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13/17

1-10 縁

ドアを開けると目の前に広がったのはディスプレイに展示された色とりどりの宝石だった。到底買えないような値段のアクセサリーがこれでもかというほどに飾られている。ここに来たのは初めてなので、その美しさに圧倒されてしまった。


「何かご入用でしたらお申し付けください。」


ドアを開けて立ち竦んでいた私に店の人が声をかける。その声に現実に引き戻された。私は今日来た要件を思い出し店の人に尋ねた。


「あの、最近、小さなコイン型のペンダントが売られたことはありませんでしたか。純金製で、紋様のようなものが刻まれたものなんですけれど。」


少しお待ち下さいね、そう言って店員さんは中へと入っていった。あるといいわね、オリヴィアとそんなことを話しながら待っていると、


ガララン


ドアのベルが鳴り茶色の髪の男の人が入ってきた。


「どうしてこんなところに彼がいるの。」


エレノア様がその人の顔見て、信じられないといった様子で呟いたのを私は耳に捉えた。


「ローレンさんじゃない。お久しぶりです。」


オリヴィアはその男性にそう声をかける。その男性はオリヴィアに気付くと、軽く頭を下げた。


「べバルディ子爵家のご令嬢じゃないですか。お久しぶりです。」


そう言いつつ、エレノア様の姿を確認すると僅かに目を見開いたものの、すぐにもとの表情に戻った。


「皆さんは一体どういったご用件でしょう。宝石ならちょうど良いものが入ったばかりですよ。私はここを経営している商会の者なので、もし良ければ何か皆様にお選びいたしましょうか。」


ローレンと呼ばれた男の人は私達の方を見て穏やかに笑みを浮かべて言う。


「ありがとうございます。でも今日は宝石を探しに来たわけではないんです。」


そう言いかけたところで店の人が戻って来た。彼はルーカスさんに挨拶をした後、残念ながら私に探しているようなものは無かったということを伝えてくれた。


「何か探し物をされているのですか?」


「何処かで無くしてしまったペンダントがここで買い取りされてないかを調べてもらったんです。」


「それでしたら、商会の本部の方にあるかもしれません。ここの店で買い取ったものならいくつか私のところで預かっているものがありますし。折角ですから、私共の商会までご一緒にいかがですか。」


彼は店員さんから書類を受け取ると店を出た。私達も彼と共に店を後にした。背の高い紺色の髪の男の人が一人、店の外で待っていた。彼はローレンさんの姿を認めるとすぐにこちらにやって来た。彼は前に私達を助けてくれた人だとその姿を見て思った。彼がこちらを見やったとき、彼も気づいたのだろうか、その金の目が一瞬光ったような気がした。今日フードがないため、彼の紺色の髪と金色の目、頬の刀傷までよく見えた。彼は一体何者なのだろうかとの疑問は深まるばかりだった。


店を出た後、暫く歩くと立派な建物の前についた。


「ここです。」


中へ入ると、豪華な応接間に通された。ローレンさんの傍らにはさっきの紺髪の男の人が控えていた。


「申し遅れましたが、私はロズ商会のジル・ローレンと言います。以後お見知り置きを。」


ジル! 彼がジル、いや、ジルベルトだったのか。確かにただの商人にしては格好良過ぎると思ってはいた。が、ここでジルと出会えるとは予想だにしなかった。ジルと言う名前を聞いたとき、明らかにエレノア様の肩がビクついていた。


「そして彼はこの商会で護衛として働いているアレックスです。」


私達を助けてくれた人はアレックスと言うらしい。こちらはあまり心当たりのある名前では無かった。


私達も順番に名乗った。エレノア様が名前を言われたときは流石に公爵家であることに二人共驚いた素振りを見せていた。


「ところで、探されていたのはどのようなものなのですか?」


私の無くしたペンダントの特徴を説明すると、アレックスさんが何か思いついたようにジルに耳打ちし、部屋を出て行った。彼は片手に布に包まれた何かを持ってすぐに戻ってきた。


「つい先日に拾った物なのですが、さっき聞いた特徴がすべて当てはまると思ったので持ってきました。貴方の無くされたものはこれではないでしょうか。」


そう言って見せてくれたものは、完全に私の探していたそれであった。


「ありがとうございます。」


受け取りながら、どうしても気になったので尋ねた。


「私達が破落戸に襲われていた時に助けてくださったのは貴方ですよね? あの時は本当にありがとうございました。」


「いえいえ、当たり前のことをしたまでですから、礼を言われる程のことではありませんよ。」


やはり私の直感は間違いではなかった。あの金色の目は一度見たら忘れないほど印象的だから、間違いであるはずはないのだが。ともかく、私とオリヴィアはもう一度お礼を言った。


「以前にアレックスと会ったことがあったのですね。探し物も見つかって本当に良かった。次は皆さんが気に入る様な選りすぐりの物を用意しておきましょう。是非また来てください。」


「ありがとうございます。また来ます。」


そう言って、二人に見送られながら私達は商会の建物を後にした。



〜・〜・〜・〜



ジルは去っていく少女達の後ろ姿を見送りながら、エレノアについての噂に思いを巡らしていた。エレノアが王太子に婚約破棄を宣言されたことは既に彼の耳まで入っていた。エレノアという婚約者がありながら、王太子が思いを寄せていると言われている身分違いの女が居るという。ピンク髪、愛らしい容姿、子爵という身分。噂通りの彼女を目の前にした時は、平静を装うのに苦労した。エレノアの幸せを邪魔するような人は何人たりとも許せない。だから、大衆の面前でエレノアに恥をかかせる原因になったリリアという少女のことが憎くない訳がない。しかし、彼女がエレノアと共に行動していたことが、今は一番気がかりだった。リリアという少女の行動が不可解だ。


―これ以上エレノアを不幸にしないためにも、もっと情報を集めなくては。


ジルは、もう彼女たちが消えていった方を見据えながら、そう心に誓った。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


続きが気になったり、面白いと思っていただけたりしたら嬉しいです。


感想や評価等作者の励みになります。もし良ければ、よろしくお願いします。


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