四話 初めての討伐依頼。
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「うん、うまい」
何の肉かは分らんが、旨そうな肉の串焼きを見つけて買ってしまった。
鳥に似た味の串焼きで、ソースがなんとも香ばしい。
一本で十シルバーとの事だったので、一ゴールドを出した所、店のおっちゃんは「食べ盛りだからねぇ!」と、二本おまけしてくれた。
やったぜ。
一本目の串焼きを食べ終わり、二本目にかぶりつく。
『いいなぁ……』
俺が串焼きを食べる様子を見てか、心底羨ましそうなつぶやきが聞こえてくる。
ハハハッ! そうだなぁサクラ、お前はVR越しにしか世界を見れないもんなぁ!
「あーっ、チョーうめぇわー! あーマジうめぇ! マジうめぇんだけどっ!」
『……』
あからさまに煽る俺に、サクラは黙り込む。
おっ、これはサクラがガチめに怒る一歩手前の雰囲気。
昔からサクラは不機嫌になると、目に見えて無口になるんだよな。
悔しいのう悔しいのう!
このまま煽り倒してやろうと思ってたが、ふと今のサクラの姿が頭によぎった。
あの世界を覆いつくさんばかりの、超巨大な美少女。
あんなのを怒らせて、どうやって止めればいいのだろうか。
少し、ほんの少しだけ、あの超巨大な美少女が激怒する様を想像してみよう。
俺を町ごと跨ぎ見下ろすサクラに、阿鼻叫喚の町――
さ、さすがに怒らせるのは辞めておいたほうが良さそうだな……!
そうと決まれば、思い立ったが吉、善は急げ、ってやつだ。
「えっと、すまん…… なんだ、ちょっと無神経すぎたな。謝るよ。ごめん」
『エッ……!? マジで!?』
謝罪する俺に、なぜかサクラは驚く。
素直に謝罪したってのに、なぜそんな信じられない物を見た反応になるんだよ。
俺の気持ちなんて露知らず、なぜかサクラは俺を心配してくる。
『ちょっと、どうしたの!? 転生して頭が変になったの!? あのユウタが、あの人を煽り散らかさないと気が済まなユウタが! 素直に謝った!?』
ちょっと待て!
俺はサクラに、そんな悪い奴だと思われてたのかよ!
そんな人を煽り散らかさないと気が済まないなんて、そんな訳あるか! ……ん? あるのか? 確かに言われてみれば、俺は昔からサクラを煽り散らかしている気が、しないでもない。
今までの自分の行動を思い返している俺に、サクラは心配そうに聞いてくる。
『本当に、どうしちゃったの? ユウタが素直に謝るなんて、正直信じられないんだけど』
「いやまぁ、その…… なんだ、悪いことしたなって……」
さすがに今のサクラが激怒する姿を想像しましたなんて、そんな恥ずかしい事言える訳もなく、俺は心にもない事を言う。
しかしサクラは俺の弁明に納得できなさそうだ。
『ええぇ……? ユウタが謝る時なんて、あの怖ーいユウタのおかあさんが怒る時だけじゃん』
「いやいや、今のお前が怒る方が怖いに決まってるだろ。 ……あ」
『えっ? ……あ』
しまった! 俺のオカンの話題が出たから、つい反射的に反骨精神で本音を言ってしまったー!
恥ずかしいし、なんか申し訳ない……
俺の本音を聞いてサクラは黙り込んでしまった。
サクラの沈黙が痛い。
「まあ、その…… なんだ。やっぱり人を笑うような行為って、良くないよな!」
わざとお茶を濁した様に言ってみる。
しばらく無言になった後、大きなため息がサクラから聞こえてきた。
『まったく…… まあ、あまり人をわざと怒らせるような事は言わないようにね?』
「お、おう……」
そう言ってサクラのマイクからは、サクラが席を離れてベッドに身を乗り出す音が聞こえてくる。
なんていうか、うーん……
恥ずかしい!
●●
昨日は結局、そのまま宿屋でダラダラと過ごしてしまった。
宿屋でサクラとスマホアプリ越しのトランプゲームをするのも楽しいっちゃ楽しいのだが、異世界に来て翌日にやる事がトランプゲームってのはさすがに気が抜けすぎだと思うんだよなぁ。
「そんな訳で」
『そんな訳で?』
「今日は魔物討伐を経験してみたいと思います!」
俺が魔物討伐を宣言すると、サクラは「おぉー!」と言いながら手を叩いている。
やっぱり異世界転生したなら、魔物と戦うのはやりたいよなぁ!
そして目の前には冒険者ギルド。
中に入って受付嬢にオススメを聞く。
「そんなわけで、魔物と戦いたいんだ。俺みたいな初心者でもできるオススメの討伐依頼を教えてくれ」
受付嬢は少し考えるそぶりの後に、一つの依頼書を持ってきて俺に差し出した。
「これはゴブリン討伐の依頼書です。本来はゴブリン討伐は中堅者の人たちに出す依頼なのですが、このゴブリンは数が少ないので、初心者用として提出されています」
「おぉ…… ゴブリンか」
最初の討伐依頼がゴブリンとは、やっぱり異世界って感じだよなぁ!
この依頼を受ける事にするか。
受付嬢に依頼を受ける旨を伝えると「わかりました」と承諾し、契約のサインを書いた。
でも、初めての討伐依頼だから、一応気を付ける事は聞いておかないとな。
「なあ、受けるに辺り、気を付ける事や留意する事はあるか? ほら、討伐依頼を受けるのは初めてだから、知っておいておかないといけない事とかないかなって」
俺の質問に受付嬢は少し考えてから答えた。
「討伐方法が記載されている場合以外は、どんな方法で討伐しても構いません。討伐依頼の証明には、討伐した魔物の部位を提出する必要があるので、必ず倒した魔物の種類が分かる部位を持ってきてくださいね?」
「りょーかい。わかったよ」
俺の返答に受付嬢はクスリと笑う。
おおぉ…… 何か変な事を言っただろうか?
「ほんと、面白い人ですね。冒険者で了解なんて返事するの貴方だけだと思いますよ?」
「そ、そうかぁ」
そんなに変なのか。
日本では軍隊用語で返答や会話するのは、ある程度はスラングとして当たり前だったが、どうやら異世界では普通じゃないらしい。
まあ、つい七十年ほど前まで軍国主事だった国に生きていたから不思議に思わないだけで、地球でも了解だとか退却だとか撤退や前進などの軍隊用語を日常で使うのは日本だけだったのかもしれないな。
面白い物を前にした様子で受付嬢は言う。
「本当に、やけに博識だったり慎重だっり、ある程度の貴族社会の礼節も出来るのに、なんで冒険者なんてなろうと思ったのでしょうねっ?」
そう受付嬢は言い、俺に「さ、行ってらっしゃい。私は他の業務があるので、これで」と伝えてカウンターの奥に消えていった。
まあ、周りを見る感じ、荒くれ者だったり訳ありそうな女性や子供ばっかりだからな。
この世界の冒険者とは、こういうものなのだろう。
……よし、初めての討伐依頼、頑張るか!
冒険者ギルドを出て、近場の門から出発する。
しばらく草原を歩いた所で、目の前に森が見えてきた。
討伐依頼の内容見る限り、この先の森にゴブリンが居るとの事だ。
耳のインカムからサクラの声が聞こえてくる。
『気を抜かない様にねー。こっちもペンダントの機能で索敵するけど、漏れもあるかもだからー』
「おう、索敵頼むわ」
そうサクラに返し、俺は森の中に入る。
いざ森の中に入ると、いろんな動物や虫の声が聞こえてくる。
ここからはマジで警戒しないとだな。
視界が広い場所を見つけ、ここなら少し立ち止まっても大丈夫そうなので依頼用紙を取り出し、もう一度依頼の内容を確認する。
ちなみに道具などは収納魔法で保存しているので、他人から見ると手ぶらに見えるだろう。
「正確な位置は…… この先の泉か」
依頼内容の情報によれば、この先に泉があるらしい。
泉には仰々しい名前が付けられているみたいだが、こんなの覚えられん。
宗教が絡む単語って難しいよな。
森の中を進むこと二時間ほどか。
目的の泉が見えた。
慎重に泉に近づいていく。
しかし、泉の手前まで来たが件のゴブリンは見当たらない。
「これが聖なるナンチャラがナンチャラカンチャラした泉だな。ゴブリンは見当たらないぞ」
『泉の名前覚える気ないよね。まあ、オレも覚える気失せるぐらいの仰々しさだけどさ』
ここまで歩いて来たのに、肝心なゴブリンが見当たらないんじゃあ、どうしようもない。
完全にお手上げですって感じな態度の俺を見てか、サクラが言う。
『ちょっと待っててね。索敵範囲を広げてゴブリンの位置を特定してみるよ』
おお、そんな事もできるのか。
ちゃっちゃかやってくれ。
サクラの索敵を待っている間に、泉を覗いてみる。
泉の奥は結構な深さがありそうで、奥の方には何かの石碑が沈んでいるのが見える。
仰々しい宗教的な名前がついているだけあって、この泉は信仰の対象なのだろう。
泉を観察していると、サクラがゴブリンを見つけたみたいだ。
『居たよー。ゴブリンの巣があるね。数は全部で五十匹ぐらいかな』
「いや、多くね?」
『ほんとにねー』
サクラが見つけたと言っていた場所に向かう。
ゴブリンの巣は泉から歩いて二十分ぐらいの距離だった。
草むらからゴブリンの様子を伺う。
俺の太もも辺りまでの身長の人型の魔物が村を作っているようで、原始的な草花で出来た建物が中央の謎のモニュメントを中心に沢山並んでいる。
その魔物はギャアギャアと叫びながら中央の謎のモニュメントを囲んで踊りを踊っていた。
「あれがゴブリンで間違いないのか?」
『見た目は、がっつりとゴブリンですって感じじゃん。あれがゴブリンなんじゃね』
にしても数が多いな。
見る限り建物だけでも十以上あるぞ。
これが初心者用の依頼ってのに驚くよ。
冒険者ってスゲェんだなぁ……
眺めていても仕方がないので、隠れている草むらから中央のモニュメントに向かって衝撃波の魔法を放つ。
火が出ない衝撃波系の魔法だ。
中央のモニュメントに水色の半透明の球体が着弾し、甲高い爆発音が森の中に響き渡る。
バアァン!
村の中央付近にいた二十匹近くのゴブリンが粉々に弾け飛び、ゴブリンの家屋を粉砕した。
火を使うと火事が怖いと思って、衝撃波が広がる系の魔法を撃ったんだけど…… めっちゃグロォ!
バラバラになったゴブリンの死体は見るに堪えないな。
突然の爆発で仲間の半分が弾け飛んだのを目撃した残りのゴブリン達。
彼らは叫びながら武器を持って家屋から飛び出してくる。
まだ俺の居場所を見つけていない様で、彼らは騒ぎながら辺りを見回している。
俺の居場所が分からないなら、一方的に彼らを攻撃するまでだな。
一度に半数を吹き飛ばした衝撃波系の魔法を追加で五発、ゴブリンの村に放つ。
バババババアァン!
ゴブリン達は住んでいた村ごと一瞬にしてバラバラに弾け飛び、跡形もなく吹き飛んだ。
後に残るは千切れたゴブリンの死体と、彼らの住居。
この惨状作ったのが自分だとは、正直ちょっと現実感がない。
そんな俺の様子を見てか、サクラが茶化してくる。
『ひどい……! 彼らに何の罪があったというの……!?』
今の美少女の姿を存分に使って、余りにもわざとらしい演技でサクラは言う。
まあ、殺生した俺が悪乗りするのは流石に不謹慎なので、常識的な返答をしようか。
「まあ、人間様に駆除依頼が出た時点で、名運尽きていたんだ。悪く思うなって感じだな」
『ありゃ、普通の返答。乗ってくると思ったのに』
「殺生しといて悪乗りとか炎上案件だろ……」
『異世界に来ても炎上を怖がる現代人って、業が深いねー』
サクラの言葉を聞き流し、俺は殺したゴブリンの右耳を取っていく。
全部取り終わったのを確認した後、空を見上げた。
「結構日が傾いているなぁ。サクラ、今は何時だ?」
『今、ちょうど三時だよ。そろそろ帰路につかないと夜になるよ』
「それは不味いな」
夜になると魔物が活発になると、メナリ様を護衛していた時にウォーレンさんから聞いている。
その時のウォーレンさん達曰く、街道ですら夜は中堅の冒険者でも危なすぎて歩かないらしいじゃないか。
森の中で夜になるなんて、この世界では自殺に等しいだろう。
取り忘れは無いか確認した後、来た道を戻る。
速足で移動したのが功を奏したのか、夕暮れ時には森を脱出できた。
町の門に入る頃には夜だった。
そのまま冒険者ギルドに行って報告をする事にした。
冒険者ギルドに入る。
ギルドの中は、もう武器を持った人は少なく、事務作業の人も一仕事を終えて休憩ムードだ。
「終わりましたー」
そう言いながら受付に入ると、俺を見送ってくれた受付嬢がパタパタとカウンターに駆け寄り、俺の前に来た。
受付嬢は、どこか安心した顔で俺に声をかける。
「お疲れ様です。無事に終わった様で何よりです」
「ああ、思ったより多くて驚いたよ。冒険者ってスゲーんだなぁ。あれで討伐初心者向けなのかと驚いたよ」
受付嬢からの労いの言葉に、冒険者って甘くないんだなぁ的な言葉を返しながら、袋に入れたゴブリンの耳をカウンターに置く。
しかし、ゴブリンの耳が入った袋を見た当の受付嬢は「えっ……?」と言葉を詰まらせた。
「どうかしたか?」
そう受付嬢に言うが、受付嬢は切羽詰まった形相で袋の中を確認しだした。
受付ので休憩していた職員も、どこか心配そうな顔でこちらを見ている。
「これはエルダーゴブリン、これもエルダーゴブリン、こっちはサピエンスゴブリンにこっちはゴブリンキング……!」
一通り袋の中を確認した受付嬢は「しばらくお待ちください」と俺に言い残し、奥の部屋に去っていった。
どうしたんだろう?
何かマズい事をしたのかと心配になてくる。
もしかして、倒しちゃ不味い相手だったのだろうか?
待つこと数十分程経ち、受付嬢が戻ってきた。 ……もの凄い量の札束と、山の様な宝石を乗せたトレーを抱えて。
「おまたせしました。ゴブリンの討伐改め、ゴブリンの大型集落の制圧おめでとうございます。こちらが報酬の二十万ゴールドと十万ゴールド分の宝石類です」
そう言って渡されたのは百ゴールド札の山と宝石類。
わかりやすく言うと、二千万円の札束と山の様になった宝石って感じだ。
驚く俺を見てか、受付嬢は事情を説明してくる。
「本来はゴブリン数匹程度の依頼だったのですが、知らぬ間に大型集落になっていたようです」
そう言って受付嬢は肩をなで下ろしながら「受けたのが、あなたで助かりました」とつぶやく。
「Aランクの冒険者でもないと、単独での撃破は困難ですからね。本当の初心者が受けて犠牲になる前に、あなたが受けて下さり助かりました」
受付嬢は、そう言いながら報酬を差し出す。
報酬を受け取った報酬を、収納魔法で収納していく。
その様子を受付嬢は眺めながら、俺に呟いた。
「収納魔法さえ使えるのですね…… 流石です」
突然褒められ、動揺してしまった。
俺は女性に褒められる事なんてなかったからなっ。
なんなら女性どころか、他人から褒められる事が全くない人生だったからなっ!
その後、ギルドの偉い人がやってきて、初心者用の依頼の難易度ではなかった事を謝罪し、ランクの授与を申し出てきた。
ランクの授与ってのは、冒険者の実力とギルドの貢献を総合して与えられる、いわば冒険者ギルドの爵位との事だ。
与えられたランクはAランク。
EからSまである中の、上から二番目のAランクだ。
貴族社会的には伯爵ぐらいの地位との事らしく、一度の討伐依頼で、いきなりAランクを授与される事は、このギルド支部では初めてなそうだ。
そんな訳で、晴れて俺はAランク付き冒険者になった。
五話は投稿済みです。
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