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レオン追討軍

 このようにして兵を動かすことに成功した俺。

 他の正規軍の応援は得られなかったが、この際それは仕方ない。


 というか天秤師団という猛者さえ動かせればあとはどうにかなる、というのが俺の計算だった。


 なので俺たちは急いで王都を出るが、ひとつだけ計算違いがあった。

 気絶させたマキシス王太子が思ったよりも早く目覚めたのだ。

 彼は鼻血の出る鼻を押さえながら、エルニア陸軍司令長官のオフィスへ向かった。

 血相を変えながら飛び込んだマキシスは言い放つ。


「謀反人だ。謀反人がおるぞ! 司令長官! やつを逮捕せよ」


 軍部での席次は司令長官が上である。しかも司令長官はマキシスのことを好いていなかった。


 なので全面的にマキシスの味方をすることはなかった。


「――マキシス殿下、殿下を殴ったことは不敬にして不遜、大罪ですが、殿下にも非がありますぞ」


「元帥は俺に非があるというか!」


「はい。軍の指揮系統は私が掌握するところ。殿下といえども勝手に指揮権を奪ったり、返したりされては困ります」


 天秤師団の指揮権のことを指しているのだろう。


 それは道理であり、常識でもあったが、特権階級に生まれたマキシスには理解できなかったようだ。


 怒鳴り散らす。


「ええい、そのようなことはどうでもいい。あの男、レオン・フォン・アルマーシュの首を今すぐ持ってこい」


 子供のようにわめきちらすマキシス。司令長官は溜息を漏らす。


(……このような幼児のような男が王位を継げば、この国も長くないだろうな)


 そう思うが、レオンが王太子を殴ったのも事実。なにもしないわけにはいかなかった。


「――分かりました。必ずしも殿下の御意に従えるかは分かりませんが、なにかしらの責任は取らせましょう。取りあえず天秤師団を止める軍を派遣します」


「おお、そうか。さすがは元帥だ。もしも俺が王位を継げば、そのときは必ずその忠誠心に報いよう」


「有り難き幸せ」


 最後のほうは互いに白々しい台詞になったが、このようにして天秤師団を止める軍が動き出した。


 マキシスは無能を絵に描いたような男だが、エルニア陸軍の司令長官はそうではなかった。


 さすがに無能な人物は司令長官まで出世できないのだ。

 司令長官は天秤師団捕縛の軍隊を一個師団ほど編制すると即座に送り込む。

 騎馬軍団を中心に編成された師団は即座に天秤師団に追いつく。

 彼らは天秤師団の5倍の兵力を誇っていた。最新式の銃が配備されている。

 さらに彼らはこの国の司令長官直属の部隊だ。それに逆らうのは愚であった。

 なので俺はひとり、馬を走らせると彼らの指揮官と談判する。



 馬を向かわせると俺は言った。


「貴軍は司令長官直属の師団と見受けるが、相違はないか?」


「そうだ。我々はレオン・フォン・アルマーシュを捕縛しにきた」


「罪状は?」


「王室不敬罪。王族を殴ったものは腕を切り落とすか、懲役5年の刑だ」


「なるほど、てっきり、機密漏洩罪かと思った」


「機密漏洩罪? どういう意味だ?」


「先日、ケーリッヒ殿下の悪事を広場で放送してしまった。それにあの兄マキシスが同じくらいアホだと知ってしまったからな」


 そううそぶくと指揮官は困ったような顔をしていた。


 その表情が妙に面白かったので、吹き出しそうになるが、そのような暇はないので、手早く済ます。


「貴殿も軍人ならば俺が急いでいることも分かっているだろう。そして俺も貴殿が上官の期待に応えなければいけないことを知っている」


 だからこうしないか、と続ける。


「王族を殴ったのはたしかだ、俺はここで罪を償うから、それを見届けてくれ」


 そう言い放つと、一瞬も迷うことなく、自分で刑を執行した。

 その姿を唖然とした表情で見守る追討軍の指揮官。

 文字通り呆然と俺を見つめると彼は言った。


「……貴官の勇気と忠誠心、たしかに見届けました。『これ』を持って司令長官に報告していきます」


「……そうか。有り難い」


 そう言うと俺は軽くなった肩口の袖を他人事のように見つめると、そのまま天秤師団に戻った。


 師団に戻ると、蒼白の表情で俺を見つめるヴィクトールに言い放つ。


「ヴィクトール少尉、この師団にはドワーフの技師を随行させていたな」


「……あ、ああ」


 ヴィクトールはそう答えるのでやっとのようだ。


「彼をここに呼んでくれ」


 ヴィクトールは即座に実行するとドワーフの技師がやってくる。


 ドワーフの技師は俺の目の前にやってくると、ぎょっとした表情をする。ついですべてを察したように言う。


「……レオン様はそこまでして姫様の名誉を守ったのですな。――分かりました。このドワーフのドムズ、貴殿のその熱い心に報いましょう」


 全面的に協力してくれることを誓ってくれた。


「それは有り難い。では、いったん、王都に戻り、工房で俺の言ったとおりの『もの』を仕上げてくれ」


 ドワーフの技師ドムズは同意すると、必ず決戦前に仕上げると約束してくれた。

 不眠不休で作り上げ、早馬で届けるという。


「有り難い」


 と返事をすると、俺は右手で手綱を持ち、ワグナールへ向かった。

 天秤旅団は、その後、不眠不休でワグナールに向かい、5日後に到着した。

 俺がワグナールの街へ出立してから、9日が経過していた。


 レオン・フォン・アルマーシュは最速で王都に行き、最速で援軍を連れて帰ったのである。


 その事実にシスレイア姫は驚き、ケーリッヒは驚愕する。

 このようにしてケーリッヒのワグナール包囲網にほころびが出始めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 頭がいいを自称するなら最後まで耐えろ 殴らなければ余計な時間も使わずにすんだのに バカじゃん
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