五話 皇族を狙う刃。
五話投稿です。
楽しんでいただけると幸いです。
打ち付ける様な強い雨が、冒険者ギルドの窓を叩く。
今日のライランド・シティは土砂降りの雨だ。
この雨の中、依頼を受けるのは気分が乗らない。
そんなこんなで、今は冒険者ギルドの休憩スペースで他の冒険者と世間話で時間を潰している。
あの冒険者ギルドでAランクを授与された日から数日間、俺は難易度が高いと言われる部類の討伐依頼を受けてきた。
このライランド・シティには冒険者自体は沢山いるのだが、その大半は中堅クラスの冒険者らしく、強い冒険者が少ないのがライランド・シティの冒険者ギルドの慢性的な悩みの種だったようだ。
強い冒険者が居ないという事は、狂暴な魔物が出現しても対応できる冒険者が居ないという事。
通常、狂暴で強い魔物が出現した際は、その管轄都市が冒険者ギルドに依頼する事で、軍隊の損害や経費の節約をする。
しかし、ライランド・シティの冒険者は中堅ばかりとの事で、狂暴な魔物を倒せる冒険者が居ないが為に、最後の手段としてライランド・シティの帝国軍駐屯連隊が対応していたそうだ。
だからこそ、難易度の高い高額報酬の討伐依頼が常に沢山溢れ、それらを俺が全て総取りした。
今の俺の懐は、ガッポリガッポリな億万長者だった。
そんなライランド・シティの冒険者ギルドで一躍有名人になった俺は、俺が戦ってきた高難易度の討伐依頼の話を聞こうと他の冒険者が集まってきていた。
まあ、冒険者ってのは冒険譚や武勇伝が大好きだもんな。
俺も好きだぜ、そういうの。
「クレイジーマッドベアーっていう、でかい熊を倒す依頼はヤバかったよ。あの周辺の森の木々ってデケェ木ばかりなのは知ってるだろ? あの木を両腕で薙ぎ払い吹き飛ばしながら襲ってくるんだぜ!」
今は二日前に受けた依頼の熊の話をしている所だ。
「やべぇ……!」
「こわいっすねぇ!」
「アタシ、そんなのに出会いたくないよ……」
「俺は遠目で見たことはあるぜ!あれを倒したんすねぇ!」
「流石っすよユウタの兄貴!」
冒険者たちの反応は上々だな。
だがな、この魔物がヤバいのはこれからだぜ!
わっはっは! 心して聞けよ、冒険者ギルドの荒くれ者ども!
「それだけじゃねぇぞ? その轟音を聞きつけてな、なんとサンダーユニコーンがやって来たんだよ! 多分、あの場所は奴の縄張りだったんだろう」
鬼強い魔物の元に、めっちゃ強いくらいの魔物の登場。
普通の冒険者なら一瞬も持たない様な地獄絵図だ。
高難易度の討伐依頼ならではの、少年漫画顔負けのインフレした登場キャラ達の強さに皆が驚き困惑している。
「サンダーユニコーン!?」
「そんなのも居たのかよ!」
「わたし、サンダーユニコーンに出くわしたら五秒も持たないよ……」
「大丈夫だ嬢ちゃん! 俺なんて一撃でお陀仏だぜっ!」
皆が食い入るように俺の話を聞いている。
でもな、次の展開はやべぇぞ?
「サンダーユニコーンが前に出たんだがな、やっぱりクレイジーマッドベアは数段の格上だったんだ。信じられるか?奴がサンダーユニコーンをワンパンで殴り殺したんだぜ!サンダーユニコーンがバラバラに砕け散る様は圧巻だったよ!」
「すげぇ……!」
「まるでこの世の終わりみたいな光景だなぁ」
「サンダーユニコーンが…… ワンパン……」
「アタイ、やっぱり普通の魔物狩ってるほうが性に合ってるよ……」
目の前の冒険者達の反応も上々だ。
皆、自分の知らない世界の冒険が聞ける事が楽しいのだろう。
そんな輝く少年の瞳で俺の話を聞いている冒険者達に、最後の展開を話してやろう。
俺が続きを話そうとした時だった。
冒険者ギルドの前に、身綺麗な三台の馬車が止まった。
三台の馬車の中央の一台の扉が開き中から紳士服を着た男が降りてくる。
突然高貴な人たちが、自分たちの様な気品とは無縁な場所に来ている事に驚きながら、皆が玄関口を見つめる。
紳士服を着た男は、護衛であろう騎士を数人連れて、冒険者ギルドの中に足を踏み入れた。
この町の貴族は、この町の領主であるライランド伯爵ぐらいな筈だよな。
冒険者ギルドに何か用だろうか。
俺の疑問は皆も思っている事らしく、不思議な物を見る目で紳士服の男を眺めている。
冒険者ギルドの沈黙を受けながら、紳士服の男は受付まで進み、カウンターの受付嬢に話しかけた。
「失礼、お嬢さん。ここに冒険者ユウタ殿は居るだろうか?」
「は、はいっ! ユウタさんなら、あちらです」
受付嬢は上品に腕を伸ばし、俺に向ける。
紳士服の男は、こちらを振り向き俺と目が合った。
いったん受付嬢に向き合いお辞儀をして感謝を述べた後、俺の前にやってきた。
「貴殿が、冒険者のユウタ殿であるかな?」
「俺の名前はユウタですが、何か御用ですか?」
俺の言葉に、紳士服の男は少し驚いた様子だ。
「ふむ。敬語が使える冒険者、ですか……」
そう小さく呟き、紳士服の男は俺に要件を言う。
「この町の領主であらせられるライランド伯爵が、貴方をお呼びである。至急、邸宅に招集されてもらいたい」
「ライランド伯爵からの呼び出しか…… 今からですか?」
俺が貴族から招集された事に皆が驚く。
まあ、聞けば高貴な身分の人が冒険者に関わる事は滅多にないらしく、ましてや貴族側から呼び出しを受けるなんて事は更に珍しい事なのだろう。
紳士服の男は、俺の問いに答える。
「できれば今すぐに、それが不可能ならば今日中に、お越し頂きたいとの事です」
「そうか…… わかりました。今日は特に予定などもありませんし、今すぐ行けます」
「それは有難い。では、迎えの馬車にお乗りください」
冒険者ギルドの皆が驚いているのを背景にしながら、俺は紳士服の男に案内されるまま中央の馬車に乗った。
●●
身綺麗な馬車に揺られながら、紳士服の男と向かい合う。
ライランド伯爵に呼ばれたって事は、起きたのだろうか。
目の前に座る紳士服の男に聞いてみるか。
「あの、俺がライランド伯爵に呼び出されるって事は、何かメナリ様の身に危険が迫っているとかですかね?」
「おや……? メナリ皇女殿下がライランド伯爵の元に身を寄せている事は戒厳令で極秘の筈ですが、なぜそれを貴方が?」
俺の質問に、何故か疑惑の視線を飛ばしてくる紳士服の男。
まるで俺が何かを企んでいるとでも言いたげな視線だ。
この男、俺がメナリ様を救出した事実を知らないのだろうか?
「メナリ様を壊れた馬車から救出し、一行を護衛し邸宅に送り届けたのは俺ですよ」
俺の言葉に、目の前の紳士服の男は心底驚いた顔をした。
どういう事だろう?
メナリ様が謎の集団に襲撃されて死亡し、それを俺が蘇生魔法で生き返らせた事を知らないのだろうか?
先ほど、この紳士服の男は戒厳令でメナリ様がライランド伯爵の元に居る事が極秘と言っていたな。
よくわからないが、この紳士服の男、メナリ様がライランド伯爵の元に居る原因と経緯を知らないという事なのか?
この事実を見る限り、メナリ様が襲撃された事件は、ごく一部の人間だけしか知らないと見える。
つまり、メナリ様の周囲は信用に値する人間だけでは無い、という事か。
紳士服の男は俺に食い入った様に質問をしてくる。
「メナリ皇女殿下の執事として、聞かなかった事には出来ません。あの方を壊れた馬車から救出したとは、どういう事でしょう?」
「言う訳無いでしょう。戒厳令が敷かれていると言ったのは貴方だ。メナリ様を助けた手前、無責任に言いふらす事は出来ませんよ」
俺の返答に納得が行かないのか、紳士服の男は目に見えて不機嫌だ。
目の前の不機嫌な紳士服の男を見てか、今まで人前だったからか、静かにしていたサクラが俺のインカムに低い音量で言う。
『メナリ様の周囲、なんだか面倒くさい事になってそうだね』
サクラの言う通りだな。
マジで面倒くさい事が起こっていると思った方がいいと思う。
なんせ、信用できる筈のメナリ様の執事が、今回の事件を説明されてないとなると、ライランド伯爵は誰を信用して良いのかわからないのだろう。
そんな誰を信用して良いのか分からない状況で、ライランド伯爵は俺を呼び出しているって事か。
えらい信用されてるなぁ。
●●
さりげなく俺から情報を引き出そうと、何度かカマをかけてくる目の前の紳士服の男の質問や世間話をやり過ごしていると、目の前に見たことのある大きな赤レンガの邸宅が現れた。
レイランド伯爵の邸宅だ。
いやぁ長かったぁ!
目の前のメナリ様の執事を名乗る紳士服の男、マジでしつこかったよ。
当の紳士服の男は俺から聞き出せなかった事に歯がゆいのか、悔しそうな顔をしている。
赤レンガの邸宅の玄関前に止まり、屋敷のメイドが馬車の扉を開けた。
メイトが扉の横に立つのを確認した後に、ひょいと飛び降りて着地する。
それを見ていた周りの使用人達は、少し驚いている様子だ。
特に、男の使用人は「すっげぇ……」と口を漏らしている。
地球の自動車と違って、この時代の馬車って地面から結構な距離があるので、普通はタラップを使用して降車するのが普通みたいだ。
実際、護衛の騎士を含めた他の人たちは、タラップを使っておりている。
俺が玄関先にやってきたのを見計らった様に、使用人数人を連れた身綺麗な服装をした小太りの男がやってきた。
ライランド伯爵だ。
彼は俺を見るや、速足でやってきて握手する。
「お待ちしておりましたぞ、ユウタ殿! 着いたばかりで済まないと思うが、話は急用でしてな。すぐに応接間に来てくだされ」
そう言って俺の手を引いていくライランド伯爵。
彼の様子は少し焦り気味だ。
メナリ様の身に何か起きたのだろうか?
応接間に案内され、室内に入る。
中は綺麗な壁紙が張られ、美しい調度品が置かれた豪華な部屋だった。
その部屋の中央に、豪華な赤いソファーが対面で置かれ、緑のドレスを着たメナリ様が座っていた。
彼女は大きめの勲章を胸につけ、小さなティアラを頭につけている。
俺の姿を見るなり、彼女は嬉しそうに喜んだ。
「ユウタ様!」
そう声を上げ、駆け寄てくる。
「メナリ様、元気でしたか?」
「はい、なんとか!」
「そっか。 ……ん?なんとか?」
元気でしたか? と質問して、帰ってくる言葉が「なんとか」だって?
俺はライランド伯爵を見る。
ライランド伯爵は辺りを見回し、数人の騎士と使用人を残して部外者を退出させた。
部外者が居なくなった事を確認した後、俺とメナリ様にソファーに座るよう言った。
「先ずは、お座り下され。今は危機的な状況だとしても、このような時こそ腰を据えて考える事が必要なのです」
そうライランド伯爵に促され、メナリ様と横に座る。
ライランド伯爵は俺たちが座ったのを見て向かいに座ると、状況を説明し始めた。
「つい昨晩のことです。メナリ様の寝室に賊が入りました」
なんだって?
メナリ様の寝室に、賊……?
「賊って、盗賊ですか?」
「いえ、暗殺者です」
「暗殺者!?」
俺の驚きの声に、メナリ様が少しビックリしてしまった。
きっと怖い思いをして、今でも不安でいっぱいなのだろう。
悪い事をしたな。
メナリ様に「すまん」と謝ると、メナリ様は「いえいえ」と笑って許してくれた。
俺たちの様子を他所に、今まで静かにしていたサクラが遠隔で俺のスマホからの出力に変更する。
『メナリ様に暗殺者が来たの?』
「おお、これはサクラ殿。左様でございます。この邸宅の客間でご就寝なされている時に現れ、ウォーレン殿が撃退したのでございます」
『おお、あのウォーレンさんが』
メナリ様が客間で寝ていたら暗殺者が現れて、ウォーレンさんが対応したのか。
ところで、ウォーレンさんは今どこに?
ここを見渡しても、ウォーレンさんは見当たらない。
「ウォーレンさんは、どこに?」
俺の問にレイランド伯爵が答える。
「暗殺者と戦闘した際、怪我を負いまして。幸いにも命や後遺症の心配はないですが、全治に一週間程かかる怪我を負われました。」
「そうか……」
メナリ様も無事で、ウォーレンさんも生きている。
不幸中の幸いだな。
一安心する俺とは別に、サクラは何やら心配そうな声色で『あのさ……』とライランド伯爵に言う。
『ウォーレンさんが負傷した今、メナリ様を付き添いで護衛できる人材は居るの?』
サクラの質問に、ライランド伯爵は顔を強張らせた。
よく見るとメナリ様も、大きな不安で顔を強張らせている。
ライランド伯爵は額から流れる冷や汗をハンカチで拭いながら俺たちに言った。
「暗殺者は私どもの防衛網を搔い潜り、寝室に侵入した。どれだけ高等な技術を持っていても、あの防衛網を掻い潜るのは不可能に近い筈なのです。つまり……」
「つまり……?」
言い淀むライランド伯爵に、続きを促す。
なかなか言い出さないライランド伯爵の代わりに、メナリ様が口を開いた。
「つまり、私の周囲に裏切者が居る。それが誰かも分からない。だから誰を信用して良いかも分からない」
メナリ様は不安でいっぱいの声で、続ける。
「私の近衛騎士たちの実力は高い。でも今回の事を考えると、ウォーレンさん以上に信頼できる人が居ない。結果論ですが、ライランド・シティに避難したのは失敗でしたね」
ライランド伯爵は悔しそうな表情で、メナリ様がライランド・シティに来た経緯を説明し始めた。
「現在、宮廷では「何者かが皇族を暗殺しようとしている」という、出所不明の噂が流れているのです」
『出所が不明な暗殺の噂?』
「ええ、暗殺の噂です」
サクラの呟きにライランド伯爵は頷き、話を続ける。
「最初は宮廷内の、何者かの政治工作だと思われました。それが日を追う事に具体的な噂になっていったのです。つまり「皇族が暗殺されるかもしれない」から「メナリ皇女が暗殺されるかもしれない」と、日に日に具体的になっていったのです」
ライランド伯爵の話は、こうだ。
質の悪い政治闘争の手段として暗殺の噂が流れていると踏んでいたら、その暗殺の噂が日に日に大きくなっていき、気が付けばメナリ皇女の名前が具体的に上がるようになっていく。
さすがに気味悪く思った帝国政府はメナリ皇女を保護する為に、帝国で一番信頼が置ける貴族の邸宅に避難させる事にしたのだ。
しかし、その判断は誤りだった…… と。
俺が見つけた時にはメナリ様は死んでたし、ウォーレンさん率いる近衛部隊も全滅だった。
蘇生魔法が使える俺が見つけなければ、今頃メナリ様達は国葬されて墓の中だ。
メナリ様が生き返って町に着いた後、事の顛末を記した手紙を皇帝に出したそうで、帝国の使者が生存を確認して帝都に報告した直後、この暗殺事件が起こったという事らしい。
今回の事件で分かるのは、誰かが宮廷に脅しをかけているという事だ。
いつでも殺せるぞ、と。
全てを話終えたライランド伯爵は額の汗を拭いながら、俺に言った。
「ここに貴方を呼んだのは他でもありません。メナリ様を、このライランド・シティから脱出させ、帝都に送り届ける依頼をお願いしたいのです。ウォーレン殿が負傷した今、信頼できそうな強者は貴方しか居ないのです」
そう言ってライランド伯爵は「どうかお願いします」と俺に頭を下げた。
横に居るメナリ様も、こちらを不安そうな瞳で見上げてくる。
しかし、俺は頭を下げられなくても、頼まれたらやるつもりだ。
メナリ様達を壊れた馬車から助けたのは、まぎれもなく俺だぞ。
一旦首を突っ込んだんだ。
最後まで面倒見るのは当然じゃないか。
それに――
困り果てた皇女を帝都まで護衛するなんて、そんな冒険、心が躍らない筈がない!
これから帝都に向かい、主人公達の冒険の中心が帝都に代わります。
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