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不安

 こうして正式に調査をすることが許された俺たちであるが、まず事実関係を確認する。


「ナインに詳細は聞いているけど、一応確認の意味も込めて」


 と前置きした上で司書オクタヴィアに尋ねる。


「今回の騒動は、一冊の魔術書が燃えたことから始まった、ということでいいか?」


「ええ、そうです」


 オクタヴィアは肯定すると詳細を話す。


「先月の始めでしょうか。この部屋で管理されている高名な魔術書の原本がなにものかによって燃やされました」


「なにものか、というと人為的なものだと判断されているのか? 魔術書ってやつは案外勝手に燃えることもあるぞ」


「そうなんですか?」


「ああ、火の魔術書なんかが顕著だな。火の魔術書自体が高温になっていてなにもせずに発火することが多々ある」


「まあ、怖い」


「木の魔術書や風の魔術書が隣に置かれるとそれに発火し、大火事になることもあるんだ」


「さすがはレオン様です。博識です」


「図書館司書の常識だよ」


 とオクタヴィアのほうを見ると、彼女はこくりとうなずく。


「この図書館でも火と風の魔法書は離しておいていました。火と水の魔法書を隣り合わせたり、空調に気を遣ったり、基本は守っています」


「なのに発火したのですね」


 むむう、とショーケースを覗き込むシスレイア。可愛らしい。


「軽く調べた限り、自然発火ではないのはたしかだな」


「やはり作為的。つまり、放火ということでしょうか?」


「おそらくは」


「その犯人さんを探すのが我らの使命なのですね」


「犯人にまでさん付けするのが姫様らしいが、まあ、そんな感じだ」


 そのようなやりとりをしていると、ナインが言う。


「人為的というのは疑いようがない。錬金術師が調べたが、本には油のようなものが撒かれていた」


「油ですか」


「種類は分からないがな」


「それと炎魔法で着火した形跡がある」


「さすがは炎の魔術師さんですね」


「その異名のせいで疑われているんだけどね」


「皮肉なことだな。まあ気にするな、犯人の目星はついている」


「なに? 本当か」


「ああ、ただ、動機が分からないんだよな」


「動機なんてあとから解明すればいいだろう。ふん縛って拷問すればいい」


 粗暴な意見だが、効率的ではある。ただし、インテリを自称する軍師には似合わぬ論法であった。


「というわけで今からその犯人をあぶり出す」


「どうやって?」


「簡単さ、今から残っている最後の火の魔術書を運搬する」


「運搬? ですか?」


 シスレイアはきょとんとする。


「そんなことをして意味はあるんですか?」


「あるよ。簡単な論法だ。犯人は明らかに火の魔術書に拘りがあるよな?」


「はい。焼かれているものはすべて火の魔術書です」


「さらに目的はその魔術書の知識ではなく、魔術書そのものにある」


「たしかにそうです。知識が目的ならば焼くのは非合理的です」


「ああ、しかも調べたところ魔術書の灰が不自然に持ち去られているらしい」


「なるほど、それならばその灰が目的ということですね」


「そういうことだ。おそらく、秘薬か霊薬の素材にするのだろう」


「貴重な魔術書ですから素材として最適かも」


「知識を灰にして素材にするとは人類に対する冒涜だが、犯人もなにか理由があるのだろう」


 俺は続ける。


「――理由があるからこそ、最後の魔術書が運搬されるとなれば、犯人も動き出すはず」


 と言うと一同の顔を見るが、ひとり反対するものがいる。

 図書館司書のオクタヴィアだ。


「――理論は正しいです。それは認めますが、貴重な魔術書を運搬するなど、ありえません」


「このままだと最後の魔術書も燃やされるぞ」


「それはありえません」


「なぜだ?」


「二度とあのようなことがないように魔術書の警備を厳重にしているからです」


「部外者の俺たちが入ってきたが?」


「…………」


「というわけだ。論破だな」


 そう言い切ると、俺は魔術書を王立図書館に移す旨を告げる。


「今からここの図書館長に談判してくるが、まあ、俺の論法を聞き届けてくれるだろう」


「たしかに」


 ナインも納得し、そのまま図書館長のところに向かおうとするが、それを止めるものがいる。


 オクタヴィアである。正確には止めるのではなく、代わりに向かうという提案だが。


「……分かりました。図書館長には私が具申します」


 と言うと彼女は俺たちに背を向ける。


「よろしく頼むよ」


 と彼女の背中に言うと、彼女が戻ってくるのを待った。


 ――しかし、なかなか彼女は戻ってこない。


「……なにかあったのでしょうか?」


 シスレイアが不安に駆られた表情をする。


「……なにかあったのだろうな」


「まさか、犯人が彼女を襲ったとか?」


「あり得るかもな。なにせ貴重な魔術書を焼くような凶人だ」


 首肯するナイン。


「俺たちがいるのを見て警備が厳重になったと逆上したり、あるいはオクタヴィア先生を人質に取ろうとする可能性もあるな」


「そういうことだ。というわけでこれから館長室に向かうが異存があるものはいるか?」


 全員を見るが首を横に振るうものはひとりもいなかったので、館長室へと向かった。


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