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エルフのエキュレート

 森の奥でエルフを助けた俺たち。


 彼ら彼女らに感謝されるために助けたわけではないが、命を助け、介抱をしているのに敵でも見るようなまなざしをされると多少はへこむ。


 特にひとりの女エルフの警戒感は想像を絶した。


 彼女は腕に手傷を負っていたが、

「人間の男に触れられるくらいならば自害するわ!!」

 と矢を取り出し、鏃を己の喉に突き刺そうとする。


 こんなところで死なれたらかなわない。

 そう思った俺は治療をシスレイアに一任する。

 俺特製のポーションをシスレイアに渡し、内緒で使ってもらう。


 シスレイアは承知しました、とエルフの女性の治療に当たるが、シスレイアにさえ嫌悪感を持っているようだ。


「……人間に助けられるなどエルフの恥知らずになってしまった。ご先祖様に申し訳が立たない」


 なかなかにツンツンした性格であるが、それでもポーションでみるみるうちに傷が治ると、

「うちの長老の秘薬よりすごいかも……」

 ぼそりと漏らし、目を丸くしていた。


 口の中でもごにょりと小さな声で、「……ありがとう、人間」という辺り、やはり彼女はツンデレというやつなのだろう。


 ただ、デレの成分は少ないが。

 傷が治った彼女は再び宣言する。


「救ってもらった礼はするわ、人間。エルフは礼節を重んじる一族だから」


「どういたしまして」


 軽く返すと彼女は続ける。


「でも、それでも心を許したわけではない。あなたたちはこのバナの森の部外者。ここは聖域なのだから即刻立ち去りなさい」


「そうしたいのは山々なんだけど、申し訳ないが、俺たちにも目的があってな。それを果たすまでは帰れない」


「目的? 何用なの?」


「この森にはドオル族と呼ばれている亜人も住んでいるはず。彼らと面会したい」


「ドオル族の手先!?」


 警戒心を強めるエルフの娘。


「手先どころか髪の毛一本分の縁しかないよ。だがまあ無関心でもない。黙っているのはアンフェアだから言うが、そこにいるメイドのクロエはドオル族だ」


 ぺこりと頭を下げるクロエ。


「……どおりで馬鹿力なはずだわ」


 メイド服姿だから気がつかなかった、と漏らすエルフの娘。


「ただし、彼女はドオル族を飛び出した身、今はエルニア王家の姫の侍女をしている」


「森のドオル族とは無関係ということね」


「そういうことだ」


「……いいでしょう。たしかにメイド服を着たドオル族など聞いたことがないわ。やつらはいつも野蛮な格好をしているし」


 同族を野蛮と言われたクロエだが、怒る様子はない。


 ドオル族に嫌気がさしたから森を飛び出したと言っていた。あまり良い感情を持っていないのだろう。


「ただ、ドオル族の手先でなくても、森の外の人間、しかもエルニア王国の人間であることには変わらない。この森は王国の庇護を受けない代わりに、干渉も受けない存在」


「たしかにそんな盟約を結んでいるらしいな」


 何百年も昔に相互不可侵条約を結び、以後、関わりを立っていると言う話は聞く。


「なのでこの森から出ていってちょうだい。ここはあなたたちがくるような場所じゃない」


「さっきも言ったが、俺たちはドオル族に……」


 と言いかけると、姫様がすうっと間に割って入る。

 彼女は言葉でなく、態度で示す。

 彼女はぴんと張った背筋を曲げる。深々と頭を下げる。


「ここは人間が立ち入ってはいけない場所だというのは重々承知しています。エルフ族の聖域であることも」


「…………」


「しかし、私たちには時間がないのです。この森の外に私たちの仲間がいます。彼らは南方を荒らす巨人の軍隊に挑もうとしている。彼らを助けるにはドオル族の力がいるのです」


「…………巨人族の部隊。アストリア帝国ね」


「はい。わたくしはこの国の王族として国民を守る義務があります。あなたが森を守るように」


「…………」


 シスレイアの真剣なまなざしになにかを感じ取ったのだろうか、エルフの娘は大きく溜息をつくと言った。


「……仕方ないわね。今回だけよ。特別に聖域に入る許可を取ってきてあげる」


「本当ですか?」


 ぱあっと表情を輝かせるシスレイア。その笑顔は森の妖精をも虜にするほど可愛らしかった。


「エルフは恩知らずではないの。それに義という言葉の意味と本質を知っている。つまり受けた恩はちゃんと返すわ」


 デレてきたな、と思わなくもないが、余計なことは口にしないほうがいいだろう。

 ただ、このままエルフ一族が善き理解者になってくれるわけでもないようだ。

 それにおべんちゃらを使われることもない。


「聖域は通すし、案内もする。でも、ドオル族を口説くことは無理よ」


「その心は?」


「彼らの心はエルフよりもひん曲がっているから」


「…………」


 ツンデレエルフにそのように言われるということは、ドオル族は相当気難しい種族なのだろう。容易に想像がついたし、クロエも否定することはなかった。


 それでも俺たちはドオル族に会いに行かなければならないのだが――。

 改めて決意を新たにすると、俺たちはここで一晩明かすことにする。

 いや、ここはオーガの血で汚れているから、先ほどの場所に戻る。

 そこでテントを張り、エルフ族族長の許可を待つ。

 ひとりの若者エルフが木々の間を縫うようにエルフ族の村に向かう。

 その後ろ姿を見つめると、ぼそりとツンデレエルフはつぶやく。


「……忘れていたわ」


 なにを忘れていたのだろう。

 そう尋ねると、彼女はくるりと回り、咳払いをする。


「言い忘れていたわ。あたしの名はエキュレート。バナの森のエルフの娘。――さっきは助けてくれてありがとう」


 頬を染め上げながら自己紹介をするその姿はなかなかに可愛らしかったが、そのことを指摘すればせっかく開き掛けた心を閉ざしてしまうだろう。


 だからなにも指摘せずに俺たちもそれぞれに自己紹介をする。



「俺の名はレオン・フォン・アルマーシュ。エルニア王国で宮廷魔術師兼宮廷図書館司書兼天秤師団軍師をやっている」



「わたくしの名前はシスレイア・フォン・エルニア。この国の第三王女です。エルニア陸軍少将、天秤師団の師団長でもあります」



「私はそのおひいさまの侍女。メイドでございます」



 それぞれに挨拶をするが、多彩にして混沌とした肩書きにエキュレートは面食らっているようだ。口を押さえ、「覚えきれるかしら……」と、つぶやいている。


 肩書きまで覚える必要はないが、せめて名前くらいは覚えてほしいものである。

 そんなことを思いながら、俺たちはクロエが用意してくれたお茶を飲んだ。

「面白かった」

「続きが気になる」

「更新がんばれ!」


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