006
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「そろそろ目が覚めたか?」
「うぐ……あう…………えと……あれ?」
「これでノインは世界初の完全なる不死者となったわけだが、何か感想はあるか?」
ベッドの上からノインが起き上がると不思議そうに辺りをキョロキョロと見回して、俺の言葉でようやく儀式の成功に気が付いたようだ。
「……すごく痛いのかと思ってました」
「一番初めに痛覚を一瞬で遮断したからな。
痛かったとしても針で刺されたくらいじゃないか?」
「それにしても……物凄い魔力ですね」
「最初だからフルチャージしておいた。
無駄遣いしなければ100年くらいは持つんじゃないか?」
この不死化の副産物としてほぼ無尽蔵に魔力が貯蓄できるようになるというものがある。
ノイン用に俺の魂の30%程度を記憶の蓄積の為に活用できるようにしたのだが、その外部に存在する魂を魔力を保管する倉庫のように扱う事ができるようで現在のノインの魔力はそのまま俺の30%である。
デメリットは俺がそのノイン用の魂に対してほぼ干渉できないという事と、その30%魂が常に術式の維持に活用されることで魔力を一切生産できないという事だろうか?
これで俺は常に7割の力で動く必要があるのだが、それでも全くと言っていいほど問題は無い。
というか俺の魂がデカすぎるんだよな。
人間数千人分、下手したら一万人分を超える程の膨大な魂だ。
……うん、この世界の神を信仰していた死者の魂が片っ端からこっちに来るからな。
仕方ないね。
「一応吸血鬼化の魔法もちゃんと作動してるみたいだし……何一つ欠点は無いかな?」
「吸血の力って本当に必要なんですかね?
神様が魔力をくれるならそれでいいと思うのですが」
「ただのロマンな面もあるが、俺がいつまでも魔力を与えるって訳には行かないからな。
ま、頑張って生きてみろ」
俺がさっさと不死になれる方法を見つけられればいいのだが、残念ながらまだまだ先は長い。
魂に干渉ができるようになったとはいえ、ゴリ押しをしただけなので魂のどこに何があってと言ったものはさっぱり分からない。
言うなればHDDを用意してフォルダ作ってその中にSDカード内のデータを丸々放り投げただけだからな。
何がなんのデータだとかそう言った事はさっぱりと言っていいほど分からない。
ここから俺がやる研究とはつまりその訳の分からない山のように存在するファイルとフォルダーがどんな役割を持っているのかを総当りで検証し、そのファイルのデータ構造がどうなっているのかを比較して調べ、最後にどうしたら寿命を伸ばせるかを調べる必要がある。
例えるならばプログラミングも一切知らない人に0と1の羅列を渡してから「これをより効率化しろ」とか言っているようなものだ。
しかも、ネットや図書館を使って自分で調べる事もできなければ知っている人に聞くなんて事もできない。
ああ、それは膨大な時間と膨大な作業が必要な事だろう。
改めて自分のやろうとしている事の膨大さを感じる。
「今日はこれから会議の予定だけど一緒に来るか?
それとも今日は休むか?」
「いえ、行きます」
「了解っと、なら少し早いけどこのまま行くか」
会議と言うのはこの国を動かしている要人達による話し合いで、今後新しく施行する法律について話し合ったりする場だ。
まあ、形式的な要素が全くない国会に近い。
……だが何故か一般の人たちには神から知恵をさずかる場とか呼ばれており、無駄に神聖視されている。
会議の場所はこの神殿のピラミッド内部の方ではなく、上側に作った大聖殿と呼ばれている建物の部分だ。
それなりに大きいのだが中身は一般向けに公開されている礼拝堂等の各種教会としての施設、後は会議室に資料の保管庫くらいの部屋しか存在しない。
というか資料の保管庫を無駄にデカく作り過ぎたので殆どが保管庫である。
元々石版や粘土板で保管していた為にこのくらいは使うかなぁと思っていたのだが、牛やヤギ、羊の皮を使った皮紙の開発に成功したので今ではもはやただ無駄にデカいだけの保管庫である。
作った奴は賢者の称号を与えても良いと思う。
「お? ウロか、まだ少し時間はあるがもう来たのか?」
「とりあえず今日の用事は終わったからな」
俺がノインを連れて会議室まで行くとそこにはもうジェトが来ていた。
時計を見るとまだ30分位の時間があるが、早いのには問題ないだろう。
ちなみにこの部屋にある時計は俺が魔法技術をバリバリに使用して作った魔道具だ。
1日の長さの24分の1を一時間、その60分の1を分、そのさらに60分の1を秒としてクルクル針が回転する現代の時計とほぼ同じ性能をしている。
完全なるオーパーツだが、その性能は現代の時計よりは下だ。
その理由はいくつかあるが、一番はこの時計が実は人力であるという事だ。
この時計の中身は1:60:720の比で歯車を組んだものに針を付けてそれっぽく装飾しただけで、電動でもなければ振り子時計でもない。
俺が正確に秒針を回転させる術式を付与しているだけで、あとはそれに俺が魔力を流し続けているというわけだ。
目下魔力を貯蓄する方法を模索中だが、そもそも魔力が物理的な性質を所有しないのでかなり難航している。
不死化の魔法で完全なアンデッドを作成してやればそれでも何とかなると言えば何とかなるのだが、もっとちゃんとした方法で魔力を貯蓄したいものだ。
これができれば魂の外部記録もできる可能性が出てくるので俺に頼る事のない完成された吸血鬼も行けるんじゃないかなぁと考えている。
いや、俺の魂を外部記憶として使用している方が強さ的には上なので完成された吸血鬼と言うのは言い過ぎかもしれない。
仮に言うならノインが真祖、この方法で作られた方は始祖と言った感じだな。
「おや? 少し遅れましたかな?」
「ん? エルキスか、十分早いぞ。
というか俺達3人が早すぎるんだ」
俺達3人の次にやってきたのはエルキス・ファルマルクスという赤髪で長身の男だ。
この国の二代目財務大臣であり、商業方面の事を取り仕切っている。
分かりやすいように言うと商業ギルドのギルマスと言ったところだろうか?
殆ど商業なんてものがなかった時代の人とは思えない適応力で、あっという間にそれなりの数学を身につけ、それを応用して一代にして莫大な財を手に入れたらしい。
どのくらいすごいかって言うと、先代の財務大臣の前に金貨を積んでこの地位を買ったと言えば分かるだろうか?
分かりやすい商業方面に特化した天才だ。
あの世界の日本に生まれていると間違いなく使い潰されていた気がするので本当に良い時代に生まれてきてくれたものだ。
「ここ色々揃ってるし、時計もあるから書類仕事がどんどん進むんだよな。
こんな大神宝台の上になければ毎日ここで仕事したいくらいだぞ」
「ははは、さすがの私もウロ様の居城に毎日居座るのは遠慮してしまいますなぁ。
むしろジェト様はよく気後れしないもので」
「俺とウロは生まれた時からの付き合いだからな。
あと、俺の真似したら割とガチで神罰が下るから止めとけよ?」
「……確かにジェト以外にされたら良い気はしないな。
まあ、今の所使徒って言うのは俺の友達とかそう言う意味だからな」
そう言えば昔は何も気にしなかったものなのだが、最近は軽い口調で話してくる奴に対して無性にイライラする事がある。
もしかしてそろそろ俺も老化が始まっているのだろうか?
……ダメだ。
老化なんてすれば心が死ぬので、そろそろ心に活力を与えておくのも良いだろう。
カジノでも作るか?
「あの神様、お茶です」
「お、ありがとう。
ノインもジェトと話してていいんだぞ?」
「公私混同はちょっと……あくまでも今は神様の付き人としてここに居るので」
「ははは、ノイン様はいつも通り堅苦しいですなぁ」
「全くだ、父さんちょっと悲しいぞ?」
無駄な雑談をしながら時間を消費していると、予定の時間になったようで残りの3人が会議室まで入ってきた。
まず1人目はかなり白っぽい金髪に、青い瞳、ノインよりも3歳くらい年上のウロル族の女性。
現在ウロルの部族を取りまとめているミェンの娘、教会を実質的に取りまとめているチェンだ。
もしかしたらAPPカンストしてるんじゃね? という程に美形で、二次元派の俺も思わず手を出しそうになった。
傾国の美女とはまさにこの事だろう。
前世で神加工師の手による魔加工で限界突破したレイヤーさんを拝んでなければ俺の童貞はここで消費されていただろう。
いや、別に童貞を保持する必要はないんだが仮に子供ができたりしたら色々とやばい事になるのでヤリたくても手が出せないというのが現状だ。
え? ノイン?
確かにありと言えばありなんだが……親友の娘なので向こうからの誘いとかがなければ無しだ。
話が逸れたな。
その次は黒髪の緑色の瞳をした大柄の男性だ。
名前はバッザ・ハルベルク、役職は司法で一言で言うと最高裁判官とか警視長官だろう。
……まあ、大事になれば俺が出てくるので裁判方面の役割は多分ないだろう。
この国の治安維持に最も貢献してくれている人物だ。
で、最後がロウェン。
白金の髪に青い瞳のウロル族の女性で役職は立法。
いわゆる総理大臣のようなものだが、主な仕事は法の文面を考えたり小さな法の制定と、日本の総理大臣のように国の長という地位ではない。
以上七名がこの国を動かしているメンバーだ。
「よし、これで全員集まったな。
ではこれより第17回、ウロル聖国会議を行う。
司会はこのウロが、書記はノインとロウェンが行う。
まずはこの国全体の現状についての報告をジェトに行って貰う」
「はいよっと、まず現在の人口は13000人。
前年度から牛の飼育が始まった為、肉が不足していた問題はそのうち解決されると見ている。
とりあえず抱えている問題はこのウロル平原の土地を丸々使い切った為、これ以上の拡張には森林の伐採が必要って事だな」
あー、そろそろ土地がヤバいとか何とか言っていたがついに使い切ったか……。
森林を伐採するのは手間だし、後々で環境問題が酷いことになるので無しだ。
仮にやるとしてもそう言った問題を解決する為に緩やかに拡張してやる必要があるので、もうこの都市の拡張は百年単位で見ておいた方が良いだろう。
「この問題に対しての案がある者はいるか?」
「じゃあこのまま俺が、言った通りに森林を切り開く許可が欲しい。
木材も手に入るし一石二鳥だと思うんだがどうだ?」
「それに関しては保留だな。
急速な森林伐採はあくまでも最終手段にしておいた方が良いだろ」
「あいよ、分かった」
伐採だけなら本当にすぐなんだが現在は木材の消費先も限られているし、かなりの数の木材を余らせる事になってしまうだろう。
さすがにそれはナンセンスだ。
「あ、あの、神様……私から良いでしょうか?」
「良いぞ? チェン、好きに話してみろ」
「は、はい……えと、こ、ここ以外にも、町を作ったらどうかな? って、思いました」
「ふむ、悪くは無いですなぁ」
「ただこの地を離れたがるヤツがいないというのが問題じゃあないか?
そもそもここには神様がいるってんで来たヤツが多いんですぜ?」
「いや、取れない手段じゃないんじゃねぇか?
それなりに高額な報酬で雇うって言うのはどうだ?」
……ふむふむ。
他にもその町を統治できる自治権を与えてやるのも手だろう。
せっかくなのでこの際貴族制度を本格的に作動させるのもありか?
他にも最初の1年間の間に転居してきた者は今後税を10年間に渡って収めなくてもいいとかいうのも十分にありだろう。
「あの、1つ良いですか?」
「ん? なんだロウェン」
「その場合の法律ってどうなるのでしょう?
この街の法をそのまま適応するという事で良いのでしょうか?」
「そうだな、仮に決定した場合には大きな法はそのままで、小さな法や具体的な内容はその街で決めるという事になるんじゃないか?」
「基本法までは共通という事でよろしいですか?」
「ああ、そのくらいでいいんじゃないか?」
基本法と言うのは俺が作った法とこの集まりで話し合って作られた法律の事だ。
これら二つが法典と呼ばれているものだ。
この国の法はここに、ロウェン達が作り上げた実際の刑罰の内容等を決める法の3つに分かれている。
将来的には俺の法が全ての国で共通の法、その次にその国限定の法、次にその街限定の法というふうに分けていく予定だ。
「……もうこれ決定で良くね?
反対者いないんじゃないか?」
「そうだな、反対の者はいるか?」
「ははは、どうやら全員一致で可決のようですな」
「だな、じゃあ次に行くか……」
こうして様々な事を話し合い、会議は着々と進んでいった。
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