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姫様とデート

 俺の名はレオン・フォン・アルマーシュ。

 エルニア王国に使える宮廷魔術師――だったのは二ヶ月ほど前まで。


 今はただの宮廷魔術師ではなく、複数の役職が付く。その役職をすべて明記すると、



 エルニア王国宮廷魔術師兼宮廷図書館司書兼天秤師団軍師となる。

 


 そう、あれほど平和と平穏をこよなく愛していた俺がついに軍属になったのである。


 図書館に籠もり、給料泥棒と呼ばれていた俺が軍属とは、俺の昔を知る人間は驚きを隠せないだろう。


 いや、俺自身、いまだに信じられないのだから、他人に信じ込ませようというのが無茶な話なのかもしれない。


 そんなことを思いながら、俺の主義を変えさせることに成功した少女を見る。

 金色の髪と、蒼い瞳、高貴な雰囲気をまとう少女。

 彼女の名は、シスレイア・フォン・エルニア。


 この国の国姓を持つことから分かるとおり、彼女はこの国の王女。第三王女である。


 最初、彼女と出会ったのは宮廷図書館だった。いつものように怠惰に働く俺に、彼女はにこやかに言った。


「――いつも本の整理、ありがとうございます」


 飴玉と温かい気持ちを添えながら。


 今でもそのときの光景をくっきりと脳内に思い描くことが出来るが、彼女との本格的な出逢いはそれから数ヶ月後だった。


 ある日、戦目付として東方の砦に配属された俺は、そこで窮地に陥っている姫様と再会する。


 優しいシスレイア姫は、宮廷内部の権力闘争に巻き込まれ、敵地で孤立してしまったのだ。


 その窮地を「火牛の計」と「謀略」で救ったのが俺であった。


 姫様は俺の知謀に一目惚れしてくれ、俺を軍師として迎え入れようとしたのだが、そのときの俺はまだ自分に素直になれなかった。


 仕官の申し入れを二度ほど断ったのだ。

 結局、姫様の必死の懇願と、彼女の志に共感して軍師となるのだが、詳細は省く。ただ、今にして思えば「あのとき」から俺の命は俺だけのものでなくなった。


 俺の命は姫様のものであり、俺の双肩には天秤師団の将兵の命が乗っている、と感じるようになった。


その後、俺は姫様のため、一旅団で難攻不落の要塞を落としたり、姫様の総合プロデュースをしたり、炭鉱都市の住民を救ったりした。


 軍師としての職務を十全に果たしたのだ。


 その過程で姫様の実の兄を殺してしまったのは、ちょっとしたトラブルだった。


 実はシスレイアの兄は、終焉教団と呼ばれる邪教徒と通じていて、禁断の秘技を使い悪魔化したのだ。


 俺は人の心を失った彼女の兄、ケーリッヒを容赦なく殺した。わずかの逡巡もなく殺した。


 悪魔に魂を売り、民に塗炭の苦しみを与え、シスレイアを侮辱した人間に当然の末路を用意したのだ。


 ――と、俺は思っているのだが、心優しい姫様はそうは思っていないようだ。


 仕方ないとはいえ、実の兄を殺してしまった罪悪感からは逃れられないようで、今日も浮かぬ顔をしていた。


 そのことにやっと気がついた俺は、信頼できる姫様のメイドに話しかける。


「今日も君のおひいさまは浮かない顔をしている」


 その言葉を聞いた黒髪のメイドは、「……はあ」と深いため息を漏らす。


「やっと気がつかれましたか、レオン様」


 心底、残念そうに言うメイドのクロエ。


「戦場から戻ってきてからずっとあのように塞いでおります。このようなときこそ、愛する軍師の助言が必要でしょうに」


「女性は月に一度、塞ぎ込む日があるからそれだと思ったんだよ」


 そう返答すると、クロエの冷ややかな視線が突き刺さる。デリカシーがなかったようだ。軽く咳払いし、話題を本筋に戻す。


「まあ、実の兄と対峙し、死に追いやってしまったんだ。心優しい姫様ならばああもなるか」


「それが分かっているのならば優しく声を掛けてくださいまし」


「それは適切な判断かな」


「適切です」


「そうかな。なんて声を掛ければいんだ。やあ、姫様、ご機嫌麗しゅう。このあと一緒に街を散策しないか? ――君の実の兄を殺した男と、か」


「……後半部分は不要ですが、前半部分はエクセレントです」


「なるほど、外に連れ出し、気晴らしさせるのは有効だと思うか」


「はい、姫様の憂いも少しは晴れましょう」


「ならばそうしようか。どのみち暇だしな」


「その言葉の後半も不要かと」


「言葉遣いに注意しよう」


 だが、それでも完璧にはなれない旨を伝える。


 自分では自分の知謀を高く評価しているが、それは戦略や戦術、謀略や政治だけの話。


 女心を理解し、完璧な男を演じられるほど器用ではなかった。

 それはクロエも了承しているようで、わずかばかりの苦笑を浮かべながら言った。


「分かっておりますよ。世界最強の宮廷魔術師様にも苦手なことがあることくらい」


「有り難い」


 と返すと、俺はそのまま姫様に声を掛けた。


 舌の根も乾かないうちに、


「……姫様、実は今、暇を持て余しているのだが」


 という枕詞を使ってしまったのはさすがに自分でも呆れたが、それは事実だった。

 今、天秤師団の幹部は、皆、謹慎中なのである。


 悪魔化しているとはいえ、一国の王子を殺してなんの沙汰もないというのはありえない。


 今、軍の上層部、それに政治の場で天秤師団の責任を問うかの裁定が行われていた。


 その間、王都から一歩も出るな、とのことだが、王都を散策するのも一興だろう、と思っていた。


 幸いと故ケーリッヒ殿下は、人望がないことで有名な王子だった。「敵討ち!」と襲ってくる忠臣もいないだろう。


 ならばこの機会に姫様と王都を巡り、親睦を深めるのも悪い選択肢ではなかった。


 そんな考えのもと、デートに誘ったわけであるが、姫様はこころよく俺とデートをしてくれた。

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