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一話 夢散歩(担当:招き菓子)

 気付けば、星空の下で横になっていた。

 今の時代では見れないような満天の星、何処か現実味のない光景が広がるこの場所には誰もいなくて、その場所に自分一人しか居ないというのはとても不思議な気分だった。


 ここは何処なんだろうか?

 ふと、そんな事が気になって歩き始めて暫く探索してみればこの場所はとても広い丘だという事が分かり、何かあるとすれば丘の頂上にあった高台ぐらい。

 その高台に試しに登ってみれば、そこからは見慣れた町を一望する事が出来たのだ。灯りが全て消えた町の景色というのは、なかなかに綺麗なモノで普段浸ることのない感傷に浸ることが出来る。


 「……そういえばこんな丘あったっけ?」


 素朴な疑問。

 自分の記憶通りなら、自分が住んでいる町の近くにこんな丘なんてなかったし、そもそも町を一望できるような丘なんてモノがあったら記憶に残っているはずだ。

 そうやって色々考えてみたけど、答えてくれる人なんてこの場所にはおらず、その言葉は空に消えていった。


「夢、なのかな?」


 口に出して見て何故かしっくりきたので、きっとこれは夢だろう。

 我ながら適当かもしれないが、こんな綺麗な空がある世界なんてどうせ夢だ。

 ここまではっきり意識がある夢とかちょっと珍しいし、それならば存分に楽しんでしまおう。


 いつまでこの夢が続いてくれるか分からないし、無駄に時間を過ごして覚めてしまうぐらいなら、早速何処かに行ってみようとそう思い、僕はあてもなくまた歩き始めた。


 そうしてこの世界を探索すること数十分、この世界には星空と何故か行けない町と広すぎる丘しかなったので、早々に自分に飽きが来てしまう。


「何もないなぁ」


 最初は走り回ったりとか色々してみて楽しかったけど、やっぱり何もないというのは堪えるモノで、これだけしかないのに覚めない夢に少し嫌気が差してきた。

 そんな時だった。

 今まで僕しかいなかったこの世界に、蝶が現れたのは。

 硝子細工のような羽を持つ、青白く光る蝶。

 そんな急に現れた一匹の蝶は、なんでか僕の前で止まって何か言いたげにその場でふわふわと飛び始める。


「着いてこい……かな?」


 ちょっと変というか恥ずかしい考えだったけど、夢だしそういう事を考えても仕方ないだろう。誰に言い訳する訳でもないけど、そう考えてから進んでみれば蝶が正解とでも言いたいのか、円を描くようにその場で飛んだ。

 そしてそれから数秒後、先導するように先に進み始めた蝶を見て特に断る理由も無かった僕はそのまま蝶に着いていくことにした。


「……こんなとこあったんだ」


 そして蝶に連れられたやってきたのは、とても暗い洞窟……というより洞穴かな?

 先の見えないその洞穴の奥からは風が吹いているし、どこかに繋がってそうだけど、なんか怖いな。

 だけど、好奇心に負けてしまった僕は蝶に連れられながらその洞穴の奥を目指すことにしたのだ。


  暗い洞窟の中で頼りになる灯りは蝶の光だけというのは不安だったけど、そんな思いはどんどんワクワクに変わってきて、歩く度にこの先には何があるんだろ? 何が待っているのかなって楽しみになってきた。


 ――いらっしゃいませ、お客様。


 「何今のって――あ、眩しっ」


 そうして辿り着いたのは良いんだけど、洞穴を抜けた先で最初に襲ってきたのは優しいけど眩しい光だった。

 ずっと淡い光を追っかけていたせいで、その襲ってきた光に目をやられてしまう。

 慣れるのに数十秒ほどかかってしまって、ちょっと嫌だったんだけど……次に目に入ったその場所を前にしてあった文句が全部消えていった。


 洞穴の先にあったのは、とても古くて風情がある洋館。

 その近くには少し朽ちたベンチや、手入れがされている庭と年季の入ったあずまや。 

 そして不思議なことにさっきまでの丘は夜なったのに、この場所には日の光が射し込んでいるのだ。


「すっごい綺麗」


 拙い感想だったけど、この場所を表せる語彙を持っていなかった僕にはそんな事しか言うことが出来なかった。


 「でも、ここにきたのはいいけど何すれば良いだろう?」


  連れられてやってきての二言目。

 ちょっと間抜けな言葉だったけど、こんな場所で遊べ-っていうのは気が引けるし僕は何をすればいいんだ?


 そう思ってその場で考え込んでいると、再び蝶が進み始めて僕を屋敷へと案内し始めたのだ。

 やることもなかったし、もうここまで来たら最後までついていこうと思って屋敷まで歩いてみると、玄関付近に辿り着いたときに急に光がさしてきたのだ


 その光に目を奪われ、そして――そこに誰かが現れた。

 現れたのは不思議な雰囲気を纏う女性。

 甘栗色の髪をしている彼女は、案内してくれた蝶に一度手を振って見送った後、こっちに微笑みゆっくりと口を開いて、


「いらっしゃいませ、お客様。私の図書館『イクソス』にようこそ」


 そんな事を告げてきた。

 だけど、急に現れた彼女になんて言っていいのか分からなかった僕はただ頷く事しか出来なかった。


「あら、いらっしゃいませでは駄目でしたか? それなら、なんでしょう?」

「あ、大丈夫ですよ。あの聞きたいんですがお客様って自分事であってます?」 


 反応しなかったせいで首を傾げさせてしまったので、少しでも早く何か言わないとと思いそう言ってみたんだけど、なんか悪手だった気がする今の……。


「ふふっ、あっていますよお客様。改めまして、この図書館『イクソス』の司書兼主のラジエルと申します。失礼ですが、お客様の名前をお聞きしても?」

「グリムです。えっとここって図書館なんですか?」

「はい、世界中の本を揃えた私の図書館です。よければ読んでいきますか?」


 夢の中で知らない人に本を読むのを勧められるという不思議な状況。

 こんな意識がはっきりしている夢の中であった人など普通じゃない気がするが、世界中の本っていう言葉に惹かれてしまった僕は、彼女に案内されてこの図書館に足を踏み入れることにした。


  図書館に入って最初に目に入ったのは圧巻という言葉出るほどの本の量。

 一面を埋める本棚、天井まで本に埋め尽くされたその空間にはどうやったらそこの本取れるんだといいたい所にまで本が詰め込まれており、言葉を失ってしまったのだ。


「おすすめは童話を揃えた本棚です。『不思議の国のアリス』とかがおすすめですよ」


 おすすめされたのは誰もが一度は名前を聞いた事がある筈の有名な童話。

 内容としては兎を追いかけて穴に落ちた少女が不思議な国に迷い込んでしまい、そこで個性的なキャラ達と出会いながらその世界を冒険するというもの。

 なんとなく蝶を追いかけて此処にやってきた僕と境遇が被ってるなと思いながらも、良い機会だしちょっと読んで見ようと思ったので僕は彼女に案内されて童話の棚までやってきた。

 そういえば、僕は内容は知ってるけど実際に『不思議の国のアリス』を読んだことはないんだよな。

 それがちょっと変でで笑ってしまいながらも、僕は初めて読むアリスの物語を楽しむことにした。


「それでお楽しみくださいませ。何かあったらお呼びくださいね」


 読み進める度に眠くなり、読むのをなんでか止められない。

 そんな不思議な感覚に襲われる中聞こえてきたラジエルさんの声。その声が聞こえた瞬間、操り人形の糸を切ったかのような感覚を覚え自分の意識が落ちていくのが分かった。

 まだ読み終わってないのに、そんな事を思いながらも何故か嫌じゃなかった僕はそれを受け入れるようにうつ伏せに倒れ込み、どこからか聞こえるチクタクチクタクという音を最後に聞きながら僕は意識を手放した。

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