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新たな仲間

 小細工によって水蒸気を発生させた俺にヴィクトールは多少困惑したものの、歴戦の勇者らしく、すぐに反撃してくる。


 ただ、彼の攻撃はすべて無効化させるが。


 俺がいるだろうと思われるところに大剣を振り回すが、虚しく空を切るだけだった。


 魔法によってあらゆる角度から声が聞こえるようにすると、さらにヴィクトールを迷わせる。



「そこじゃない」

「おしいな」

「女相手にもそんなにまごつくのかな」



 と相手を挑発するが、堪忍袋の緒が切れたヴィクトールは荒技に出る。

 大剣を大きく振りかぶって、地面に叩き付けたのだ。

 闘技場の中心に轟音が響き渡る。



 ボゴォ!



 と闘技場の中心に巨大な穴、クレーターができあがる。

 その爆風によって水蒸気は霧散する。


 すると俺の居場所がはっきりと浮かび上がる。闘技場の端で小賢しく惑わせていたのがばれてしまった。


 俺を見つけたヴィクトールはにやり、と笑いながら俺に斬り掛かってくる。さすがは歴戦の勇者だ。手際がいい。


 ヴィクトールは大振りに大剣を振り上げると、それを容赦なく振り下ろした。


 途中、

「あ、やべ、本気で斬っちまった」

 と漏れ出る。


 どうやら興奮しすぎて寸止めを忘れていたようだ。

 俺は見事に切り裂かれるが、それは幻術だった。

 ヴィクトールが斬ったのは俺の残像だったのだ。


「それは残像だから気にしなくていい」


 そう言うと俺は彼の背後に回り込み、首もとにショートソードを突きつける。


「チェックメイトと考えていいかな?」


 そう言うとヴィクトールは潔く大剣を手放した。


「ああ、それでいい。お前の勝ちだ」


「ありがたい。搦め手を使って勝ったが、勝利と認めてくれるかね」


「もちろんだ。今日からあんたが俺のボスだ」


 そう言うとヴィクトールは俺に右手を差し出してきた。

 握手をしよう、ということなのだろう。

 無論、断る理由はない。

 ヴィクトールと力強い握手を交わす。

 想像通り、ヴィクトールの右腕はごつごつとしていた。

 やはりこのような大剣を振るうには相当の鍛錬がいるのだろう。

 彼の体つき、拳はそれを物語っていた。



 さて、このようにヴィクトールという頼りになる大剣使いを手に入れた俺であるが、そのことを姫様に報告すると、彼女は小躍りしそうなくらい喜んでくれた。


「ヴィクトール少尉のような英傑、それにレオン様のような軍師を手に入れたことをわたくしにとって最高の名誉であり、最高の幸せでございます」


 と微笑んだ。

 その笑顔を見ればどのような無骨な男も惚れてしまうことだろう。

 事実、ヴィクトールは顔を軽く染め上げていた。

 彼は俺の肘で小突く。


「お姫様にはフィアンセかなにかいるのかい?」


「さて、それは知らないが、お姫様は知的な男が好きなそうだ」


「算数は得意だぞ、俺は」


「98×3+8は?」


「数学は苦手なんだ。10本の指で計算できる範囲で出題してくれ」


「…………」


 やれやれ、知的な男ね、と溜息を漏らしていると、メイドのクロエが参戦してくる。


「ヴィクトール様、姫様の麾下に入ってくださることは感謝いたしますが、姫様を女性として好きになっても無駄であると忠告させていただきます」


「……んなこた分かってるよ」


 不機嫌に返答するが、でも、なんでだ? と言う。


「それは姫様が愛しているのはレオン様だけだからです。他の男などカトンボにしか見えないでしょう」


「なんだ、姫様はすでにレオンの女なのか」


 残念そうに言うが、それは誇大広告の見本であったので訂正する。


「姫様とは手も握ったこともないよ」


「まじか。どっちが本当なんだ?」


 クロエは私です、と挙手をする。


「運命の相手に対し、手を握っただの、キスをしただの、そのようなことは些末な問題に過ぎません。姫様は数年後、レオン様の子供を産まれるでしょう。その事実のみが肝心かと」


「なるほどな。ま、そのときはベビー服でもプレゼントするか」


 とヴィクトールはまとめる。


 まったく、余計なお世話だ。そう思ったが、ヴィクトールとの面会を果たし、諸業務に戻るため、部屋を去った姫様の顔を思い出す。


 将来、彼女の横に誰がいるかは分からなかったが、彼女のために未来を作らなければいけないのはたしかだった。


 俺たち三人はそのことを共有すると、早速、姫様に武勲を立てさせる方法を考え始めた。

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