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顔の怖い族長

「族長の顔こわっ!」


 というのが俺の正直な感想だった。

 目の前にいるのは、玄武岩をくり抜いて作り上げたかのような大男。

 およそ笑顔とは無縁の無骨な男だった。

 初老の域に差し掛かっており、貫禄も満載である。

 俺や姫様よりもずっと軍人らしい男だった。

 そんな族長様。


 脇にはドオル族の幹部と思われる男ふたりと、その娘であるルルルッカが控えている。


 ルルルッカと視線が合うと、にこりと微笑み、手を降ってくる。正直、恥ずかしいし、場違いだからやめてほしい。


 案の定、ドオル族の族長はぎろりと睨みつけてくる。


 俺は我関せず、を貫いていたので、怒りの矛先はルルルッカに向かってくれた。しょぼんとしている。


 自業自得であるが、助け舟を出してくれる人物がいた。シスレイアである。

 彼女は一歩前に出ると、エルニア陸軍少将らしい威厳に満ちた表情で言った。


「お初にお目にかかります。ドオル族の族長。わたくしはシスレイア・フォン・エルニア。エルニア王国の第三王女にして天秤師団の師団長。陸軍での階級は少将です」


 深々と頭を下げると、ドオル族の長は返礼をする。


「――ようこそ、招かざる客人よ。我はドオル族の族長。ウルマイット」


「素敵なお名前ですね」


 シスレイアは微笑みながら言う。


「あなたもお美しい名前だ」


「ありがとうございます。この名は母がつけてくれました」


「きっと母上もお美しい方なのだろう。――しかし、美しいからと言って無条件で心を許すと思われたら困るが」


「分かっております。ドオル族に協力していただくにしてもあなたがたの心を開き、自主的に協力していただきたいと思います」


「なるほどな。しかし、我がドオル族は自分で言うのもなんだが、頑固である。特にこの里に残っているものは特にな」


 先ほどクロエが話したことをそのまま言われたので苦笑してしまうが、笑いはしない。


「ドオル族に協力してもらうにはなにか手土産が必要なようですね」


「だろうな」


「それでは黄金はいかがでしょうか? 我が家、一式を担保に金貨を1000枚ほど用意します」


「目もくらむような大金だ。傭兵家業をしてもなかなか稼げないだろう」


「ドオル族の戦士にはそれだけの価値があります」


「そう言ってもらえるとありがたいが、それだけではな」


 シスレイアが困った顔をしていたので、俺が助け舟をだす。


「腹の探り合いもよろしいですが、ときには単刀直入に言うのもいいでしょう。ウルマイット族長よ、あなたの望むものを言ってください」


 その言葉を聞いたウルマイットは俺を値踏みするように見ると、「うむ……」と続けた。


「いいだろう、たしかにそのとおりだ。我々が望むのは最近、この森を悩ましているオーガの討伐だ」


「オーガ!?」


 その言葉に反応したのは同行していたエルフのエキュレートだった。彼女は興奮気味に言う。


「やはりドオル族もオーガに悩まされていたのか?」


「そのとおりだ、エルフの娘よ。お前たちは我らがオーガを復活させたと思っているようだが」


「それは蒙昧な一部のエルフたちが言っているだけ」


 エキュレートの代わりに俺が頭を下げる。


「……分かっている。どこの部族にも頭の堅い連中はいる。我がドオル族にもオーガの復活の責をエルフ族に転嫁するものもいる。無論、そのようなこと我は信じていないが」


 だが――とウルマイットは続ける。


「このままオーガの害が広がれば、誤った伝聞が広がる可能性も十分ある。それを事前に止めたい」


「――と、おっしゃられますと?」


「エルフ族とドオル族から戦士を出し合い、ともにオーガを討伐しようと思っている」


「それは素晴らしい考えです」


 シスレイアは笑顔を漏らす。


「ともに剣を取り、同じ窯のパンを食べれば、百日話し合うよりも分かり合えるというもの。是非ともその案を実行に移してください」


 全肯定する姫様。さらに提案を重ねる。


「エルフとドオル族が共闘する際、よろしければわたくしどもにも協力させてください」


「どのような意味だ」


「そのままの意味でございます。わたくしたちも討伐に加わります」


「人間族も関わることによって三族融和を図るか」


「そうなれば幸いですが、そこまで遠大な意図はございません」


「ほう……」


「この森は王国の治外法権にあります。ですがこの森の民もエルニアの民にほかなりません。わたくしはこの国の王族として民を守る責務があります」


 その言葉を聞いたウルマイットはじっとシスレイアを睨みつける。

 シスレイアは平然とその視線を受け止める。


 ドオルの族長、ウルマイットはかつて単身で百の兵を斬り殺したことがある猛者だった。百鬼の異名を誇るドオル族の戦士の中の戦士であった。


 そのようなものの凝視にも平然としているシスレイアはたしかに平凡な姫様ではなかった。


 百鬼もそれを感じ取ったのだろう。

 深く感じ入った表情でうなずく。


「……いいだろう。いや、こちらからお願いしよう。今回のオーガ討伐、是非とも貴殿らにも協力してもらいたい」


 ウルマイットは深々と頭下げることによって族長としての度量を見せる。

 部下を従わせることによって信義を見せる。


 横にいた側近、それと廊下で控えていたドオル族の男たちがやってくると、ドオル族式の礼を取る。


 一同を代表し、族長の娘、ルルルッカは言う。


「我らドオル族はエルフ族と人間族と共闘する。共にひとつの目的のために戦うことを誓わん!」


 その宣言を聞いた瞬間、室内は沸騰する。


「オーガに我らの強さを見せん。エルフと人間に我らが勇気を知らせん!!」


 勇壮で盛大な声が響き渡る。

 こうして三族共闘による討伐部隊が組織された。

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[一言] オーガ? オーク? 何かの使い分け?
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