招かざる客
翌朝、一同は同時刻に目覚める。
理由は様々であるが、基本、俺は眠りが短い。眠っているくらいならば本を読んでいたい、というタイプだった。
クロエはメイドさんという早起きが習慣化している職業ゆえに朝日と共に目覚める習性があるようだ。
シスレイアは生来の生真面目さが早起きの理由のようである。
エキュレートも森のエルフ、太陽と共に目覚め、活動することになれきっていた。
つまり意外と全員、早起きなのだ。
「健康的なのはいいことでございます」
にこりと締めくくり、朝食の席に着くシスレイア。
整った髪型、さわやかな笑顔、まさに早朝に舞い降りた天使である。
クロエも髪型や服装の乱れひとつない。
ボサボサの髪と寝間着姿のままパンを食べているのは、俺とエキュレートだけだった。
こういうところに性格が出るな、と思いながら朝食を頂く。
朝食はライ麦入りのパンにベーコンスープ、温野菜という有り触れたものであった。
手は込んでいないが、心は込んでおり、美味ではある。
パンには隠し味に蜂蜜、スープには旨味調味料、温野菜には岩塩がぱらりと振りかけられている。
小さな工夫であるが、その小さな工夫の積み重ね、思いやりこそが料理を何倍にも美味しくする秘訣なのだそうな。
とはご奉仕の大家、料理のスペシャリストであるクロエの言葉だった。
含蓄ある言葉だな、と思いながら横を見るとフォークでスープのベーコンを避けている少女を見つける。
肉が嫌いなのかな、と声を掛けるとエキュレートは言う。
「お肉が嫌いな女子などこの世界にいません」
自信満々であるが、こうも続ける。
「しかし、基本的にエルフはお肉が合わない体質なのです」
「どっちだよ」
「いえ、ですから、お肉の味は好きなので、お肉でダシを取るのは好きなのです」
と言うとベーコンをスプーンで俺のカップに運ぶと入れる。
スープはずずっと飲む。
自由奔放な娘である。
そんなふうに各自の食事を観察していると、食後のコーヒーが届く。
いや、コーヒー風飲料か。
森の中ではコーヒーは高価なので、代用のタンポポ茶が出された。
タンポポをこしてコーヒーの代わりにするのだ。それだけだと味気ないが、さらになにかしらの香草が入っているらしくそれなりに美味しい。
純粋なコーヒーではなく、タンポポ茶として普段から愛飲したいくらいだ。
そう感想を漏らすと、クロエも参入してくる。
「レオン様はコーヒーもお好きなんですか?」
「まあね。本好きだからコーヒーを愛飲しながら眠気を覚ましているよ」
「一冊でも多く本を読むためですね」
「そういうこと。水出しコーヒーが好きかな。香りは抑えめになるが、渋みと酸味が抑えられる気がする」
「なるほど、紅茶も渋いのは苦手ですしね」
「うむ。要は子供舌なんだろうな。オムライスやハンバーグが大好きだ」
くすくす、と笑うクロエ。釣られてシスレイアも笑う。
「レオン様はオムライスとハンバーグがお好きなんですね」
「東方から伝わったカリーも好きだぞ」
「まあ、カリーもですか」
「うむ。特に林檎と蜂蜜が入ったやつが好きだ」
「甘口がお好きなんですね」
「辛いのも嫌いじゃないが、カリーは甘いほうが好きかな」
そう言うとシスレイアはメモをしている。
クロエは説明する。
「おひいさまは最近、料理の研究に勤しんでおられるのです。忙しい軍務の合間を縫って料理本片手に奮闘しています」
「そういえばこの前、姫様が料理の本を借りてきていたな」
「すべてはレオン様のため。愛する殿方に美味しい料理を食べてもらいたい一心なのです」
そのような物言いをされると照れてしまうので表情を隠す。
「まあ、姫様が一生懸命に作ったものならばなんでも美味しいさ。さて、美味い朝食とコーヒーもどきにもありつけたし、そろそろ出掛けるか」
と言うと一同は席を立つ。
これからどこに行くのですか。と尋ねてくる無能な人間はこの場にひとりもいなかった。
俺たちが向かうのはドオル族の族長の家。
この村の長ににして、一族の指導者の家に向かう。
彼さえ説得できればドオル族が味方をしてくれるはずであるが、さてはて、上手くいくだろうか。
「ルル様から説得してもらうのはいかがでしょうか? レオン様と彼女は半分夫婦のようなもの」
その言葉ににこりとしながらも拳を握りしめるお姫様。クロエも彼女の性格を熟知しているのだから、そのような物言いはやめてほしい。
軽くたしなめると言う。
「いくら長でも、いや、長だからこそそういう私情は挟まないだろうな」
「ならば実利をちらつかせないと行けませんね」
「そういうことだ。ま、なるようになるさ」
わざと適当に言う。今から肩肘を張っても仕方ない。彼女たちを怯えさせてもなんにもならないのだ。
というわけで族長の家に向かう。
族長の家は村の端にあった。
一際大きく、一際立派である。
ドオル族の家はエルフ族とは違ってそれなりにしっかりしている。
石積みの家もそれなりにあった。
ちなみに族長の家も石造りで、周りに塀もある。
緊急時はここに籠もって敵を迎え撃てるようにできているのかもしれない。
そんなことを思いながら門番に声を掛ける。
「我々はエルニア国の使者だ。昨日、族長の娘、ルルルッカ殿に許可を頂き、訪問した。族長に会わせてくれないか?」
一瞬、門番は怪訝な顔をしたものの、最終的には通してくれた。
「……我々は招かざる客のようですね」
とはシスレイアの言葉であるが、その通りだろう。
分かってはいたが、ドオル族の人たちからはあまり歓迎されていないようである。
クロエが申し訳なさそうに言う。
「ドオル族は人見知りのものが多いのです」
「だろうな」
「特に里に残っているものは頑固です。融通の利くものは傭兵として世界中を放浪しています」
「種族としても頑固で融通がきかないが、その中でもとびっきりのが残っているって寸法か」
軽く苦笑いを浮かべ同意するクロエ。
俺とクロエはため息を漏らすが、シスレイアだけは気を吐いていた。
「ここで愚痴を言い合っても始まりません。話してみれば案外、気が合うかも」
そのような論法で一同を引っ張る。
たしかにその通りだ。最初から偏見の目で相手を見れば、相手もそれに感づくだろう。
俺たちはできるだけ先入観を持たないように気をつけながら族長のいる間へと向かった。




