1-3 リリアと友人
「リリア、いったい何があったの? 何か隠し事していない?」
オリヴィアには全てお見通しだった。考えた結果、やはり説明のしようがないと諦め、心境の変化ですと言って乗り切ろうとしたものの、全く歯が立たなかった。
今は放課後。オリヴィアからの圧がすごいので、ことの顛末を話すべく、どこか話をできる場所へと向かうことにした。ちょうど前々から行きたかった、街の中心にある流行りの喫茶店に行った。で、現在質問攻めにあっているわけである。彼女に小手先の誤魔化しなど、全く通じなかった。
「心境の変化とか言う言葉で済ませられる以上の変わりっぷりだと思うのだけど。何をそんなに隠しているの?言いたくないことを無理に言わせようとは思ってないけれど、悩んでいるなら力になりたいの。」
オリヴィアに対して隠したいと思っている訳でもない。そして、何かあったとき一人でも事情を知っている味方がいた方が、追放されたときに助けてもらえる確率があがるのではと思ったので、とりあえず、前世の記憶云々の所はとばしつつ軽く嘘を混ぜながらも、掻い摘んでそれらしい説明をすることにした。
昨日の夜会での出来事を目にして、このままエレノア様に冤罪を着せていたら取り返しのつかないことになると思ったこと。そして私が今までとっていた態度は婚約者のいる殿下に対して不適切だったと思ったこと。手遅れかもしれないけど、これから態度を改めようと思ったこと。そして、私に対する嫌がらせの首謀者はエレノア様ではないため、あの婚約破棄は間違いであることを説明した。オリヴィアは戸惑いつつも、頷きながら理解を示してくれた。しかし、エレノア様の罪が無実であるという話になると眉をひそめて、こう聞いた。
「ちょっと待って。それって、ラザフォード公爵令嬢が嫌がらせの首謀者じゃないってことが言いたいってことよね。今まで、しょっちゅう嫌な目にあったって殿下達に泣きついていたし、殿下達も彼女が犯人だって決めつけていたから、信じられないのだけれど。」
「あれは間違っていたって思っているの。嫌な目に会ったっていうのは、自分が原因だったところもあると思うし、そして何より、エレノア様がやったっていう証拠は何もないわ。当事者である私が言っているのだから間違いないって。」
「昨日までと変わりすぎて怖いくらいなのだけれど、本当に熱があるとかじゃないのよね?」
首を大きく左右に振る。それでも、オリヴィアは内心信じられないと思っていることがビシビシと伝わってきた。無理もない。自分でも思う、変わり過ぎだ、と。でも、仕方ない。死にたくないから変わるしかない。うまく説明できない自分が、全てを話してしまえないこの状況が、とてももどかしく思った。
「リリアがそこまで言うならそうなのかもだけど…。じゃあ今まで嫌な目にあったとか、嫌がらせされたとか。それこそ、昨日、ハンカチが捨てられていたとかいうのも、それはいったい何だったの?」
私がたびたび嫌がらせを受けていたのは嘘でもでっち上げでもない。リリアは性格が悪いし、小説ではリリアの自作自演の方の頻度が高かったこともあって、あまり気にしていなかったけれど。自分の死を避けたいあまり、目先の問題を考えるのをすっかり忘れていた。教科書などの私物がなくなったりするのは、正直、面倒くさいし困っている。階段から落ちそうになったのだって一度や二度じゃない。もちろん、自分の不注意もあるだろうけど、それだけじゃない気もする。
「一部は、私が気にし過ぎていたこともあったと思う。でも、昨日のハンカチのこととか、えっと、前に隠された教科書が破られて出てきたこととか、あとそれから…」
「わかった。別にリリアのことを疑っているわけじゃないからね。整理すると、何度か嫌がらせされていたのは事実。でも犯人はラザフォード公爵令嬢じゃない。もしくは首謀者でもないってことだよね。」
今までは殿下の婚約者で性格の悪いエレノア様が嫌がらせをしているのだと決めつけ、他の人を疑うことすらしなかった。エレノア様が私に対して嫉妬し、気に入らないから嫌がらせすると思ってしまえば楽だった。でも、エレノア様が犯人じゃないとわかった今、エレノア様ではない誰かから執拗に嫌がらせを受けていたことになる。ではそれは誰? 小説にはそんなこと書かれていなかったし、全く見当がつかなかった。
「誰か心当たりある人いる?」
「ううん、全く…」
「考えられるのは、リリアが高位貴族と仲良くしていることを良く思っていない人達かしら。ラザフォード公爵令嬢の立場のように、リリアに対して嫉妬しやすい立場にいる人達が一番ありそうな線よね。もしくは、殿下とかサイアス様とかと敵対している勢力とかも考えられるのかな…。」
オリヴィアは何人か名前を出して聞いたりしてくれたけど、そのどれもに全く心当たりがなかった。結局その後しばらく二人で話し合ったけれど、解決することなく、怪しい人物さえも思いつかなかった。なんだかモヤモヤとした気持ちを抱えたまま、人も増えてきたので、喫茶店を出ることにした。
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