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戦後処理、軍師は語る

 難攻不落と思われたマコーレ要塞を落とし、敵に占領されていた領地の一部を取り戻した俺たち。一週間ほど要塞に滞在すると、負傷者の手当や敵軍の捕虜などの処置を決定する。


 その間、お姫様は決裁などで多忙を極めた。

 それを見てヴィクトールは皮肉気味にいう。


「……普通、書類決裁は文官の仕事じゃないのか」


 俺のことを胡散臭げに見る。


「らしいな。しかし、俺は武官だ」


「都合の良いときだけ武官か」


「そうだよ。ま、それは冗談だが、姫様と契約していてね。七面倒くさいことはすべてわたくしが引き受けるから、レオン様は戦略と戦術だけを、国家百年の計だけをお考えください、と」


「なるほどな。ま、お前さんほどの男を書類決裁に当てるのは勿体ないか。エルニア王国で。いや、諸王同盟全体でもお前さんのように優秀な軍師はいない」


「お褒めにあずかり恐縮だ」


「ただ、王都に戻ってからのスピーチくらいは考えておいたほうがいいぜ」


「スピーチ? なんのことだ」


「王都に帰れば俺たちは救国の英雄だ。たった一旅団で敵の要塞を奪い、領土を奪還したのだから」


「ああ、そうか、たしかにマスコミの取材攻勢にあいそうだ」


「取材用の衣服を購入し、気取った文句でも考えておけ」


「有り難い忠告だが、取材は受けない」


「なんだって!?」


「そんなに驚くことか?」


「驚くよ、取材を受けないなど有り得ないだろう」


「あり得るよ。そもそも俺は影の軍師だからな、目立っちゃいけない」


「旅団内ではお前の名を知らぬものはいないだろう」


「ああ、彼らには信頼してもらわないといけないからな。しかし、対外的、世間ではそうではない」


「と言うと?」


「世間からは俺という人間がすごいというよりも、姫様がすごいと思われたほうがいいってことさ」


 つまり、と続ける。


「これから俺たちは姫様を担いで軍部を、いや、この国を改革していくんだ。その場合、姫様こそ次の女王にふさわしい、と思わせないといけない」


「たしかに」


「そのためには彼女を最強の将軍、国民的英雄だと思わせなければならないんだ」


「一理あるな」


「十理はあるよ。そのためには今回の功績もすべて彼女に渡す。軍上層部、そして世間には、砦攻略の功績はすべて彼女にあると発表する。彼女がこの作戦を立案し、三段撃ちも考案し、ガーゴイルもはね除けた」


「おれを要塞内に忍ばせたのも彼女の発案、か」


「ご名答」


「おれとしてはそれでもいいと思うが姫様はどう思うか」


「姫様は了承済みだよ。あの日の夜から」


 スラムの教会で姫様が裸身を晒した日のこと、彼女に忠誠を誓った瞬間を思い出す。


「というわけで、俺は一足早く、王都に戻り、準備をするから、姫様の警護をお願いできるか」


「それは構わないが、王都に戻ってなにをするのだ」


「主要新聞社のインタビューの問答集の作成、国民への声明文、軍部への宣伝工作、などをしてくる」


「忠実だな。給料泥棒とは思えない」


「そのあだ名、気に入っていたのだが、過去のものになるかもな」


 と言うと一足先に王都に戻る。

 姫様にもらった駿馬であっという間に王都に到着すると、姫様の邸宅に向かう。

 そこで俺を迎え入れるのは姫様のメイドだった。

 メイド服の少女、クロエはうやうやしく頭を下げる。


「レオン様、お帰り様でございます。武勲を立てられたそうで」


「ああ、なんとかね」


「姫様より先に帰ってきたのは理由があるのですか」


「あるよ。打ち立てた武勲を何倍にも誇張して、宣伝に利用する」


 そう言うだけでクロエは了解してくれたようだ。頭がいい少女である。


「さすがはレオン様です。武勲を立てるだけでなく、その武勲を何倍にも膨らませる」


「まあ、褒めるのは成功してから。取りあえず姫様が帰ってくる前に主要各紙のインタビューを想定した問答集を作る」


「御意」


 と言うと紙とペンを持ってきてくれる。

 俺はそれをもらうと机に向かう。

 うーん、と頭を悩ませながら、記者の耳障りのいい返答を考える。


「記者は意地悪な方が多いですからね。まずは彼らを味方に付けないと」


「そうだ。意地悪でクズが多いが、その後ろには多くの国民がいる。揚げ足を取られないようにしないとな」


 まず質問されるのは、今回の作戦、どうやって思いついたか、であるが、これは姫様の功績にするため、なにかストーリーを用意しておかないと。


「そもそもレオン様、あのような寡兵で要塞を取るなど、どうやって思いついたのですか?」


「俺の師匠筋だよ。正確には師匠に教えてもらった異世界の英雄」


 異世界の中国という国には韓信と呼ばれる男がいた。


 彼は国士無双の将軍と呼称され、古代中国最大の王朝「漢」という帝国を打ち立てるのに尽力した名将だった。彼には「背水の陣」と呼ばれる逸話がある。


「背水の陣ですか?」


「そうだ。背水の陣とはわざと自分の陣を川を背に置く陣形だ」


 クロエはきょとんとしている。素人には川を背にする危険性が分からないようだ。

 丁寧に説明する。


「通常、川を背にするのは兵法に反するんだ。この国の軍事教本にも、兵法書にも書いてある」


「なるほど」


「川を背にすると部隊が自由に動けないし、もうあとがないから将兵がびびるんだ」


「恐怖が伝播した軍隊はもろいのですね」


「そうだ。しかし、韓信はあえて兵法書を無視し、背水の陣を敷いた」


「意図はあるのですか?」


「もちろんだ。韓信はわざと背水の陣を敷くことによって、敵軍を誘い込み、別働隊に手薄になった城を落とさせたりしたんだよ」


「まあ、レオン様と同じですね」


「そうだ。俺は彼の戦法を真似た」


「素晴らしいものまねだと思いますわ」


 クロエは和やかに言う。


 俺としても古今東西、異世界問わず、参考にすべき人物は参考にすべきだと思っていたので、これからもどんどんものまねしていく所存だった。


 クロエはそれを聞いて再び微笑む。


「その知謀と知識でどうかおひいさまをお導きください」


「分かっているよ」


 と言うと引き続き、新聞社用の問答集を考え始めた。

「面白かった」

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2020/05/27 01:50 退会済み
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