第十話 山頂とその先
雪山に着いた二人は真っ白な山道を踏み締めて感嘆の声を上げる。
山肌に生えた木々から垂れ下がる氷柱や、降り止まない雪。そして雪の結晶が薄い膜を貼る水面。
何もかもが幻想的で美しい光景だった。
「こんなに雪が積もってるのにぜーんぜん寒くないねー」
「ゲームだからなあ寒かったら進めねーし、モンスターどころじゃないんだろうな」
二人はそんな会話をしつつどんどん山の頂上をめざして歩く。
「ところでさーフラウの手に入れたスキルだけど、どんな感じなんだ?」
「スキル?」
「あれだよ、特殊スキルのウルフ何とか」
「ああ! ウルフメイクのこと? あ、そうだ! 私が狼になって、大きくなるから、リリィ乗ってみる? そしたらさ、すぐにてっぺんにたどり着くよ!」
フラウは思い出したように手を叩く。
そして、リリィとは少し離れた場所でスキルを発動させた。
「見ててねー! "ウルフメイク"! "グロウボディ"!!」
フラウが叫ぶと共に姿が狼のモンスターになる。
そして、グロウボディのスキルによってその体はどんどん大きくなり、山肌に見える大木と同じぐらいの大きさになった。
「う、うぉ〜……! 凄い!! でも、デカすぎだろ!!」
「このスキル、こんなに大きくなるんだ〜」
「の、脳内に直接……!?」
「あ、そうそう、狼だと人の言葉話せなくなるから"エスパー"のスキルで話しかけてるよ〜」
「つか、こんなデカかったら乗れないだろ。そもそも届かない」
「うーん……調整できないみたい〜」
ひとまず元の大きなに戻るフラウ。
元の大きさは人と同じ程度の大きさだ。
背中に乗せて走ることは出来るだろうが、安定感が無いため、リリィが何度かふらついた。
まだレベルも低いので落ちたら大怪我では済まないだろう。
結局、フラウは元の姿に戻り、二人は並んで歩くこととなった。
〇
雪山の頂上付近に到着した二人。
モンスターがチラチラと見えてきたため、早速パーティーを組んでレベルをあげようと意気込む。
雪山にいるモンスターは、雪だるまの形のものや、小動物風のものが多かった。
「状態異常・氷結ってどういう事だ?」
「あっ! リリィ足が……!!」
「うぉ!? 足が凍ってる! 動けねぇじゃん」
「これ! 状態異常に効くポーション!」
「ナイス! ありがとう!」
リリィはそう言ってポーションを使用した。
すぐに足の氷は溶けだしたが、その間にもモンスターからの追撃があったため、HPが少し減った。
「いたっ! もう!! 反撃だ! フラウは援護頼む!」
「任せて! スパーク!!」
フラウの魔法により麻痺するモンスター、そこにリリィの大剣が力任せに振り下ろされた。
さすが戦士の職である。モンスターは一撃で電子となって散り散りになった。
そうこうしつつ、日が暮れるまで二人は雪山を散策した。
そして、陽が完全に沈んだ夜。
モンスターの凶暴性は昼間より少し上がる。
「夜のモンスターって苦手なんだ〜」
「向こうから来てくれるから、戦いやすくてちょうどいいだろ」
「そうかな〜? 追いかけられるから怖い」
フラウがそう言うと耳としっぽがへにゃと垂れる。
「そのアイテム面白いな! フラウの感情ダダ漏れ」
「うぅ〜……あんまり嬉しくないな〜」
ムスッとするフラウ。
また耳としっぽが勝手に不機嫌に動くのでリリィに笑われた。
二人が雪山を彷徨い続けていると、木々が少なくなり、道が開けてくる。
そして、現れたのは休憩できるスペースと売店が並ぶ少し賑わった広場だった。
他のプレーヤーの姿も疎らに現れ、各々好きなように過ごしていた。
「どうやらここが頂上らしいな」
「休憩しよ〜!」
二人はそう言って売店に立寄る。
そこには老婆がニコニコと微笑んで立っていた。
この老婆はNPCと言ってプレーヤーではない、コンピューターが作り出した人物だ。
「いらっしゃい、何が欲しいんだい?」
お決まりのセリフと微笑み首を傾げる姿は、まるで本当の人間のように見えた。
それを見た二人はそれぞれ「すごいな」と声が漏れる。
そうして、二人は売店でうどんを手に入れた。
早速休憩スペースで試食してみたところ、本当に食べているかのような風味豊かな味わいが感じられた。
「不思議だね〜これってイメージなんだよね」
「そうだな。私たちの感覚を読み取った"リアティ"が味を感じさせるように働きかけているらしい。実際腹は膨れないが満足感はあるだろ」
「確かにいつもならお腹いっぱいになるけど、うどん食べ終わった後でもまだ食べられそう〜」
フラウはそう言って売店を眺めた。
しかし、リリィはそれを止めて何故か「ふっふっふっ」と不敵に笑いだした。
「急にどうしたの?」
「実はな、この山頂の奥にダンジョンがあるって情報を手に入れたんだ! 今日はそこのボスモンスターを倒してお宝を手に入れるつもりでやってきた!」
「そうだったの? てっきりただレベルを上げるだけだと思ってたよ」
「それは計画の第一段階、今あたしのレベルは十二になっている。ここのダンジョンは初心者向けらしいから、十分攻略できるはずだ!」
さらに、とリリィは続けた。
「フラウ、お前のレベルはいくつだ?」
「えぇーっとこの間のイベントでだいぶ強くなったからなぁ〜……あ、あった! 二十八だよ!」
「十分すぎるレベルだ! さて、行くか」
「うぇ!? もう?」
「ダラダラしてると置いてくぞー」
「待ってよ〜!!」
不敵な様子のリリィに慌ててフラウはついて行く。
山の奥地、先程の賑わいもとっくになくなり、モンスターの蠢くフィールドの中央に、木々に囲まれたダンジョンが現れた。
二人は気合いを入れ直し、そのスタート地点である魔法陣に乗り込む。
足元が輝き、光が体を覆い始め、そして目を開くと、一面の氷で覆われた洞窟の狭い道へ降り立っていた。




