003
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「くくく、ふははッ、フーッハハハハ!」
俺は漆黒のマントを翻し、大きく笑い声を上げた。
なんでこんな事をしているかだって?
それは俺の研究がついに完成したからである。
若返り?
いや違う、そっちじゃあない。
探査魔法である。
開発に5年も掛かってしまったが文字と簡単な算数の普及がちょうど完了した頃合なのである意味完璧である。
これがあれば俺は世界中から金という金を集める事ができるだろう。
ピッケル? 要らん。
素手でいいんだよ素手で。
スティーブさんが拳で岩を砕けるのにこの俺に砕けない訳が無い。
あれからさらに肉体強化を極め、さらに肉体も23歳と完全な全盛期なこともあってその気になれば拳の一撃で地面に大穴を空けれるレベルである。
抽出の魔術を使って素手で金属をそのまま抽出することもできるし、あとは金を見つけてくるだけである。
そうと決まればジェトに後を任せて探査魔法の示す方向に全力疾走するだけだ。
「と、言うわけでジェトよ。
しばらくこの国は任せたぞ」
「おう、まあよくは分からんが頑張ってこい」
「多分5、6日くらいしたら帰ってくるからその間に何か大きな事があればお前の判断で何とかしといてくれ」
「大きな事なんかまずねぇだろ、麦作のお陰で飢えに苦しむことも無ければ、新しい部族がうちに加わることもねぇだろ。
この辺り一帯の人間は全部うちの国で暮らしてるんだぜ?」
「まあ、確かにそうだな。
それじゃあ行ってくるぜ」
「おう!」
あれから5年、もうこの辺りの人類は全て俺の国の所属となっており人数はもう物凄い程に膨れ上がっている。
まだ一万人には届かないがそれでもまだ届かないと言うだけで来年には絶対に5桁の大台に登る程だ。
古代メソポタミア文明の都市であるウルクにどれだけの人が居たのかは知らないが、意外といい勝負なんじゃなかろうか?
ただ、残念ながら俺に出来るのは金属製の道具で限界なのでこれ以上の発展はしばらく見込めそうにない。
というかここまで出来た事がもう殆ど奇跡に近いんだよなぁ。
魔法文明の進みだが、こちらに関しては全くと言っていいほど進んでいない。
俺の魔力はこれからもどんどんと向上させていくつもりだし、他の人も頑張って魔力を増やして欲しいものなのだが、残念ながらチート持ちの俺と違って普通の人は魔力が伸び続けるなんて事は無い。
いくら俺が新しい魔法の技術を生み出したところで魔力が足らなければ使えないし、分不相応な術式を使おうとすればただ意味もなく命を落とす事になりかねない。
だから炎を起こす魔術が精一杯だったわけだ。
だからもし俺が転生すること無く世界の時間が流れてしまえば、そのうち魔法よりも簡単に火を起こす方法を人間は身に付けて確実に魔法は廃れた筈だ。
魔術とは普通の人ならば何年も鍛えてようやく身に付けれるような小技的なもので、その何年かの努力はただ少しの間だけ木を擦り続けるだけのものと等価だし、火打ちとかが誕生するとほんの数秒間で数年分の努力は消え失せる。
あとは使わない者がやがて消えていくように進化の過程で失われた力な可能性もある。
何が言いたいのかって?
つまり、この世界は現実の地球と同じ世界な可能性が少なからずある。
そもそもよく考えてみると全く違う法則が成立しているのにも関わらず完全に同じ人間という生物が存在するのはおかしな事だ。
それは微かな可能性がたまたま生じただけの奇跡か、それともただの必然か?
俺は間違いなく後者だと思う。
奇跡的な偶然なんて滅多に起こるものでは無い。
何かが起こるためには大抵理由と原因と過程が存在するものだ。
リンゴが木から地面に落ちるのも重力という原因があるし、一見無作為に見える乱数にも時間やフレームと言った原因があるように基本的にありとあらゆる世界においては因果律が保たれている。
ならば俺の転生にだってもちろん原因がある訳で、その原因はしっかりとした何かしらの法則に基づいてできている筈だ。
まあ、その法則が何なのかは知らないが同じ法則の範囲内で他の法則だけが違うなんておかしな話って訳だ。
「まあ、そのうち確かめてやるさ」
そんな事を考えながらひたすらに走り続けると5時間程度で目的の場所に辿り着いた。
地面から-10メートルから上の範囲でそれなりの鉱脈を探索したせいもあって、俺が見つけたのはそれなりの山だった。
えーと、この鉱脈にあるのは……って金より銀の割合がめちゃくちゃデカイな。
「金1、プラチナ0.2、銀11.2、銅10.3、鉄5.6、スズ6.2って結構色々な金属があるんだな……」
金だけを探査したつもりだったのだが、意外とそれ以外の金属も多く含まれていた。
後で他の金属も探しに行く予定だったので一石二鳥を超えて遥かに得した気分だ。
「えーと、どうしようか、とりあえず片っ端から掘りあげて金属だけ抽出魔法で取り出していくか……」
この抽出魔法で目の前の山から丸々金属を吸い出せればいいのだが、範囲が広いわけではないのでそういう事はまだ無理ゲーだ。
今までは地面や水から塩を抽出するくらいしか使い道がなかったから明らかに練度が足らない。
素手でいいだろ素手で。
「ホイホイ、ってもうあったよ……」
しばらく戦うつもりで念入りに強化魔法を施して素手で地面を掘り返していると、早くもそれっぽい岩の塊が出てきた。
これを無理やりひっぺがして、金属を片っ端から抽出!
「おー、出てきた」
この作業を繰り返すだけなのだが、一山丸々削るとなるとさすがの俺でも数日は掛かりそうだ。
さてと……気合い入れていきますかね。
■
「あ、あの、お父さん!」
「ん? なんだよ。
こう見えても意外と忙しいんだぞ?」
「いえあの、か、輝く山がこっちに近付いて来てます!」
「あ? 輝く山だ?」
ジェトがそう言って外に目を向けると確かに輝く山としか形容出来ない超巨大な何かがこちらに向かって来ていた。
しかも、それなりに速いスピードでこのまま向かって来ればあと数分でこの国へと辿り着くだろう。
「はぁ……なんでウロが居ない時にこんな……あれ?
もしかしなくてもウロじゃね?」
「ふえ?」
「うん、ウロだ。
お前が大好きな神様の事だよ」
「あ、あれが神様ですか!?」
「いいかノイン、よく聞けよ。
あの神様は何でもありだ、いちいち驚いてちゃキリがねぇぞ」
ジェトは自分の娘の頭を優しく撫でながらウロを迎える準備をする。
準備と言っても軽い食事くらいしか用意する事がないのだが。
「ノイン、せっかくだしお前も来るか?」
「い、良いんですか?
何か無礼な事をして怒られたりとかしませんか?」
「別にそんな事で怒る奴じゃねぇよ。
ほれ、神殿に行くぞ」
「は、はい!」
■
「うぃー、帰ったぞ」
「おう、というか大騒ぎになってるぞ?」
俺が金属の山を引っ張って戻ってくるとジェトが出迎えてくれた。
即席の車輪をいい感じに取り付けれたおかげで帰りもかなりのスピードで帰って来れたのだが、俺の作った神殿並の山が結構な速度で突っ込んできたろそりゃあビビるわな。
「すまん、先に一言伝えとけば良かったな。
で、お前の後ろに隠れてるそいつは?」
「おいノイン、いつまでも隠れてないで挨拶しろ」
「ひゃ、ひゃい!」
「初めましてだな、知ってるとは思うが俺はウロ。
まあ……あれだ、神様って奴だ」
「あの、私は使徒であるジェトの第一の子、ノインと申します!」
あー、やっぱりジェトの娘か。
まだほんの4、5歳くらいの年齢なのに普通の子供と比べてかなりしっかりとしている。
俺なんか5歳くらいの時なんてイタズラぐらいしかしてなかった悪ガキだったのにな……。
ジェトや俺と同じ白っぽい金髪の髪と青い瞳をしており、何かビクビクしていて可愛らしい。
「って第一のって事は他にも居んのかよ」
「言ってなかったか?
娘が二人と息子が一人、全部で三人居るぜ」
「知らなかったぞ……」
そうか……、まああの日本と違ってそれなりに昔の時代だし、子供はポンポン産んでなんぼって世界だからな。
5人兄弟とか、6人兄弟とかそう言うのも結構多いし、乳児死亡率が一気に下がってからは人口が増加するのも当たり前と言うものだ。
産まれたての子供の免疫力ってかなり弱いし、ちょっと前までは衛生状態も極端に悪かったから大人になるまでの間に何かしらの病気に掛かって死ぬケースが非常に多かった。
だがしかし、ここ数年間で衛生状態はかなり改善されたし、俺が簡易的な治癒魔法の開発に成功したお陰で病気にかかってもそれなりに何とかなるようになった。
治癒魔法とは言っても外傷には全くと言っていい程効果は無いし、毒にもほぼ無力。
だがウイルスや細菌が原因の場合にはどんなものでも大抵はこれで一発というものだ。
あまりこの魔法に頼りすぎると、あの世界の人々が薬でそうなったのと同じように免疫力が低下してくる懸念があるので超重度ですぐに死にそうな人以外には使わないようにしている。
なんもかんも俺に頼るなって話だ。
おっとと、話が逸れたな。
今はこの娘、ノインの話だ。
とりあえず魔力の才能だけ見ておくか。
「ふむ、ノインちょっと失礼」
「ふえ?」
俺はそう言ってノインの頭に手を置いた。
どうやら脳に魂的な何かが宿っているらしく、脳に流された魔力はその魂の力と反発し合う。
この反発力の強さで魔法の才能がどれくらいなのかというのが一発でわかるのだ。
え、俺? 自分の右手で自分の右手が掴めるとでも?
「ふむ? 意外と良い魔力してんな。
頑張って鍛えればファイヤーボールくらいなら何とかなるか?」
ジェトもそれなりの魔力を持っていたのだが、ノインはジェトとは比較にもならない程の強力な魔力を持っている。
だが、1%くらいの魔力を込めた時点で貫通したので抽出魔法や肉体強化での無双となると厳しいだろう。
使えて治癒魔法といった所だが、それでもかなり凄い事だ。
「なぁ、ジェトこいつくれね?」
「はぁ? お前女には興味ねぇって言ってなかったか?」
「いや、違ぇよ! こいつかなり才能があるから俺の弟子にしても良いかって話だ」
「なんだよ弟子か、紛らわしい言い方するなよ」
「で、弟子ですか!?」
「結構本人は乗り気だな、とりあえず飯でも喰いながら話そうぜ」
まあ、確かにこんな所で立ち話もあれだしな。
時間もちょうど昼時だし、確かにいい頃合いだ。
■
「それにしてもこの塩って奴すげぇよな。
ふりかけるだけで肉が何倍も美味くなるんだからよ」
「まあ、俺が魔法で作り出してるからな。
今はまだ俺とお前の親戚だけの特権みたいなもんだし、しっかり味わっとけ」
「このお肉、歯応えがあって美味しいです」
三人で金網を囲み、昼からいきなり焼肉である。
いや、金属が手に入ったらそりゃあ金網を作るだろ?
そしたらもう焼肉一択というわけだよ。
火は俺がいくらでもいい感じの物が起こせるので炭を用意する必要も無いし、肉は神殿の地下に巨大な冷凍庫を作り上げて保存してあるのでそこそこな貯蓄がある。
俺が1ヶ月に1回くらいのペースで全力の氷魔法をぶち込むだけで室内の温度を保つ事ができるので手間もかからないし、肉の日持ちは良くなるしで良いこと尽くめだ。
ただ完全にカチンコチンなので解凍は炎の熱で解凍するか、太陽の力で長時間掛けて解かすしかない。
米はないのでその代わりに麦を炊いて食べているのだが現代人の味覚を持った俺も普通にいける。
自分で努力して頑張ったものなのでその分の補正が掛かってあの世界で食べた料理よりも美味く感じる。
「あの、それで私は弟子になっても良いのでしょうか?」
「別に反対する理由はねぇだろ、仮にも神様なんて呼ばれてる奴に鍛えられるんだ。
弟子になりたいなんて烏滸がましいなんて言う奴も居るんだぜ?」
「まあ、確かにそういう奴って結構居るよな。
堅苦しい奴がどんどん増えていくせいで俺がまともに会話できるのってお前くらいだぞ?」
宗教があったからこそ人が集まって建物を作り、街を作り、言葉を作り、国を作ったとかいう学説もあった気がするが、それはまさに宗教というものの力をありのままに語っていると思う。
日本で暮らしていた頃は宗教が原因で戦争とかバカバカしいとか思っていたが、今はもうそういう事は一切思えない。
神が死ねと言えば喜んで首を差し出すような、そんな間違いなく狂気に見えるものが宗教なのだ。
俺はいつの間にか神として信仰される事になったのだが、それは冗談で崇められている訳じゃない。
この国に暮らすほぼ全ての人が俺を心の底から崇めているのだ。
王様や貴族に転生とかで慌てふためくキャラクターが描かれる作品が描かれる作品があったが、敬われかたはあんなもんじゃあない。
「確かにそうだよな、お前が俺以外と話してるのなんてもう最近は全く見かけなくなったしな。
あるとすればミェンか各部族の族長くらいか?」
「ガチでそんなもんだぞ、というかミェンも今は族長みたいなもんだしな」
「族長ねぇ、昔は部族のトップってことでちょっと憧れてたんだが今はその族長を顎で使えるんだぜ?」
「まあ、お前が実質的にこの国をまとめてくれてるんだからそりゃあそうなるわな。
あ、そうそう。
ようやく色々と落ち着いてきた頃だとは思うんだが、もう少しするとまた忙しくなるぞ?」
そう言って俺は各種ルールに関して説明をしていく。
ジェトが全く知らないってものは通貨くらいなのでそこの説明だけはしっかりとしておく。
というか現代日本人でも殆どの人が通貨って何なのか知らずに使ってるんだよな。
通貨とは「交換媒体」の事だ。
例えばAという物とBという物を交換したい人が居るとしよう。
この時にAが欲しいのだが今持っているのはEであってBは持っていないという人は一度EをDに換えて、DをCに換え、CをBにという風に何回か交換を重ねていってAを手に入れる必要がある。
これを解消する為に必要な交換媒体が通貨というわけだ。
この通貨には昔から様々な物が用いられてきたが、やはりどうやってその通貨に価値を持たせるかが重要になってくる。
普通は米や麦や塩といった誰もが欲しい物からスタートするのだが、今回俺が導入するのは国定信用貨幣論によるものだ。
国定信用貨幣論とは「通貨」を税金を納めるために必要なものとして国が定める方式である。
だが、この世界の人々に「税金」と言っても伝わる事は無いので国が発行する通貨を一定以上納めると何かしらの特典が手に入るという形で説明していく。
具体的に俺がというか国が通貨と引き換えに販売するものとしては食糧、調味料、市民権だ。
これと同時に各種物の買取及び法律の制定を進めていき、戸籍の登録等も近々スタートしていくつもりだ。
法律の草案は既に出来上がっているし、信仰心の強いこの時代で神の定めた法を破ろうとする奴はなかなか居ないので、本格的な警察とかを用意しなくてもある程度は勝手に守ってくれる筈だ。
というか俺も実際に神かそれに準ずる絶対者が居て、そいつがルールを決めたのなら無茶なもの以外は従うと思うので、まあトラブルになる事は少ないだろう。
「通貨ねぇ、もしかしてあのキラキラしてる奴を使うのか?」
「正解だ、公務員には月給制で通貨を支給するつもりだからお前には物を売って通貨を手にするって機会はそんなないかもしれないが、最低限は覚えていて欲しい」
「あの、神様、市民権ってなんですか?」
「市民権ってのは持っていると色々なメリットが受けられる権利だ。
その人がどれだけ偉いかを表すものだと思っていいぞ、俺らの部族は俺が優遇してるから他の部族よりも有利になるだろ?」
……まあ、実際にはかなり違うんだがこんな説明でいいだろう。
ついでに貴族制度もそのうち設定しておきたいなぁ……。
次々新しい事を導入すると混乱して来るので導入するとしてもしばらくした後だが。
「なら俺も質問いいか?」
「ん? 何だ?」
「苗字と部族名の違いって何だよ」
これはいわゆる氏と家の違いだな。
氏というのはその人の親戚とかを全部まとめて血の繋がりがある範囲の親族集団の事だ。
俺らの部族は大抵親族に当たるので要するにこれが氏となる。
それに対して家とは文字通りその家、つまりは直系の血筋の範囲という訳だ。
ジェトの場合だと家とはジェトの嫁と子供。
つまり5人で同じ家名を名乗る事になる訳だ。
俺? 家名なんてねぇよ。
ギリシア神話のゼウスも、北欧神話のオーディンも、日本神話の天之御中主神も、ヒンドゥー教のヴィシュヌも家名なんてないだろ?
仮に俺が家名や氏を名乗るのならばウロ家ウロ氏のウロ、こうなりかねない。
というか実際に部族名を決める時に一番最初に出てきたのがウロだぞ?
「ほう、神の名を冠そうとは度胸があるなお前ら」とか適当に文句を付けてもじった結果ウロル族となったのだ。
うん、ウロ・ウロルとか語呂が意味不明になるから俺は名乗らんけどね。
俺たちの部族以外の所もいい感じの部族名を提出してくれて、現在はジェト・ウロルのような名乗り方をしているのだがこれが二等級以上の市民になると少し増える事になるというわけだ。
デフォルトの二等級は各部族の族長とその家、一等級は俺たちの部族だけなので二等級以上は実質的にほぼ貴族という事になる。
多少身内を優遇気味かもしれないが、まあ問題ないだろう。
「さてと、飯も食べたし俺はそろそろ通貨の製造を始めるとするかな。
ノインは明日の朝から神殿に来てくれ、本格的な弟子入りはそれからだな」
「はい、よろしくお願いします!」
俺はノインの頭を優しく撫でて通貨の製造に取り掛かった。
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