本が恋人
戦略などは図書館の兵法書を真似した、と言い張れば問題ないだろう。あとはどや顔で、知的に言い張れば相手は納得するものである。
問題の国民に対するリップサービスなどもそれほど心配していなかった。姫様はデフォルトで国民のことを思っており、わざわざ言葉を飾る必要がないのだ。
インタビューの席では俺も同席するし、最悪、彼女に魔法で耳打ちもできるので、あまり根を詰めないで、その次の戦略を考える。
「問答のほうは問題ないとして、次は服装だな」
「服装? でございますか?」
「そうだよ」
「姫様は衣装持ちです。それに美しいのでなにを着ても似合います」
「それは承知だが、マスコミ対策はしたほうがいい」
俺はこれまた異世界の故事を引き合いに出す。
「異世界のアメリカという土地にふたりの大統領候補がいた。ケネディとニクソンという男だ」
「大統領ですか?」
「そうだ。ま、選挙で選ぶ王様だな」
「なるほど」
と言うが民主制度がないこの国出身のクロエはよく分かっていないようだ。「姫様が『わたくしが女王になったら、民主主義的な議会を設置したい』と言っていましたが」程度の感想を漏らすだけだった。まあ、概要さえ分かって貰えればいい。
「その大統領候補ふたりは互いに選挙戦を行っていたんだ。情勢は終盤戦まで五分五分だった。しかし、最終的にはケネディが勝った。なんでか分かるか?」
「分かりません」
「若くて見栄えが良かったからだよ。正確には世界初のテレビ討論会というやつで、討論会をしたのだが、そのとき、ニクソンはテレビ映えしない地味なスーツを着てきてしまった。一方、ケネディはテレビに合う派手なスーツを用意した。さらに彼はメイクまでして自分をよく見せた」
「まあ、殿方がそのようなことを」
「よくやるよ、とは思うけど、まあ、戦略勝ちだな。なにが言いたいかというと、新聞社が来れば写真を撮られるはずだから、新聞に映える衣装を着させたい」
そう言うとメイドのクロエは同意する。
「それでは姫様が帰ってきたら、さっそく、三人で王都一の仕立屋に向かいましょう」
「それじゃ遅い、先にふたりで出向いて、服を仕立てさせないと。お姫様のことだ。体型のデータはあるんだろう」
「ご慧眼です。スリーサイズ、把握しておきますか?」
「いや、やめておこう。顔を合わせたときに意識してしまいそうになる」
シスレイア姫はとてもしなやかで健康的な身体を持っている。出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる。もしも実際のバストのサイズなどを聞けば、次に再会したとき、確実に胸を凝視する自信があった。
胸を凝視されて喜ぶ女性はいない、というとクロエはくすくすと笑う。
「なにがおかしいんだ?」
「いえ、レオン様は軍師として、政治家として、謀略家として最高の存在ですが、男性としては未熟だと思いまして」
「そりゃあ、この歳でも独り身だからな」
「たしかに好きでもない殿方に胸を注目されるのは厭なものですが、好きな殿方には平気なものです。いえ、むしろ、見られたいかも」
「…………」
そういうものなのか、とも言えない俺はたしかに男としての経験値が少ないのだろう。
まあ、ずっと図書館で司書を務め、本を恋人としてきた報いか。
と思ったが、後悔することはない。
本は人を豊かにしてくれるからだ。
心が震える恋愛小説、手に汗滲むアクション小説、考えさせられる哲学書、すべてが俺を育ててくれた師だった。それにここ数ヶ月、実行した戦術のすべてが本から得た知識が源泉となっていた。
そのことを話すと、クロエは、
「本が恋人なのですね。しかし、いつか生身のおひいさまにも興味を持って頂けると嬉しいです」
と言った。
俺は無言で返答すると、そのままクロエと一緒に王都の目抜き通りにある有名な仕立屋まで向かった。




