感じる」
「モンスター?」
「うーん……なんと言うか、人……?」
リリィの言葉と共に何かが物陰から飛び出してくる。
一瞬のことで慌てた二人だが、武器を構えて警戒体制を整えた。
飛び出てきたのはプレーヤーと思しき五人。
フラウやリリィと違って武器や甲冑をしっかり揃えているあたり、中級者〜上級者辺りと言えるだろう。
二人は唖然とした後「人か〜」と気持ちを緩ませた。
「なんで私たちの尾行を?」
リリィがそう言って取り囲むプレーヤーの面々を睨む。
五人のうち一人の、リーダーと思わしき男がニヤリと笑う。
「俺たちはなあギルド"レバノン"のメンバーだ」
「お嬢ちゃん達、申し訳ないが俺達の為に死んでくれ」
その言葉に二人はギョッと目を見開く。
突然、二人にレバノンのメンバーだと言った五人が襲いかかる。
弓や魔法で援護され、剣を振り上げるプレーヤー。
なすすべもなく、二人はログイン画面に出戻り、スタットに飛ばされていた。
これは"プレーヤーキル"や"初心者狩り"と言われている行為だ。
リアリティでは、対人戦も可としており、エリアによってはプレーヤー同士で戦うことも出来る。
それがちょうど雪山から向こうのエリアだったり、二人が乗り込んだ"廃れた街"だとされている。
特に"廃れた街"には初心者が多く通る場所だとされているため、たまにそう言った悪質なプレーヤーに狙われるケースがあると言う。
事前に情報を仕入れていたら防ぐことも可能だが、経験値が溜まりにくくなった中級者が、そういった行為に及ぶことが殆どのため、無傷とはいかない。
また、プレーヤーを倒せばモンスターより経験値が少し多く手にはいる。
同程度のモンスターを倒すのは苦労するが、不意を付かれたプレーヤーだと、とっさの対応を取れる人は極めて少ないため、楽に稼げると言ったところだ。
「なんなんだアイツら!! ムカつく!!」
リリィの声は店に響き渡る。
まぁまぁと落ち着かせるフラウも、どことなくやるせない雰囲気が漂っていた。
「調べて知ってたけどこうも敵わないなんてな」
「相手の人達はやっぱり強いのかなあ」
「狡い真似して手に入れた経験値でレベルが上がって何が楽しいのか、あたしには分からないな」
フンと鼻を鳴らすリリィ。
どうにも、怒りが収まらないようだった。
そんな二人の元に数名のプレーヤーがやってきた。
「なんだ? うるさくして悪かったな、虫の居所が悪いんだ」
リリィが強気にそう言うと、彼らはそうじゃないんだと冷静に首を振る。
「我々は悪質なプレーヤーを探してるんだ。よければ話を聞かせてくれ」
「はぁ? どういう事だ?」
首を傾げるリリィに、一人の女性が歩みでた。
凛とした雰囲気に、和装が良く似合う美しい女性だ。
彼女はつい先日のイベントで、フラウをモンスターと勘違いし襲ってきたギルド"輪ノ華会"のマスター"お鈴"だった。
お鈴をみたフラウはついひぇっと声を出す。
お鈴はそれに気づかず、話を続けた。
「君たちも被害者なんだな? 我々のギルドのメンバーも数名被害を蒙ったようなんだ」
お鈴はそう言って続ける。
「なぜか近頃、悪質な行為を行う人物が後を絶たない。このままでは被害が大きくなる一方だ。君たちも協力してくれないか? こう見えても私はリアティではそこそこ影響力があると自負している。必ず君たちの役に立つだろう。」
お鈴の強い眼差しに、リリィはキラキラと目を輝かせる。
「なんか、かっこいい……!! もちろん私達も協力します!! な、フラウ!」
そう言ってフラウを見るリリィだが、フラウは落ち着かない様子だ。
「どうしたんだ?」
不思議に思ったリリィはふと学校での会話を思い出した。
「……あっ!!」
フラウが狼の姿の時にモンスターと間違われて追いかけられた話だ。
リリィはバツが悪そうに顔を歪めた。
そんな二人の様子にお鈴は首を傾げる。
「どうかしたか?」
「いえ、その、なんでも……ハハハ、この子ちょっと人見知りで……」
「そうか」
「ところで、被害にあった話なんですが、後日、またこの時間にここでお話させていただいてもいいですか?」
「あぁ構わない。君たちも参加してくれると言うのであれば、こちらも都合を合わせるぞ」
「では、また!」
リリィはそう言ってフラウを小突いて店を後にする。
そんな二人をお鈴は不思議そうに見送った。




