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終焉の謀議

 レオンとシスレイア、クロエがこのように地下迷宮にさまよっている間、地上ではこのような悪巧みが行われていた。

 エルニア国内にある終焉教団の根城のひとつ――。

 終焉教団とはこの世界の終焉を願う狂信者の集まり。

 この世界にいくつもの根を張り、諸王同盟と帝国双方を煽り、戦争を継続させていた。

 彼らはふたつの巨大勢力が争っている隙を狙い、各地に地下茎を巡らせていたのだ。

 この根城もその成果であり、ここで行われている謀議もそのひとつだった。

 この席の議長とも思わしき人物は苦々しく言う。

「昨今、帝国に有利に傾いていた戦況が変わりつつある」


「そんな!」

「ありえない!」

「まさか!」


 終焉教団の幹部たちは驚愕の声を上げるが、秘書官と思わしき教徒が水晶玉からデータを射出すると、皆、沈黙する。

 それは教団の諜報部門が集めた極秘データ。各国の精密な国力である。そのデータが間違っていたことは一度もなかった。

「これが昨年の帝国の戦力、これが今年のものだ。六三から五九に下がっていることが見て取れる」

 議長は一拍置くと続ける。

「たかが四の低下と侮ることなかれ。帝国側が四下げれば諸王同盟は四上がる。両勢力の戦力比は埋まりつつある」

 苦虫を噛みつぶしたような顔を浮かべる議長。

「もはや語るまでもないが、我々終焉教団の目標はこの世界の終焉。そのために常に戦争を煽っている。このままでは諸王同盟が帝国を上回る可能性もある。あるいは両勢力が〝講和〟する可能性も。そうなれば我ら終焉教団の地下茎など、一夜にして滅ぼされるだろう」

 終焉教団は両国が生まれる前から存在する組織であるが、両大国の力に比べれば生まれたての雛のようなもの。正面から戦えば九九パーセント負けることは決まっていた。

 そうならないよう、それを気づかせないように地下から陰謀を巡らしているのだが、その努力を水泡に帰する存在が現れつつあるのだ。

 その男の写真が空中に投影される。

「……この男が帝国の戦力を四削った男だ」

 ざわめきが起こる。どこにでもいるような平凡な男に見えるようだ。

 それぞれに感想を述べるが、誰かが代表して言う。

「猊下、失礼ながらこの男はただの魔術師にしか見えません。いったい、誰なのです」

「この男は先日、諸王同盟の中核国のひとつ、エルニアで武官となった男だ。シスレイア姫という女のもとで軍師をしている。前職は司書」

「司書!? ただの司書が帝国に打撃を与えたのですか」

「そうだ。この男が帝国の部隊を破った。あの巨人(タイタン)部隊を破ったのもこの男だ」

「な、なんですって!? し、信じられん」

「わしが嘘をついているとでも?」

「ま、まさか、そのようなことは。しかし、あの斜陽のエルニアにこのような男がいるとは」

「ああ、各国の士官学校に間諜を忍ばせているが、まったくのノーマークであったよ。まったく、人材とはどこに隠れているか分からない」

 議長は目の前にある茶に口を付ける。

「しかし、だ。現実にやつは存在する。しかもやつはかの〝天秤の軍師〟ではないかという報告もある」

「天秤の軍師!? あの世界に調和をもたらすという伝説の」

「そうだ。終焉をもたらす我らとは対極の存在。我らと対をなす光の存在だ」

「ならばその男を至急抹殺すべきかと」

「分かっている。そのための謀議だ。我ら終焉教団エルニア支部はこの男、〝レオン・フォン・アルマーシュ〟の抹殺に全精力を傾ける。異論があるものはいるか?」

 議長は周囲を見渡すが、いなかったので続ける。

「いないな。では、誰が実行するかだ。天秤の軍師を殺す名誉は誰がになう?」

 議長は周囲を見渡すが、誰も挙手しない。レオンの実績が書かれた書類を目に見た幹部たちは恐怖心を憶えているようだ。あの最強の巨人部隊を駆逐する手腕を評価しているようである。

 議長は不機嫌に周囲を見渡したが、ひとりだけ挙手するものがいた。

 議長は「ほう」と感心しながらあごを撫でると、そのものの姓名を口にした。

 彼の名は、

「エグゼパナ」

 終焉教団の導師である。 

 やはりこいつか。

 議長はにやりとする。

 終焉教団の幹部である議長はこの出世欲の強い導師を決して好いていなかったが、過小評価もしていなかった。その貪欲なまでの出世欲、嫉妬心は評価していた。

 この男は教義のために教団に入ったわけではない。

 食うために教団に入ったと漏らしていたそうだが、狂信的に終末を望むだけの凡俗な教徒よりも遙かに有能であった。ゆえに重宝し、目を掛けていたのだ。

 今回も必ず名乗り出るとは思っていた。

 しかし、この男、一度失敗しているのである。教団に伝わる悪魔の神器を持ち出し、エルニアをふたつに割る工作を担当させたが、それに失敗したのだ。ゆえに閑職に回されていたという経緯があるのだが。

 終焉教団に〝二度目〟の失敗はない。

 次は死を賜って一足先に終焉の地に向かわなければいけないのが教団の掟であったが、エグゼパナはそのことを理解しているのだろうか、尋ねる。

「エグゼパナよ、二度目の失敗はないが、分かっているのだろうな?」

 その問いにエグゼパナは眉ひとつ動かさずに行動で示す。

 彼は胸中をさらけだす。

 そこには蠍の入れ墨が施されていた。

 その入れ墨は魔力を送ると動き出すものだった。蠍は動き出すと宿主の心臓に針を突き立てる。さすればそのものは即座にあの世に旅立つことになるのだ。

 つまりエグゼパナはそれほどの覚悟をしているということであった。

 それを見た議長はこう言い放つ。

「いい覚悟だ。もしも天秤の軍師を殺すことに成功したら、おまえにこのエルニアを預けるように大主教様に上奏しよう」

 その言葉を聞いたエグゼパナは「にやり」と口元を歪めた。

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