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0-2 プロローグ 記憶

「…リリア、リリアさん、目が覚めましたか?」


あれ、ここは…?私は何をしていたんだっけ…?


「医務室ですよ。夜会で倒れたから運ばれたのですよ。覚えていますか?」


医務室の先生が心配そうに覗き込んできた。

ああそうだ、夜会の途中で倒れたんだった。


「ええと…、夜会に出席していたことと、その途中で倒れたことは覚えています。それからの記憶はありませんが…」


「そうですか、完全ではないにしても夜会での記憶があるならよかったです。全然反応がなかったので心配したのですが、疲れがたまっていたのでしょう。」


どうやらあの後、医務室に運ばれたようだ。先生の話によると数時間寝ていたらしい。殿下たちも様子を見に来てくださったようだが、遅くなりそうだったためこれ以上は居られないということで、先ほどお戻りになったらしい。今顔を合わせたらまた叫びだしそうだ。本当に良かった。


気分は最悪だったが、一人になりたかった。


「もう大丈夫だと思います。ありがとうございます。寮まで帰ります。お世話になりました。」


そう告げて立ち上がった。立ち眩みしそうになったけれど何とか耐えた。


「ケガや病気はなさそうですし、もう帰っても大丈夫でしょうけれど。もう少しゆっくりしていってもいいのですよ。」

「大丈夫です。ありがとうございました。」


先生は出て行こうとする私に、思い出したように金のペンダントを懐から取り出し渡してくれた。それは私が肌身離さずつけているものだ。受け取ってつけ、ありがとうございましたと言って、今度こそ出ようとした。先生は無理をしないように念を押し、見送ってくれた。私は再度礼を告げて、医務室を出た。


月も星も何も出ていない夜だった。時間も遅く暗いためか、道には私以外には誰もいなさそうだった。今、誰かに話しかけられてもまともに相手できる気がしない。また倒れてしまいかねない。

いつもはすぐの距離が今は果てしなく長いもののように感じた。


闇の中を、一人、無心で歩いていた。



~・~・~・~



寮までたどり着くと、まず身体を清めた。自室に戻った後、服を着替えながら、鏡越しに移った自分を見て泣き出しそうになった。


ストロベリーブロンドのふわふわ髪に水色のくりくりっとした目、愛らしい雰囲気をまとうその姿は、


間違いなく、私の知っているリリア・アンスリュム、そのものだった。


夢じゃないかと期待したけれど、やはり私はリリア・アンスリュムだった。今まで17年間リリアとして生きてきたことは、否定のしようもない事実だった。


端的に言えば、ここは物語の世界で、私は前世の記憶を持つ所謂“転生者”だ。


今日の夜会で、前世の記憶を思い出してしまった。悪役令嬢もののテンプレのような婚約破棄も、今から考えれば小説そのものでしかない。この世界が、前世で読んだことのある、乙女ゲームを舞台にした世界で“悪役令嬢”が活躍する小説そのものであることに気付いてしまったのだ。そして、現在、全くその小説の展開通りに話が進んでいるのである。


全く眠れそうにないので、私は小説について思い出せる限りを書き出そうと思い、机に向かった。


まず前提は、悪役令嬢エレノア・ラザフォードが主人公で、リリア・アンスリュムは乙女ゲームのヒロインであり小説の悪役であることである。


この小説の舞台は、乙女ゲームの舞台でもある、ここルシャクルス王国であり、ストーリー自体は四章に分かれていた。


 第一章は、幼いころ傲慢だったエレノアが、ライノルト王子との婚約をきっかけに悪夢を通して乙女ゲームの世界でリリアをいじめ、断罪される自分を見ることからすべてが始まる。起きたらその夢の内容は覚えていなものの、このままではダメだと感じて改心する。結果、家族には冷遇されたままだが、だんだんと使用人たちなどの周りの人に受け入れられていく話だ。


第二章は学園での話で、要するに現在とリンクしているはずの部分だから詳細に書き起こす。まず、ここで乙女ゲームのヒロインであるリリアが登場する。ここは全国の貴族のうち高位貴族と、試験を突破した一般生とが集まる学園で、エレノアも例にもれず学園に入学、2年間の学生生活がスタートする。最初の頃こそ、エレノアは平和に楽しく暮らす。が、リリア・アンスリュム子爵令嬢が出てきて不穏なものに変わっていく。リリアがライノルト王子や他の攻略対象者に慕われるようになっていき、エレノアはリリアに対する嫌がらせの犯人にされる。エレノアは全くの無実の罪で、王子をはじめとした攻略対象者に責められ、挙句の果てに婚約破棄を宣言されてしまう。これが先ほどのパーティーでの下りである。

夜会の後、リリアに対する謎の嫌がらせ自体は鳴りを潜めるが、婚約破棄をされたエレノアを見たリリアは味を占めて自作自演のいじめを繰り返すようになる。最終的に、エレノアはリリアを殺そうとした罪に問われ、学園の卒業パーティーの後、断罪され公爵家から追放されてしまう。ちなみに、乙女ゲームのハッピーエンドならこの卒業パーティーでリリアが攻略対象者に告白されるらしい。現在、学園の2年目が終了した時点であるため、この卒業パーティーは今からほぼ半年後の予定だ。


第三章である卒業後が一番の問題だ。ここも詳しく書いていこうと思う。王太子であるライノルトと王太子妃となったリリアはその後もやりたい放題を続け、挙句の果てに隣国に操られ国の破滅を引き起こしそうになるのだ。この、国の破滅というのが一番重要そうな気がするのだが、王子とリリアが鬱陶しすぎて、さらっと読んでしまったためか、具体的な内容を思い出すことができない。もう少し何かあったはずなのに、隣国とのかかわりに関するところを全く覚えていない。

だが、エレノアとジルの出会いと恋はとてもお気に入りのエピソードで何回も繰り返し読んだためしっかりと思い出せる。追放されたエレノアを、哀れに思った使用人が手をまわし、彼女は得意だった刺繡の才と努力家であることを生かして町の仕立屋でお世話になることになる。ここで業者の手伝いとしてやって来たジルと出会い親交を深めていく。そのうちに、彼がライノルト王子の腹違いの兄であり側妃の子であるジルベルト第一王子あるとわかるのだ。これ以上は長くなりそうなので省略するが。

ともかく、エレノアはある日、久しぶりに悪夢を見る。その内容は、隣国が攻め入ってきて国が破滅するというものであった。この夢を見たことで国の危機が迫っているという事実に気づき、ジルと協力してリリア達の悪巧みを暴く。結局、国の破滅はすんでのところで防がれる。国を売ろうとしたリリアとライノルトは断罪され、森の奥の罪人用の屋敷へと軟禁されることとなる。


最終章は、国が平和を取り戻し、エレノアとジルベルトが結ばれて、二人が王と王妃となって、国は豊かになり、二人は幸せに暮しました、めでたしめでたし、だけである。


こんなところだったと思う。

この小説以外にも沢山の小説を読んだこともあり、細かいことは思い出せない部分もあるが、一つだけ確かなことがある。


この小説はリリアに対する「ざまぁ」がかなり残酷であることだ。


断罪されたリリアとライノルトは軟禁場所へ護送される道中、盗賊に襲われる。ライノルトはその場で殺されるが、リリアは隣国へさらわれ、そこで売られ奴隷として嬲り殺される。たしか、あらゆる暴力を振るわれて、目をつぶされ、男たちにやりたい放題されて、挙句の果てに発狂し、うるさいからと喉をつぶされ、食べ物を与えられず衰弱し、血と汚れにまみれて死ぬ、みたいな内容だったと思う。


小説を読んでいるときこそエレノア側に感情移入しているから、リリアが裁かれて良かったと思った部分もあるけれど、それでも酷い死に方をしたのだなとしばらく暗い気分になってしまった位だった。


よりによって、自分がリリアに転生してしまうとは。


どう考えても未来は真っ暗だ。


ここまで読んでくださりありがとうございました。

拙いところもあると思いますが、続きが気になったり、面白いと思っていただけたら幸いです。


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