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戦場の抱擁

 このようにして一連の戦闘は終わった。

 すると姫様が真っ先に俺に抱きついてくる。

 間近で悪魔を見、死にかけた少女だからだろうか、その身体は震えていた。

 俺は右手で彼女を優しく抱きしめ言った。


「……怖くない、もう、怖くないよ」


 その言葉はシスレイアにとって嬉しいものだが、少しずれていたようだ。

 彼女は大粒の涙を流しながら言う。


「わたくしは怖いのではありません。悲しいのです」


「愚兄が死んだことか? 一応、兄弟だしな」


 ふるふる、と首を横に振るシスレイア。


「違います。そのようなことではありません」


「ならば俺が汗臭いことかな。淑女を抱きしめていい状態じゃないかも」


「そうでもありません。――わたくしが悲しいのはレオン様に左手がないことなのです」


「ああ、これか」


 どうでもいいような口調で言う。

 シスレイアは身体を震わせながら言った。


「先ほどの会話では、王都でわたくしの名誉を守るためにその腕を捧げてくれたというではありませんか。レオン様はそのようなことのために大切な左腕を捧げたのですか」


「そのようなことじゃないよ。姫様の名誉は俺にとって最重要事項だ」


「……レオン様」


「正直、この世界がどうなろうとどうでもいい。誰が次期王になってもいい。ただ、君を侮辱するものが許せない。君を傷つけようとするものが許せない。だから俺はマキシスを殴り、代わりにこの左手をくれてやったんだ」


 安いものだよ、これでもう二度とやつは君を侮辱する言葉を吐かないだろう、と続ける。


「それに腕を切り落とし、義手にしたからこそ君を救えた。ケーリッヒを殺すことができたんだ。そう考えると安い代償だったよ」


 そう言うとさらに抗議しようとする姫様を右腕で抱きしめる。

 失った左手の分の力も込め、彼女を抱きしめる。

 シスレイアも人の上に立つ器量を持つ女性、それ以上、泣き言は言わなかった。

 ただ年頃の少女らしく、ひとしきりむせび泣くと、心を落ち着かせる。


 涙が止まり、身体の震えが収まるのを待つと、彼女は力一杯、抱擁を返しながら言った。


「――わたくしがレオン様の左腕となります。今後もレオン様に付き従い。この国を改革していきます」


 決意に満ちた彼女を瞳を見下ろすと、俺は片膝を突く。

 そういえば彼女に忠誠を誓う儀式をしていなかったことを思い出したのだ。

 片膝を突き、彼女の右手を握りしめると、それに軽く唇を付け言った。


「この身命、すべてをシスレイア姫に捧げます。全知全能をかかげ、姫様の夢を実現させます」


 その言葉を聞いたシスレイアは、聖女のような表情を浮かべていた。


 先ほどまで剣戟の音と爆裂音が響き渡っていた戦場は、姫の笑顔によって浄化されていくような気がした。

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