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野営陣地

 師団の編成が終わり、行軍を始めるが、バナの森の北端に差し掛かるとそこで軍を止める。


 野営陣地を張る。


「こんなところでピクニックか?」


 というのは新しく連隊長になったヴィクトールの言葉だ。


「まあ、似たようなものだ」


 というのは俺の言葉であるが、これから森にピクニックに行かなければいけないのは事実だった。


 俺はヴィクトールとナインを呼び出すと、ふたりに師団の指揮権を渡す。


「ちょ、おま、新任少佐ふたりにいきなり指揮権渡すか、普通」


 驚く赤髪のナイン。

 ヴィクトールはそんなに驚いていないようだ。ナインをたしなめる。


「おいおい、そんなんじゃレオンの旦那の下ではやっていけないぜ。レオンの辞書に常識はないんだ」


「代わりに勇気と愛の項目が充実しているよ」


 そううそぶくと作戦の概要を伝える。


「これから俺と姫様、それにクロエの三人で森の中に入る」


「ドオル族と交渉に行くのか」


「そうだ」


「しかし、司令塔である姫様とお前が留守にするってのは」


「ドオル族を説得するには姫様のカリスマ的魅力が必要だ」


「じゃあ、お前はいらないだろう」


「俺はドオル族をだまくらかすの担当」


「…………」


 ふたりは開いた口が塞がらない、という顔をしている。


「冗談さ。ま、俺は姫様の軍師兼護衛役だ」


「分かった。一時的にだが、おれとナインが軍を預かる」


 ヴィクトールはこの期に及んで抗議することはないようだ。

 ただナインは文句を垂れるが。


「ていうか、レオン中佐、オレも連れて行ってくれよ。炎魔法は役に立つぜ」


「お前の強さには異論は持ってないが、駄目だ。森で炎は禁忌だからな」


「その通りです」


 というのはメイドのクロエの言葉だった。


「ドオル族は自然を愛します。森を慈しみます」


「なるほど、木々を焼く炎は禁忌のわけか」


 ナインは軽く舌打ちすると引き下がってくれた。


「というわけだ。天秤師団はヴィクトールが指揮をし、ナインがそれを補佐してくれ。魔術学院で軍師の講義はあっただろう」


「本当に講義だけだ。一兵の指揮もしたことがない」


「俺も似たようなもんだ。ついこの前まで本の山に埋もれる学究肌で一兵も指揮などしたことはない」


「その割には堂々としているな」


「そうだ。それがコツだな。たとえばお前が盲腸になったとする」


「ならねーよ」


「たとえだよ」


「たとえでもなりたくないが、まあいいか」


 ボリボリと頬をかくナイン。


「そのとき、担当した医者に、『私、実は今日が手術初めてなんです。――正直足が震えています』と言われたらどうする」


「担当を変えてもらう」


「そういうことだ。初心者だろうが、童貞だろうが、堂々としていればいいんだよ。いや、堂々としていないと駄目なんだ」


「そういうこった。童貞ほどいきがれってことだ」


 ヴィクトールはナインの頭を子供みたいに撫でる。「うっせー、筋肉ダルマ」と文句を言う。彼は子供扱いされると怒るのだ。まあ、背が小さいことを揶揄されるのが大嫌いなのだろう。


 両手をジタバタさせるナインを軽くあしらうと、ヴィクトールは真剣な表情でこちらを見てくる。


「旦那、部隊は任されたが、ドオル族を説得できる自信はあるのか? 実際のところ」


「あるさ。姫様の軍師レオンは勝算のない戦いはしない」


 軽く微笑むと、ヴィクトールと握手をし、彼に指示を出す。


「連絡が取れる限り、使い魔を使って伝令を送る。基本方針としては森を迂回しながら南進してくれ」


「タイタン部隊は南方で暴れ回ってるからな。捕捉されれば襲われるかもしれない」


「そこで俺が森を突っ切ってドオル族を従え、敵の横腹を突く」


「完璧な作戦だ。机上の上ではだが」


「机上の上で完璧ならば立派さ。少なくとも机上の上でもダメダメよりも」


 そう口元を緩ませると、ヴィクトールと握手をする。

 分厚い手からは厚と熱さが伝わってきた。

 ナインは「ホモかよ」と毒づくが、最後に手を添える。


 それを見てクロエは「妄想が捗ります」と笑うが、姫様は意味を理解していないようだ。どうやら同性愛系の小説は読んだことがないらしい。


 今度貸そうか、と言えるほど知識はないので黙っておくが、そんな姫様とメイドに出立をうながす。


「森の中に入るから馬はおいていく」


「それが賢明だ」


 とヴィクトールは馬を預かってくれる。

 そのまま俺と姫様とメイドは、鬱蒼と木々が生い茂るバナの森へと向かった。



 バナの森とはエルニア南部に広がる広大な森である。


 エルニア建国史にも登場するような古い森で、神々と邪神が争っていた時代から存在する、という学説もある。


 おそらく有史以前から存在するだろうと思われる。

 森は深く、神秘性に満ちている。

 静寂と生物の鼓動しか聞こえない。

 ただただ静かであるが、その静けさは危険にも直結していた。

 深い森は人を迷わせる。もしも迷えばそのまま遭難し、死に繋がるだろう。

 あるいはもっと直接的に森の野生動物や魔物などが危険を及ぼすかもしれない。


 昼間でも薄暗い森、その木々の上には涎をたらしてこちらを見ている魔物もいるかもしれないのだ。


 つまりこの森はとても危険であった。


 三人はそれぞれに顔を合わせると、そのままうなずき合い、森を慎重に進んだ。


「面白かった」

「続きが気になる」

「更新がんばれ!」


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[一言] とても面白くて時間を忘れてしまいます。 更新頑張ってください!
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