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ルルルッカ

 突如現れたドオル族の武装集団。


 彼らは村を警備する自警団のようだが、問題なのはそれを指揮する妙齢の女性だった。


 彼女は改めて自己紹介をする。


「我は族長アバオルの娘、ルルルッカ。この森を守護するものなり。次期族長なり」


 その言葉、雰囲気はたしかに族長の娘っぽいが、問題なのは彼女の身分ではなく、最初に宣言した言葉である。


「――我が婚約者のクロエ」


 たしかに彼女はそう言った。


 クロエを見るが、彼女は平然としている。ただ、彼女は先ほど、次期族長に求婚されたのが厭で逃げ出した、と言っていた。つまり辻褄が合うのである。


 クエスチョンマークを浮かべる俺と姫様に同情してくれたのだろうか、クロエが説明してくれる。


「ドオル族の世界では男も女もありません。ある年齢になると女は戦士となるか、母になるかの選択を迫られます。そこにいるルルルッカ様は戦士になられる道を選んだ。しかも彼女はその道を究め、族長の娘だからではなく、戦士として次期族長に選ばれたお方です」


「それはすごいです」


 目を見張るシスレイア。

 その言葉に謙遜をするどころか、えっへんと応じるのはルルルッカ。


「その通りだ。私はすごい。ドオル族の戦士は強いものから順に妻を娶れる。だから我はクロエを選んだというのに、クロエは我の求愛を断り、バナの森から逃げ出してしまったのだ」


 なぜだ!? と美しき次期族長は頭を抱えるが、クロエを見る。

 彼女は、うんざりといった表情で教えてくれる。


「ルルルッカ様の言葉は真実です。ドオル族の戦士は優秀な嫁を選ぶ権利があります。女戦士でもそれは同じです」


「ドオル族は女同士でも子を残せるのか?」


「まさか。その辺は人間と一緒です」


 クロエは強調する。


「ドオル族も普通に男子と女子が接合して子孫を残します」


「……接合」


 言いよどむ俺を無視し、クロエは続ける。


「ですからルルルッカ様も強い戦士と結婚し、子孫を残すべきでしょう、とお勧めしたのですが」


 と言うとルルルッカはそれを否定する。


「子孫を残す役と子育てをする役は兼務しなくてもいいじゃないか。クロエは我の身の回りの世話、それと子育てをしてくれればいい」


「重婚ってことか?」


「人聞きが悪い。ハーレムだ」


 それもハーレムに当たるのかな、と、つぶやくと、ルルルッカは言う。


「まさしくそれこそがハーレムだ。強きものがひとつ屋根の下暮らし、共に苦楽をともにし、最強の子孫を育てる。ドオル族に生まれしものならば誰でも憧れる生活だ」


 ジーンと自分の手を握りしめ、感動しているルルルッカであるが、ドン引きである。それはクロエも同じだろう。だから彼女はバナの森を出たのだ。――となると、彼女をルルルッカと引き合わせるのは悪手なような気もするが……。


 どうするべきか、迷っていると、意外にも最初に声を上げたのはシスレイアだった。


「バナの森の民よ。そしてその代表たる族長の娘よ。わたくしの名はシスレイア・フォン・エルニア! この国の王の娘、第三王女! 此度はこの国の大事に関わることがあり、バナの森の勇敢な民と話し合いの席を持ちたいとやってきました」


 凜とした表情、張りのある声。

 威圧することなく他者の心を動かすことができる王者の風格を持っていた。


 これが王族の血筋に由来するのか、後天的な努力によって得られたのか、分からないが、未来のドオル族の族長の心には響いたようだ。


 彼女は、

「……分かった」

 一言だけ漏らすと、それ以上、クロエのことに言及することなく、俺たちを客人として持てなしてくれた。


「ドオル族は誇り高い部族だ。無礼は働かない」


 ルルルッカがそう言うと、弓を構えていたドオル族の兵士たちは矢を戻し、弓弦を緩める。


 このようにして俺たちはドオル族の村に入ることに成功した。





 ドオル族は世界中に優秀な傭兵を派遣することで生計を得ている戦闘民族である。


 幼き頃から武の教練に励んでいることは容易に想像できた。


 村の入り口には石像のように立派な筋肉を持った門番がいる。村の中に入ると子供たちが槍を持ち、標的を模した人形に突きを入れている。


 しかもただの突きではない。一撃一撃が鋭く、殺意が籠もっている。槍を突き刺すと同時に『ひねり』も加えて殺傷力を増している。天秤師団の新兵よりもよほど槍の扱いに長けている。


 槍だけでなく、弓も盛んなようで至る所に弓の練習場所があり、標的があった。大人も子供も真剣な表情で練習を重ねていた。


「世界最強の戦闘民族の異名は伊達じゃないな」


 嘆息しているとシスレイアも同意する。


「クロエが強い理由が分かりました。このような環境下で育てば強くもなります」

「たしかに」


 と同意しているとクロエはにこりと言う。


「馬鹿力はドオル族由来ですが、懐中時計を武器とする戦闘術は森を出たあとに習いました」


「なるほど、たしかに懐中時計を武器にする戦士は他にいない」


 村を見渡しても誰も懐中時計を持っていなかった。


「森を出たあとにお師匠様と出会って習ったのです」


「いつか詳細を聞きたいが、それは今じゃなさそうだ」


「たしかに。今はルル様を説得する方法を考えないと」


 一同は「うーん」と頭をひねらすが、ここで空気を読まないエルフが一言発する。


「てゆうか、クロエって子を差し出せば、ルルルッカって子は味方になってくれるんじゃないの?」


「…………」


 単純であり、非人道的であるが、たしかにそれが一番の近道のような気がした。

 ――ただし、実行をすることはないが。


 クロエはシスレイアの忠実なメイドさん、シスレイアはクロエのことを姉のように慕っている。またクロエもシスレイアのことを妹のように思っている。互いに互いを売ることなど有り得ないだろう。


 それに俺もここ最近、クロエというメイドさんと接する機会が増えた。彼女の入れてくる心のこもった紅茶は、慣れぬ軍務で疲れた俺の心を確実に癒やしてくれる。


 いわば俺にとっても彼女は必要不可欠な存在となっていた。

 なので彼女を売るなど有り得ない。

 というわけで説得でなんとか交渉をまとめるべく、指針をまとめる。


 エルフのエキュレート以外は全員、同意見だったので、俺たちはルルルッカが用意してくれた宿に向かうとそこで作戦を練ることにした。

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