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真実の虚しさが私たちに刺さる  作者: 琥珀猫幸
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第1話



空が青い。

この時だけが、私の救いだ。

月が出る夜は孤独に堕ちる。

凍らせた心が無理やり溶かされる。

でも、その救いの筈の青い空の時に、こんなに嫌なことがあるものなら、こっちも嫌いになりそうで少し怖い。


来ないように願っていた、婚姻の日が、今、来た。


「アーレンス王国が末娘の、第4王女フォルナ=フィル=アーレンスと申します。以後、よろしくお願い致します。」


ふわふわとした黒髪が、元から白い肌を際立たせた。

微笑んだことで下がった目尻の中には、その月のように明るくも暗い黄金の瞳が鈍く光って居る。

少し口角が上がった口元には、紅を差さずとも血のように赤い整った唇が美しくまた狐を描いた。

その様子は、儚くも美しいが、それは人間では無いようなもので、狂気のような表情さえ覗かせていた。


これが、私だ。

作られた人形のような顔を、能面のように貼り付けている狂気のような女が、私。


一番相応しいのは、『ミステリアス』なんて言う言い方だろう。

そして、それを作ったのは他でも無い私だ。


すごい悲劇のヒロインのような語り口で悪いが、できれば気にしないでほしい。

こんな奴なのだ。私って言うのは。


「よくぞ来ていただきました。王女殿下。お部屋へご案内致しますね。」


「有り難うございます。アレクシス様。」


「おや、気づかれましたか?」


「はい、もちろんです。」


アレクシス様はこのお屋敷のご当主様の弟君で、変装が趣味なことで有名だ。


そして、そのご当主様が、この間私と婚姻することが決まったお方だ。


ここは、ハーバメント公爵家。


私はここのご当主様………公爵様と、婚姻を結んだ。

この社交界では当たり前の、政略結婚だ。


まぁ、これは所謂偽装結婚でもあり、彼と私は仮初の縁。

少ししたら円満に離縁する予定だ。彼は王族と縁を持てるし、こちらとして魔術研究所の所長である彼と縁を持てるのは喜ばしいことだ。


それに、アレクシス様ももう婚姻を結んでいて、お子さんもいる。

公爵家の血も残せる。


それに、私は最後まで彼に会うことは無い。


私は、世間には知らされていないが、ただの人形だ。

と言っても、私は普通の人形ではない。簡単に言えば、本物の魂が人造人間に入ったような形だ。

『ホムンクルス』と言う名前を付けられている、人口生命体。

そうすることで、王族として受け入れられている。


元はと言えば王妃の一度死んだ私への執着心で生まれてものなのだが、彼女はもう生きていない。


もう、私の立場は危ういと言っても良いのだが、今回私が仮の縁を持つことで、ギリギリ王族としての地位を持たされている。


正直言ってこんな地位必要ないのだが、王族にいないと私は生きていられない。

無理やり禁術と共に作られたホムンクルスはとてつもなく不完全だ。

ある程度の技術と余裕のある金があるところでしか私は動かない。


私は、生きる為に王族にいる。


でも、こんな人造人間の私だって、恋愛結婚の願望もあったのだ。

こう、ようなくそれを潰されると、結構凍った心にもくるものがある。

これが終わったら多分私はもう結婚することはできないのだ。

だから来なければ良いと願っていたんだが。


「王女殿下。こちらの部屋を使ってください。不備がありましたら、お変えいたしますから。では、私は失礼いたしますね。」


「はい。有り難うございます。」


部屋の中には、私を生かすための機械で溢れていた。

この屋敷で私のホムンクルスであると言う秘密を知っているのはアレクシス様だけだ。公爵にも伝えられていない。


彼は、変装することで変人とも言われているが、口が固いと言うことで有名でもあるのだ。

それに、元々私は彼の変装を見破るほどのスキルはない。

だから、先ほど私が彼だと言うことを認識できたのは、この事があったからだ。


「………本当、感謝ですよね。」


その瞬間、地面全体に氷が広がる。

これは、私がよく出すバグだ。気が抜けるとすぐに出てくる。

あまり出したく無いが、ここだったら安心して出せる。


「取り敢えず着替えましょうかね。」


そう言ってクローゼットを開けると、たくさんの豪華なドレスが並んでいた。

「さすが公爵家ですね。」と思わず呟くと、若草色の青い花が刺繍された可愛らしいワンピースをとり、今着ている服を脱いだ。


すると、胸元にバーコードのような模様が付いているのがわかる。

やっぱりこの模様は嫌いだ。なんだか何かに囚われているような気分になる。


「まぁ、文句を言ってもしょうがないんですけどね。所詮、人形ですし。本物の魂を乗せると厄介なものなのかもしれません。人間と同じ思考ですから。」


機械質で硬いはずなのに、それを感じる事も無い自分のベットに乗る。

『充電開始』と言う、無機質な機械音が聞こえてくるのを感じると、そのまま、私の意識はそのまま途切れた。






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