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赤色女人  作者: 生駒匡
8/8

赤色女人(終)

秋が近い。慌てて思い出したように天気は夏を持ってくるけれど涼しい日がほとんどだ。

 青年は自分で焼いた無地の大皿を自分の脚に立てかけた。大皿は青年の腰に届きそうなほど大きい。

 夏の旅が終わってから青年の生活は少しだけ変わった。少女が青年と隠れないで会いにくるようになった。婚約を盾にしているから大人も少女を怒れない。もちろん二人とも暇な時間で会っているから尚のこと叱る人がいない。結婚は旅で痩せた青年の体が落ち着いてからとなっている。おそらく冬を越した後になるだろう。

 今日は密会だった。青年と少女は隠れて山中で落ち合う。青年が何度も少女を岩肌に描いていた場所で青年は少女を待っていた。

 少女が草陰から出てきた。顔が赤いのは走ってきたからか。青年は自分の心臓の強い鼓動を感じる。

 少女はゆっくり青年に歩み寄った。少女は黙って青年を見つめるのだった。

 青年が尋ねた。

「いいんだな」

 少女は頷いた。

 旅が成功に終わり村はお祠様に感謝の意を示せた。村の目的は終わった。

 青年の本懐はこれからだ。惹かれ、望んでいた少女の風景を今から描く。

「手を見せて」

 少女は手を青年に差し出し、青年は受け取った。少女の手は白く太陽に輝いていた。長い指が美しい。腕は見た目は細いけれど万遍なく筋肉がついている。けれどすこし柔らかい。

「肩をみたい」

 少女は真珠色の頬を紅葉させて頷いた。少女は袖から腕を抜き上着を持ち上げて脱いだ。少女は片手で胸を抱えて隠している。上着を地面に落とすと両腕で胸を隠した。少女の細腕から溢れた乳房が深い谷間を作った。少女の胸元が真珠のように輝いている。


 青年に頼まれるまま少女は次に腰巻を脱ぎ最後は脚巻を取った。服を脱がせる度に青年は少女の服の下を確かめていく。慎重にけれど大胆に始めてみる景色を観察する。遠くから眺めるだけではわからなかった美しさの覆われた神秘を青年は得た。長い長い旅の終着点に青年は辿り着いた。

 青年は一息ついた。少女を座らせて、呼吸を整えてから少女を描き始めた。青年の腰ほどもある扁平な大皿に紅い染料で今得たものを描いていく。

 せっかく神秘を解き明かしたのに青年は描く少女の体に布を被せていく。

 青年が描いた少女は在りし日に音もなく青年に呼ばれて振りむいた少女だった。青年の祈りが届き振り向いた神秘を湛えた少女。ならばそれは女神ではないだろうか。

 青年は服に隠れた少女の肉体を描き切った。布を描いているのに服の弛みに隠されたはずの少女の細腰と果実のような胸がわかる。少女の印象から想像できない力強い肩が袖の下にある。脚巻きの中には堕落をしらない引き締まった足首の存在を感じる。振り向くために体を捻って漏れ出た少女の吐息を錯覚してしまう。眺めていれば少女の甘い香りすら鼻孔に感じるが、意識すると消えてしまから間違いなく錯覚だ。

 青年は二人目の少女をこの世に産み出した。青年の知る少女を余さず描いた長い年月を残り続ける美しい少女の風景がここにある。

 描き終えたとき青年は息が切れ、汗がこめかみから流れ落ちた。皿を置いた。そしてまだ裸だった少女を抱き寄せた。



 皿は土に埋めて隠した。その後青年が家を持ったとき、家の下に埋めなおした。少女に異変は起きていない。



 青年は二人の子供ができた。まだ小さい子供達が枝で遊んでいる。少女は妻となり服を編んでいる。今日は天気がいい。青空と雲を見あげているとお祠様の絵を描いたことを思い出してきた。

 青年はなぜ自分と結婚しようと思ったのかかつての少女であった妻に聞いてみた。

 妻は答えた。

「あなたなら信じてみても大丈夫と思ったのよ」

 妻は優しく微笑んだ。


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