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血を浴びよ

 つかの間の休息を楽しむと、そのまま師団を峡谷へ向かわせる。


 そこを巨人部隊との決戦場所に選んだわけであるが、遠くに見える巨人を見て兵士たちは生唾を飲む。



「……想像したよりも大きい」

「……アレと戦うのか、俺たちは」

「……帰ったら結婚しようと思っていたのに」



 そのような会話が漏れ出るが、彼らを安心させるため、師団長のシスレイアは言う。


「勇猛なる天秤師団の兵士たちよ、恐れることはありません。タイタンたちはたしかに化け物ですが。我々も十分に化け物です。我々は寡兵で大軍を何度も破りました。たったの一旅団で難攻不落の砦も落としました。それらの奇蹟を再演すればいいのです」


 姫様は確信を込めて言っている。


 姫様とて巨人の威容に飲まれているはずであるが、兵の士気を高めるため、あえて大言壮語を放っているのだ。俺もその心意気に応えるべきであった。


 部下に最新式の大砲を高所に配置するように指示する。


 今回、対巨人ということで銃器は一切持ち込まず。大砲やカタパルト、バリスタなどの攻城兵器を取りそろえた。それを組み立てさせたわけであるが、巨人といえども大砲や巨石が急所に当たれば死は免れない。


 ――当たればの話だが。


 エルニア軍とて馬鹿ではない。かつて巨人に対抗するため、同じような方策で挑んだ将軍は何人もいる。しかし、結局、彼らがタイタン部隊に打ち勝てなかったから、今、俺たちが彼らと戦わなければいけないのだ。


「つまり俺たちの行動は無駄ってことか?」


 ナインが言うが、俺は首を横に振る。


「まさか、基本方針は間違っていない。過去の将軍が間違っていたのは、必要以上に巨人にびびっていたこと。それに巨人よりも強い男がいなかったことだ」


 にやり、俺は不敵に笑うと、そのまま走る。魔法で加速すると、そのまま巨人のもとへ向かう。


 数百メートル先にいる巨人部隊。それを指揮する帝国軍の士官はその姿を見て奇異に思ったようだ。しかし、その表情もすぐに笑いに変わる。自殺志願者がきたぞ、と、せせら笑うと、丘巨人に投石を命じた。


 近くにある巨石を軽々しく投げる丘巨人たち。

 彼らの投げる巨石はひとつひとつが農家の納屋ほどあった。


 それが雨のように降り注ぐのだから、その中を突っ切るものには死があるのみであったが、俺は死ぬことはなかった。


 それどころか死と戯れるかのように戦場を駆ける。


 巨石を残像でかわし、飛翔で回避し、魔法で砕き、ときには空中でひらりと石に乗り、そのまま丘巨人の眼前に迫る。


 一匹の巨人の前に立った俺は、魔力をフルバーストで解き放つと、一撃で巨人を倒す。出し惜しみゼロだ。


「明日、俺の魔力は尽きて宿舎でずっとへばってるだろうな。……もっとも俺に明日があれば、だが」


 そのように漏らすと、二匹目、三匹目の巨人を狩る。


「戦場に舞う踊り手のようだ」


 とは味方の言葉であり、


「戦場の悪魔」


 というのは敵軍の言葉だった。


 どちらも正しいのだが、なるべく長い間、その感想が正しいことを証明したかった。俺は魔力が尽きるのを気にせず戦い続ける。


 そしてそれに呼応するかのように戦うのは、クロエの兄ボークス。彼は俺の横の巨人を葬り去っていた。敵の肩から肩に飛び回る。忍者のように移動すると、そのたびに敵の喉と心臓を切り裂き、血しぶきをばらまきながら、巨人を倒していく。


 ふたりの独壇場であるが、師団の兵たちも動き出す。俺たちの活躍に触発される。

 天秤師団の大砲と投石機が雨のように巨人に降り注ぎ、その隙を縫うかのように師団の兵たちが巨人のもとへ向かう。


 ヴィクトールは巨人の身体を駆け上がると、大剣で巨人の腹を突き刺す。

 ナインは梟のように飛翔すると、巨人の口腔に巨大な火の玉をぶち込む。


 そのような芸当ができない一般兵は、一騎当千の勇者の補佐をしたり、ロープで巨人を転倒させ、急所を狙うように心がけた。


 その光景を見てアストリア帝国の士官たちは歯ぎしりをする。


「なんだ、こいつらは。我らは最強の部隊のはずなのに」


 地団駄を踏んで悔しがる士官もいる中、ひとり冷静な参謀が言い放つ。


「安心しろ。してやられているのは丘巨人だけだ。巨人族の中でもっとも邪悪なサイクロプスが残っている」


「おお、そうか! まだサイクロプスがいた」


 敵軍の士官が叫ぶと、後方から、のしっとひとつ目の巨人が現れる。


 単眼巨人と呼ばれる巨躯の巨人は大きな棍棒を持って師団の一部を攻撃する。その一撃によって数十人の命が失われる。


 形勢は一気に変わりかける。


 勝ちに乗っていた師団に恐怖という感情が生まれ、それが伝播しかけたが、絶妙のタイミングで援軍が現れる。


 ひとつ目の巨人の足下を颯爽と駆けると、そのまま足を駆け上がり、目玉を剣で突き刺す美しい女性。


 彼女は一撃でサイクロプスを倒すと、雄叫びを上げた。



「我こそはドオル族最強の戦士ルルルッカ。次期族長に名乗りを上げるものぞ! ドオル族のものよ! 次期族長になりたいものは我よりも多く巨人の血を浴びよ。ドオル族の誇りを示したいものは最後まで剣を握り締めよ! この戦闘は歴史に残る戦いぞ!」

 


 その言葉に行動によって応えるドオル族の傭兵たち。

 彼らは凶暴な巨人たちにも臆することはなく、果敢に立ち向かった。


 その光景を見て浮き足立っていた天秤師団の兵たちは我を取り戻す。ドオル族の勇気を分けて貰う。


 先ほどと同じように巨人に挑むと、次々と巨人を倒していった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 黒木特佐みたいなこといってる…ゴジラ好きかい? 倒せる奴でてきただけであっさり負けるって戦術も何もないゴリ押しだったんやなって
[気になる点] 恥部式をあげながら
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