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005

お読み頂きありがとうございます!

「はぁ……、これでもダメか」

「神様、お疲れ様です」

「ん? ノインか」



 俺が1人で部屋に篭って作業を重ねていると、入口から一人の少女が入ってきた。

 俺の親友にして、俺の使徒としてこの国をまとめ上げてくれているジェトの娘だ。

 俺の次に強い魔力を持ち、聖女などと呼ばれている彼女ももう15歳だ。



 俺も前世と合わせるとそろそろ60の大台に登るし、本当に時間の流れというものは早いものだ。

 しかし、時間の流れに反して俺の研究はさほど進んでいない。

 聖典の作成や、国の政治に手出しを行っていたせいで時間が取れなかったというのもあるが絶賛スランプ中だと言うのが一番大きい。



「ノイン、そもそも『魔力』とはなんだと思う?」

「え? 魔力ですか? 

 えと……魂が生み出している力の事ですよね? 

 …………そう言えば何なんでしょうか?」

「それが分からん」



 魂の力と一言に言ってもその実態はかなり難しい。

 そもそもなぜ実態を持たない魔力が実態を持つ物質に干渉することができるのだろうか? 

 ついでに言えばそもそも魔力とはどのような実態をしているのだろうか? 

 さっぱり分からない。



 魔法は主に3つに分類することができる。

 炎を出したり、雷を出したり、風を起こしたり、特定の物質を集めたりと物質そのものに干渉する物理魔法。

 傷を治したり、病を癒したり、身体を強化したりする生き物に干渉する生命魔法。

 そして最後は魂や魔力そのものに干渉する魂魄魔法。

 これら全ては魔力で行っている事だが、それらに関連性があるようには思えない。

 魔力とは一体なんだ? 



 俺は物理魔法を息をするかの如く起動することができるし、生命魔法だって同じだ。

 だが、最後の魂魄魔法だけはそうはいかない。

 しっかりと意識をもって魔法を行使しなければあっさりと失敗するし、これだけに関しては俺も高度な事は全くと言っていいほどできない。

 そもそも操ろうとしてる魔力が何なのか、魂が何なのかという事を知らないので当たり前と言えるかもしれない。



「だから手始めにそもそも属性魔法がどうやって起動しているのかを調べようとしたんだがな……」

「その様子だと無理だったんですね」

「ああ、まるで魔力と引替えにポンと炎が出てきたって感じでな。

 そこに過程は一切存在しない事が分かった」



 例えば俺がここで魔力を使って3メートル先のロウソクに火をつけたとする。

 すると当然そこには魔力の流れが発生する筈だ。

 だが、『そんなものは無い』



 当然検出方法は色々と変えてみた。

 最初は純粋に魔力感知で調べていたのだが一切の魔力が検出できず、魔力の流れが速すぎて検出が行えないのだと想定してこの方法は断念。

 次に俺の周囲に球体状の超微細な魔力障壁を張り巡らせ、魔力障壁の外部にあるロウソクに火をつけてみたのだがこれでも感知する事はできなかった。

 これで俺が想定したのは魔力は三次元空間に伝わるような力ではなく、重力波のように超次元的なものだと言う説だ。



 つまり、その超次元空間場全てを魔力で覆ってやれば確実に魔力の検出が行えるのではないかと思って研究を重ねて実践してみたのだが、これでできるのは重力の遮断だけで魔力の検出を行う事は出来なかった。

 最初は魔法がしっかりと行使できていないのかと思っていたのだが、残念な事に重力を遮って空を飛ぶ事に成功してしまったのでその説は消えた。



 その状態だと手から放出するような原始的な魔法の場合は機能しなくなるのだが、起点指定型の魔法はこれまで通り何一つ変わること無く機能してしまう。

 結局どれだけ手を尽くしても魔力そのものは未知だったという訳だ。



「あの神様が空を飛んでたのってそう言う意味があったんですね。

 ただの趣味かと思ってました」

「まあ、趣味も半分くらい兼ねてるな」



 だってそうだろう? 

 子供の時に1度でいいから生身で空を飛んでみたいと考えた事はある筈だ。

 アニメの空を飛ぶキャラクターに憧れた経験はある筈だ。

 それが実際にできる身になれば空の散歩が日課になってもおかしくはないだろう? 



「いや、それはいいんだ。

 問題は魔法を行使した時に魔力の流れが検出できないって点だ」

「もう魔力ってそういうものなんじゃないでしょうか? 

 別に魔力が物理的に存在する必要はないと思いますよ」

「……」



 ありえないとは思う。

 だがもしも仮にそうだとしたらどうだろうか? 

 魔力がそもそもこの世界に存在しないとしたらどうだろうか? 

 この世界の中に何らかの事象として存在するのでは無くその外側に存在する法として機能しているならば、確かにそんなものを観測するなんてできるわけがない。



 仮にこの説が正しいならばこの世界は三元論が成立する事になる。

 その物質は命がなければ自分から動く事はない。

 その命は魂がなければ何も判断できない。



 ゲームで説明するならばマップに存在するタイルやアイテムが物質、キャラクターやNPC等が生命、なら魂とはそれらを動かすデータとなる。

 ならば魔力とは本来、魂によってキャラクターを動かす為に必要なコストという訳だ。

 それはどんな素晴らしいゲームでも電力が無ければ動作しないのと同じように。



「ノイン、俺の実験台になる気はないか?」

「え? 実験台ですか?」

「ああ、研究の手伝いでもなんでもなくて、ただの実験台だ。

 当然失敗する可能性もあるが俺は成功を確信している」



 なら魔法は魔力によってそのデータを改変しているのだろう。

 つまり、つまりだ。

 肉体を無理やり固定化した時に魂が剥がれ落ちる現象は(データ)身体(オブジェクト)と結び付かなくなったから起きたのではないだろうか? 

 本来、魂が身体(オブジェクト)を参照する為に必要な情報は同様に刻一刻と変化するものだとしたらこれにもしっかりとした説明を行うことができる。



 なら後はその魂に存在する身体の情報を固定化してしまえば完全なる不死者(アンデッド)を作り出す事ができる。

 その結果新たな記憶や知識を蓄える事ができなくなるとしても、俺の無駄にデカい魂に記憶や知識を貯蓄していく事ですぐに解決が可能になるだろう。

 残った問題は自分で魔力を生産できなくなる可能性だが、これは人間の血や体液を吸って魔力を蓄える魔法が既に存在するので何も問題は無い。



「久しぶりに研究が大きく進歩しそうだ。

 確か、先月死刑判決を受けた犯罪者が3人居たよな?」

「は、はぃ!」

「ジェトに俺が使うって伝えてから連れてきれくれ。

 俺は今すぐ儀式の準備に取り掛かる」



 さあ、新たな時代を切り開こうか! 



 ■




「はぁはぁ……あ、あんな神様の笑顔初めて見ました」



 あの時の神様の笑顔は明らかに狂気に満ちたものだった。

 あの笑顔を見た瞬間、今すぐにでも殺されてしまいそうな透き通った恐怖が私の背筋を走り抜けた。

 あれが神様の本性なのか、それともたまたまそう見えただけだったのか。

 ……この考えは止めよう。



「もしも神様がそれを望むなら既にこの世界は滅んでしまっている筈、だから……大丈夫」



 そんな頼りない言葉で自分の心を鎮めつつ、私は家の扉を開けた。

 神様によって直接的に保護され、この世界で5本の指で数えられる程の不朽の家。

 家族みんなで暮らすこの家が今は一番落ち着ける。



「お? ノインかこんな時間に帰ってくるなんて珍しいな」

「お父さんに用事があって帰ってきただけだよ。

 神様が死刑判決を受けた人を使いたいって言ってるから連れて行っても良いかな?」

「ん? 別に構わないが……もしかして今からか?」

「うん、出来れば早めに連れていきたいんだけど」

「それならこの書類にサインしといてくれ」



 神様は死刑判決を受けた人を連れていく。

 人の命を直接奪う、極刑。

 死刑執行を行えるのは神だけだと法典には記載されている。

 使徒であるお父さんも含めて多くの人はその真相を知る事は無く、魂を浄化しているとかそんな風に教えられている。



 だが、私は知っている。

 死刑の判決を受けた者は神様の手によって極限まで弄ばれることになる。

 許しを乞い、どれだけ自分の罪を悔い改めてもそれは変わらない。

 苦しんで、苦しんで、苦しんで、もがき足掻いて最後には死ぬのだ。



 私には魂の清さなんて分からないけど、きっとあれだけ苦しめばどんな魂だって綺麗になるだろう。

 いつもなら私も平然とその神様の裁きに参加しているけど、今回ばかりは受刑者が少し可哀想だ。

 今回の神様が行うのは魂そのものの改変、つまり受刑者は生きたまま魂そのものを弄り回される。

 それは間違いなくこれ以上無い程の苦しみだろう。



 ……だけど、これで私は神様よりも一歩早く不死の扉に手が届く事になる。

 それに神様の裁きを受けるのはどうせ畜生以下の犯罪者。



「……なら、その最後くらいは有意義に使ってあげた方がいいよね」

「ん? 何か言ったか?」

「ううん、なんでもない。

 私がこのまま連れていってもいいの?」

「もちろん構わんぞ。

 というかノインなら顔パスで通れるんじゃねか?」

「これでも私は神様の付き人だからね」

「ただいまーって、姉さん!? 

 もう、帰ってたの?」



 私が書類を書きながらお父さんと話していると妹のフィナが帰ってきた。

 基本的にフィナは家でお父さんの仕事を手伝っている事が多いのだが、最近はかなり彼氏ができたらしく遊びに行っている事が多い。

 国中を歩き回って人助けをして回るカップルとして最近の話題に上ることが多いのでそこだけはよく知っている。



「ちょっと用事があっただけだけどね。

 これから牢獄に行って神様の所、今日は遅くなるかも?」

「神様と会えるなんて姉さんはほんと良いよね。

 別に代わってくれても良いんだよ?」

「フィナは難しい事を考えるのは苦手でしょ?」

「うぐ……、まあそうだけど」

「それよりもノイン、こんな所で話し込んでて大丈夫か?」

「あ! い、行ってきます!」



 神様は普段はまったりとしているのだが、いざ何かをすると物凄いスピードで作業を進めるので私も急がなければ神様を待たせてしまう事になってしまうだろう。

 とりあえず全身に強化魔法を掛けて、私は家から飛び出した。





ブクマ、評価等ありがとうございます!

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