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燃やされた魔術書

 棚を巡りながら本の解説をする。


「そもそもここの図書館はなっていないんだよな」


「なっていないといいますと?」


シスレイアが尋ねてくる。


「さっきも言ったが本の順番が古代魔法言語を基準にしている。そりゃ、魔術師の常識みたいなところもあるが、一般人や非研究職の魔術師は困惑する」


「だな、オレも戦闘タイプだから困惑したぜ」


 とはちびっ子魔術師のナイン。


「名前順もそうだけど、本の種類も大系別に置かれていないから困惑する」


 俺は「愛の営み」と書かれた本を生物学の棚から、恋愛小説の棚へ移す。


「題名だけでジャンルを決めるとこういうことになる」


 と他にも間違ったジャンルに置かれている本を直していると、シスレイアはくすくすと笑う。


「ん? なにかおかしいかな? ジャンルはあっているはずだけど」


「いえ、本の並びがおかしいのではなく、文句を言いながらも嬉々として本を並べるレオン様がおかしくて」


「そんなに嬉しそうにしていたかな、俺」


 シスレイアはこくりとうなずくと、ナインも同意する。


「レオンは本が好きなんだな」


「まあな。この世でもっとも尊いと思っているよ」


 事実、俺の最終的目標は静かに図書館司書として人生を終えることであった。


 無論、姫様の夢「恒久的な平和」をかなえる努力はするつもりであるが、姫様の夢が一段落したら、あとはすべて姫様に任せ、図書館に引きこもりたかった。


 それが俺の願望なのだが、しばらくはその願望を果たせそうにない。

 平和というのは願っただけではかなえられないからだ。


 平和を得るには『力』が必要なのである。軍事力、政治力、外交力、あらゆる力を得て、初めて平和は訪れるのである。


 と考えていると、少年の燃え上がるような赤髪が目に入る。


(……てゆうか、こいつ、よく見るとなかなかの魔力だな)


 魔力を通して彼の身体を見ると、燃え上がるようなオーラが見える。

 また歩き方も堂に入っており、戦闘の心得もあるようだ。


(……天秤師団はできあがったばかりで人材不足なんだよな。……特に魔術師が不足している)


 戦略級の魔術師がもう2、3人ほしいところであるが、それは贅沢の言い過ぎだろう。


 せめて戦術級でもいいので、従軍魔術師を増やしたいところであるが。


 こいつをスカウトすればどうなるだろうか、天秤師団の魔術師たちを束ねられるだろうか。


 ちびっ子魔術師が大柄男たちを指導する姿はなかなか思い浮かばなかったが、とあることに気がつく。


「なんか、焦げ臭い匂いがするな」


「焦げ臭い匂いですか?」


 シスレイアはくんくんと子犬のように鼻をならすが、彼女の鼻孔には届いていないようだ。


「火事でしょうか?」


 シスレイアは真剣な面持ちで尋ねてくる。

 いや、違う、と首を横に振る俺。


「これは現在進行形で燃えている匂いじゃないな」


「といいますと?」


「二、三日前に燃えた匂いだ」


「かなり最近と言うことですね」


 姫様がうなずくと、ナインは興味深げな顔を浮かべた。


「へー、あんた、やるじゃないか。まるで盗賊ギルドの盗賊のようだ」


「お褒めにあずかり恐縮だ」


 恐縮せずにそう言うと続ける。


「その表情はお前はなぜこのような匂いがするか、知っているな?」


 と言うとナインは少年のような笑みを浮かべ、「てへへ」と言った。


「さすがは天秤師団の軍師様だ。なんでもお見通しだ」


「お前がなにものであるかは知らないよ」


「言ったろ、ただの魔術師ギルドの会員さ。――ただし、その会員資格もなくなりそうだけど」


「それがこの焦げ臭い匂いと関連しているのか?」


「そーだよ」


「なるほどな。おおよそ想像がつく」


「ほう、聞かせてくれよ」


「火気厳禁の図書館で焦げあとの匂いがするんだ。おそらくはなにものかが忍び込んで魔術書でも焼いたんだろう」


 その言葉を聞き、ナインは目を見張る。


「さすがは軍師様だぜ」


「驚くのはまだ早い。俺はその魔術書を焼いた容疑者がお前だと思っている、違うか?」


「……どうしてそう思った?」


「なんの関係もなかったら、なんの脈絡もなく本探しを頼まないだろう。本当のところは本を燃やした犯人を捜して自分の容疑を晴らしたいんじゃないのか?」


 その言葉を聞いてナインは灼眼を見開く。


「……へへっ、とんでもない魔術師に声を掛けちまったのかもな。オレの運もまだまだ捨てたもんじゃない」


 その言葉は俺の耳にも入ったが、特に気を止めることなく、現場に向かった。


 ナインが案内してくれたのは、書架に置かれていない貴重な蔵書を保管する場所だった。


 それらの本を読むのには特別な許可がいり、特別な人しか読めないのだ。読みたいものは魔術師ギルドの申請書を書かなければいけない。


 その申請書はなかなか降りないはずだが、と思っていると、シスレイアは俺の袖を引く。


「レオン様、ショウケースに近寄りすぎです。……それに涎が」


「……おっと」


 いけないいけない、貴重な蔵書群を見て司書の魂がうずいてしまった。

 さすがは魔術ギルド、王立図書館にもない貴重な魔術書がいくつも置かれていた。

 冷静に検分していると、シスレイアが見たままを口にする。


「……たしかに燃えています。ショウケースに入った魔術書がいくつか灰になっています」


「だな。順番に灰になっているわけではないな」


 見れば燃えている本は三冊。隣り合っているものはひとつもない。


「なにか法則性があるのでしょうか?」


 俺はいくつかの魔法書の題名を読み、推測する。


(すべては四大元素に関するものだな。しかし、『火』に関するものだけ少ない。残り一点だ)


 ということは燃やされたのは火に関する魔術書? と推測をしていると、第四の人物が声を張り上げる。


「そこの三人、なにをしているのですか!!」


 その声に俺たちは振り向く。

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