001
初めまして。
これからよろしくお願いします。
……やぁ。
俺だ。
エロゲーをしつつオナニーをしていたと思ったら急に苦しくなって死んだあの俺だ。
うん、さすがに一日に38回のオナニーはやり過ぎたと今更になって後悔している。
え? なんで死んだのに後悔できるのかって?
そりゃあ俺が転生したからだよ転生。
ファンタジー世界かと言われたら確かにファンタジー要素は少なからずある。
確かに俺はこういったファンタジー世界に生まれ変われるなら死んでもいいとすら思っていたし、それを考えれば可能性が0だったあの世界で生きるよりもまだマシだと言えるだろう。
俺は昔から魔術や魔法といったものに憧れていたし、中学生に上がる頃には重度の厨二病を患っていたくらいだ。
だがそんな俺も現実や社会というクソみたいなものに押し潰され、同調圧力によって洗脳されていった。
20代になってそこそこブラックな企業に就職し、やがてそういう厨二病的なものからも縁を切るようになっていった。
だが……だがしかし、この世界には魔法がある。
魔術がある。
魔力がある。
もしかしたらドラゴンとか獣人とかもいる可能性がある。
ここでなら俺は存分に厨二病を発揮できるし、全力で魔力を鍛え上げて大魔法とかをポンポン連打するような魔術師を目指す事もできる。
もちろん俺は頑張った。
頑張って頑張って頑張って超頑張った。
この世界の人の訳の分からない言葉を必死に覚え、毎日気絶するまで魔力を使い続けた。
だがダメだった。
いや、俺に才能がなかったとかそういう事じゃない。
とりあえず今の俺の現状から説明しておこう。
俺がいるのは50人程度の小さな集落、いや……群れと言った方が正しい。
だって家建てる文化、ねェもん。
竪穴式住居すらねぇもん。
ついでに服を着る文化もまるでねぇし、俺が作るまでは靴を履く文化もなかったし、磨製石器すら存在しなかった。
さて、俺が言いたいことがそろそろお分かりだろうか?
縄文時代以前のこの世界で俺にどうしろと!?
ガチの中世ヨーロッパ基準のファンタジー世界でもまだ耐えれる。
奴隷に生まれようがまだワンチャンスある。
だがこれはダメだ。
まるでクソゲー。
圧倒的なクソゲー。
その日暮らしが当たり前で、食糧を保存するような文化ももちろん無いおかげで割とあっさり飢餓が訪れて死にかねない。
というか実際に飢餓が1回訪れているおかげで俺も生きるのにかなり必死である。
草履の発明や磨製石器の発明でこの群れで1番の権力を得ていたとしても生きるのに必死なのだ。
現代知識チート?
ノンノン。
魔力チート?
ノンノン。
俺がしているのは狩猟生活だ。
確かにこの世界には魔法があると言った。
しかし、それは簡単な火起こしの魔法しかねぇ。
指先から炎をだす?
ノンノン。
木に火をつけるが正しい。
いや、触れるだけで炎がつけれるんだから確かに便利だとは言える。
ここから俺はひたすらに努力を積み重ねてそこそこの威力を持ったファイヤーボールを息をするように放てるようになったが他の事は全くと言っていいほどできない。
そもそも研究をするような時間が無い。
いくら権力があって働かなくても食糧を得られるとはいえ群れ全体を賄える食糧がなければ俺も飢える事になるのでそういう日は俺も狩りに出る必要性がある。
当たり前だ。
この村で一番強いのは俺で、この村で一番目と耳が良いのも俺で、狩りが一番上手いのも俺だ。
他の奴らなら逃げられるような獲物でも俺は数百メートル先からファイヤーボールで狙撃できる。
そして、気が付けば俺は神と呼ばれて群れで崇められていた。
うん、そりゃあ崇められるわな。
俺だってこんな時代でパソコンを作れるような奴がいれば崇める。
他の奴らにとって俺はそんな存在なのだ。
だが崇められた所でだ。
その日暮らしなこの世界で一体絶対的な権力にどれだけの価値がある?
確かに権力があれば群れで一番可愛い娘とヤれるんだが待って欲しい。
この時代の衛生とか言う言葉が欠けらも無い娘を抱いても俺は嬉しいとは思わない。
野グソしまくるのが当たり前なんだぞ?
さすがの俺もこれは無理だ。
俺の目的はせめて中世ヨーロッパ基準の世界になるまで生き残る事。
まるで服を着る文化がなかったことを考えるとこの世界の5万~7万年前と言った所だろう。
俺はその数万年を生き残る。
魔法があるという事は魔法を使った医療を発展させることもできるはずだ。
どうにかして寿命を伸ばす事もできるはずだ。
ファンタジー世界では時々数百歳といった人が描かれることがある。
あのかなりシビアなハリーポッターにもニコラス・フラメルという600代の人がいたし、エルフとかは普通に500年を生きると設定されているものもある。
吸血鬼だと3000歳とかもいるし、俺が同じ年代を生きられない理由はない。
いや、確かにそれなりに合理性の保たれた設定で数万年を生きたようなキャラクターは滅多に存在しない。
が、それでも居ないことはない。
俺の計画としてはこうだ。
まず既存の知識を使ってなんとか100年は生きる環境を作る。
そしてその間に若返りの魔法か延命の魔法を探す。
まず注意するべき点は絶対に子供のような無邪気さと魔法を楽しむ心を忘れてはいけないという事だろうか?
精神的に老いて諦めてしまったらその瞬間でゲームオーバーだからだ。
だから俺は精神的に成長してはいけない。
次に気を付ける点は反感を持たれないという点だろうか?
俺がこの先どれほどの強さを得れるのかは知らないが、全員で反逆されるとさすがに死にかねないし、例え全員に勝ったとしても俺の損にしかなりえない。
俺のことは崇めるべき存在として神のように扱わさせるのが一番である。
目指すは古代魔法文明の神といった所か?
最低でも数万人が住む国を作り上げ、そんな世界で頂点に立てれば俺の研究はどんどん進んでいくし、数万年も待たなくても人類は素晴らしい世界を築き上げれるかもしれない。
この先万年続く国を、それが叶わぬのならせめて神話に名を残そう。
ならば、その為に俺が今やるべき事はなんだろうか?
それは魔術の研究でも狩猟でもない。
農業だ!
「えーと、これをこうしてこうやってーと」
磨製石器を使って木を伐採し、適度なサイズに切って蔦を使ってそれを結び簡易的な柵を作り上げる。
鍬を使って中を適当に耕す。
そして、麦を、植える!
やる事はこれだけなので子供でもできるし、あとは定期的に除草をしていくだけでいい……と思う。
農業の始まりは紀元前1万年前とかそんなんだった気がするのでこれで一気に文明が進歩した事になる。
勝ったぜ。
「ふぅ……やっと終わったか」
今日は気休め程度に全身に魔力を纏って作業をしてみたのだが体感的にまあまあ効果があったような気がする。
……気がするだけだが。
チートか何なのかは知らないが元々この肉体は現代人のアスリートが見れば真っ青な身体能力をしているので強化魔法なんてなくても十分に強い。
素手で虎やライオンも楽々と殴り殺せるレベルなので強化魔法に全力で取り組む必要はないだろう。
「えーと……家でも建てるか?」
そうこの世界、家がない。
結構洞窟とかそういう場所でも何とかなるものなのだが、やはり現代人としては家に住みたい気持ちが多い。
だが俺には本格的に家を建てるような技術はない。
そもそもこの世界にはまだ板を作るような技術すらそもそもとして存在しない。
ならやることは簡単だレッツ竪穴式住居!
シャベルを用意してそれなりに広い範囲を1メートルほど掘り下げ、切り倒した木を円錐状に組み合わせ適当に草を束ねて被せて出来上がり。
……雑い。
いや、これでいいんだよこれで。
俺1人用だし、雨風が凌げれば多分何とかなる。
……そのうち本格的な住居作るか。
■
「あの……神様はいませんか?」
「……んん?」
俺が超適当に作った竪穴式住居で寝ているとどうやら誰かが訪ねてきたようだ。
実際に寝てみた感触としては結構な好感触だ。
洞窟で寝るよりは10倍くらい快適である。
「あー、俺が神だが何か用か?」
そう言って入口を見ると中学生くらいの少女がたっていた。
えーと、確か長老の孫の〜。
「ミェンか?」
「あ、はい……あの、その……、ちょ、長老が」
「とりあえず落ち着け、水でも飲むか?」
そう言って俺は竹で作った水筒から竹で作ったコップに水を入れてミェンに差し出した。
そう言えば竹ってチートだよな。
切って少し加工するだけでこうして水筒も作れるし、地面に埋め込むだけで快適な床を作れるし、まさに竹様々である。
竹林が近くにあって良かったぜ。
「あ、ありがとうございます」
ミェンは喉が乾いていたのか俺から水を受け取ると一気に飲み干した。
うーん、やっぱAPP17くらいかな?
まあ、APP17ってかなり可愛い方だが現代人の二次元に染まりきった感性を持った俺からしてみればまあまあ可愛い程度の範囲に収まる。
俺らの一族って基本的にプラチナブロンドの髪と青い澄み切った綺麗な瞳をしてるのでその点だけは好感触だ。
現代日本じゃあなかなか見ることがないのでそれだけでかなり綺麗に見える。
毛皮着てるか全裸なので非常にエロいのもポイントの1つかもしれない。
「で、長老がどうしたって?」
「えと、その……お亡くなりになりまして」
「……そうか」
あの長老にはかなり世話になった。
早くして亡くなった両親の代わりに俺を育ててくれたのは長老だし、この世界の事を色々と教えてくれたのも、狩りのやり方を教わったのも、魔術を教わったのも、全部長老からだ。
埋葬は俺自身の手で行ってやるべきだろう。
死、寿命、病気。
それらは俺が乗り越えるべきものでこれから全力で戦っていくべきものだ。
自分だけが例外だなんて思ってはいけない。
前世でそうだったように、人はあっさりと死ぬのだ。
前回の俺は転生できたとはいえ、今回もそうであるとは限らない。
だからこそ今を必死に生きる。
ただ流されるだけ流されて、無意味に生きていた前世のような一生は絶対に送らない。
……送ってなるものか。
「分かった、今すぐ行くぞ。
看取ってやる事が出来なかった分、せめて埋葬はこの手で行ってやりたい」
「あの……それともう一つお願いが」
「なんだ?」
「私達の長になって頂けませんか?」
「……ん?」
ミェンが言ったのは俺の予想からいくつかズレた台詞だ。
俺達の群れでは最も長生きな者が群れを率いるといういつから行っていたのかすら定かではない伝統がある。
このミェンが放った台詞はその伝統を破ってまで俺に従う必要があるという事だ。
今までも俺は群れを自由に動かせる権力を持っていたが、それは実質的なものであり、俺は別に何かの役職についていたわけではない。
それが正式に俺のものになるなんて思いもしていなかった。
間違いなく誰かは反感するだろうし、めんどくさいのでとりあえず断…………。
……あれ?
これ群れ全体で農業できるんじゃね?
そうすれば俺の抱えている問題のいくつかがあっさりと解決する事になる。
「よし、引き受けた」
「あ、ありがとうございます!」
「とりあえず長老の下まで向かうぞ。
いつもの洞窟でいいよな?」
「はい、一緒に行きましょう」
■
「長老シェンは長きに渡ってその身を削り、その知恵を絞り、その肉の全てをもって我らに尽くしてくれた。
その全てを我らが長老シェンに返す事はもう叶わぬが、我々が長老シェンの遺志を継ぎ、次の時代を生き、より良い明日を築き上げる事でその魂を引き継いで彼の者に感謝の意を示そう。
……長老シェンにより良き眠りを」
俺は長老の遺体に土をかけて埋めていく。
本当にこれまでありがとうございました。
最後にそう祈って俺は群れのみんなの方に向き直った。
「さて、次の群れの長は代々長老が引き継いできた。
だがしかし、今回は長老リュンが長の座を辞退し俺に長の地位が回ってきた。
当然諸君らの中には不満があるものも居るだろう。
そういった者が群れを去りたいというのならば俺は止めはしない。
だが、もし俺に従い次なる時代を共に歩んでくれるのならば俺はこの群れの発展に全力を尽くし、光に満ちた明日があることをここに誓おう」
「おいおい、長の座とかの前にウロは実質的な群れの頂点だぞ?
これだけ恩恵を受けときながら今更去るやつがいると思うか?」
俺がそれっぽい演説を行うと俺と同年代位の男が声を上げた。
彼、ジェトはいわゆる幼なじみ的な奴で、昔から俺の部下というか手下みたいな感じだ。
俺の一番最初の手下という訳あってこの村では長老に続く権力を持っており、少し離れた場所に住んでいる俺に会いに来るのは大抵ジェトである。
「えーと、まあ、反対意見は無いみたいだな。
じゃあとりあえず最初の命令を出したいと思う。
引っ越すぞ」
「神よ、引越しですか?」
「ああ、引越しだ。
具体的にはウロの川の側にある開けた平原だ」
ウロの川って名称は俺が近くの洞窟に住んでいる事からついた名前だ。
群れが全員暮らせるような場所じゃなかったので俺が1人だけで住んでいた場所なのだが、ようやく昨日竪穴式住居を作り上げて、農業も始めたのでそこそこ便利な場所に進化している。
それにこの人数で協力すればすぐにそれなりの住居を建設する事ができるだろう。
「石器や食糧は残さず持ってこいよ。
俺はとりあえず今日の獲物を狩ってくるから昼時には集合するように。
では解散!」
この洞窟から歩いて20分位の場所にあるのでしばらくゆっくりしていても昼前には必ず着く。
俺がマンモスでも狩ってくればしばらくこの群れの食糧は十分だし、日が暮れるまでに全家族分の家を建てることも余裕なはずだし、明日は完全に麦作に集中できるはずだ。
さーてと……まずはメソポタミア文明を目指しますかね。
評価ブクマ等ありがとうございます!