9.スキルと安全
遅くなってごめんにゃさい(*' ')*, ,)✨ペコリ
夜は危険であり、あまりで歩くものじゃない。
多くの人が、子供の頃から口すっぱく言われて来たことだろう。
現に俺は、夜の樹海で半べそかいて……。
って、そんな話をしたいんじゃない!
暗くなる前におうちへ帰りましょうって話だよ!
何故、暗くなる前に帰らなくては行けないのか。
回答は、死角が増えるからだ。
暗くて何が潜んでいるか確認できない恐怖。
知恵をある程度有した生物は、未知に恐怖する傾向が強い。
よく分からないものからは距離をとる。
君子危うきに近寄らずだ。
だからこそ、俺はその例に漏れず、カナちゃんを夜間に外へは行かせなかった。
異世界、何が起きるかわからないからね。
当然の処置だ。
だがしかし!
ここに来て衝撃の事実が発覚した。
それは、近辺調査をした帰りのこと。
カナちゃんが口にした不意の質問に起因する。
「どうして夜はお仕事しちゃダメなの?」
『夜の森は何も見えなくて危ないからだよ?』
「カナは獣人だから見えるよ?」
これだ。
カナちゃん曰く、獣人の中には夜目が効く者もいるらしい。
故にこの国では、獣人は道具として人間の間で重宝されるのだとか。
兎人であるカナちゃんは夜目が効くらしいから道具として、部位欠損はまぬがれたそうだ。
それでも、生傷は絶えなかったらしいが……。
なんともいたたまれない。
でも、その能力は自分のためにも有用に活用すべきだと思う。
夜闇によるデメリットがない。
これは大きなアドバンテージになる。
勿論、夜に出歩かせるような真似は、これまで通りさせないが、夜も逃走できることを知れたのは吉報だ。
万が一この家に何かが起きた場合、夜間でも対処できるってことだからね。
だからこそ、俺もちっとだけ危険なことが出来るわけだ。
例えば、
転生物恒例のレベリングとか、ね。
一度やってみたかったんだよ。
やっぱり、努力がそのまま数字に出るって心躍ると思うんだ。
それに、チートなスキル貰ってないからステータスくらい上げとかないと。
表向き、色の着いた石ころな俺は安全に魔物狩りができるだろうし。
と、いうわけで。現在地、拠点の屋根上。
カナちゃんに頼んで日が暮れる前に上に乗せてもらったのだ。
辺り一帯を見渡せる上に置いてもらったのは正解だな。
そこそこ高度もあるから森の中なのに遠くまで見える。
絶好の狩りポイント。
そう、形容して差し支えないだろう。
ちなみに、今のステータスはこんな感じ。
////////////////
???
LvⅠ
スキルポイント:3
結硬/強度:1
使用回数:1
回復速度:1
収集/容量:1
分解:1
構築:1
確率:1
念話/距離:1
////////
恩恵/攻撃補正値+10
防御補正値+50
魔導補正値+50
///////////////
うん、変わってないね。
ウォーター・リーパーって経験値的にそこまで美味しくないのかな?
レベルⅠなのにレベルアップしてないし。
それともこの世界はレベルがそんなに上がらないとか?
ⅠとⅡでは相当な差があるとかね。
最悪な場合は、俺だけがレベル上がりにくいって展開なんだけど……。
さすがにそこまで鬼畜じゃないよね?ね、神様?
……。
その時はその時考えよう。
と、言うより考えたくない。
でも、石に転生させる時点で……。
そ、それよりもスキルポイントを振ろうか。
現状じゃ攻撃手段が結硬しかない。
それも100分に1回しか使えない諸刃の剣ぶり……。
ちなみに、改めて色々試してみたところ自分のスキルの詳細を見ることが出来た。
何が起因したのかは分からないが、ウォーター・リーパーを倒して数値にはでてない成長を遂げたのかもしれないと睨んでいる。
結果はこのとおり。
/////////////////////
結硬/強度:1 結硬の強度。レベル1事に+100。
使用回数:1 結硬の使用回数。レベル1事に1枚。
回復速度:1 使用回数回復速度がアップ。レベル1事に10分の短縮。(1枚につき100分)
収集/容量:1 亜空間に物をしまえる。レベル1事に1つ。
分解:1 亜空間にしまった物を分解できる。
構築:1 亜空間で分解した物を再構築できる。
確率:1 エネミー撃破時、稀にスキルポイントを獲得。
念願/距離:1 思ったことを伝えることが出来る距離が伸びる。レベル1つ事に50メートル。
/////////////////////
攻撃回数を増やすのは必須だな。
スキルポイントを1消費する毎にレベルアップするらしいから実質3つは上げられることになる。
使用回数に2割り振るとして、残り1はどうしようか。
序盤だし、温存する手は悪手だろう。
死んだら元も子もないんだ。必要最低限度に達しないと話にならない。
よって、選択肢は唯一の攻撃手段である結硬になる訳だが、さて……。
現状、回復を上げるよりは回数に全振りしたほうがいい気がする。
午前は狩りをするつもりはないからね。
いざ自己防衛に必要ってなると使用回数なんだよなぁ。
しかし、強度も捨て難い。
実例がウォーター・リーパーとの戦闘しかないから、なんとも言えないが、硬度が高い魔物に通用するかを考えると一概に使用回数オンリーってのも怖い。
安全策の強度か、効率と僅かな安心の使用回数か。
……。
よし、決めた。
俺は手探りながらもスキルポイントを割り振った。
////////////////
スキルポイント:0
結硬/強度:2
使用回数:3
回復速度:1
/////////////
安全大事。
すごく、大事。
結硬はカナちゃんを護るのにも使うからね。
万が一にも攻撃を防げなかったら目も当てられない。
俺に目はないけど。
………。
焦ってヘマをしないように頑張ろ。
怪鳥達のさえずりが谺響する森の中。
結局その日は魔物と遭遇することなく終わり、今はとある実験をしていた。
『アンプ……やってくれ』
ぷみ〜ん。
プルプルと震えて肯定したアンプは自らの身体に、俺の結晶ボディを取り込み始めた。
「何してるの?」
両手足を床についた状態で、小首を傾げているカナちゃん。
どうやら何をしているのか知りたいらしい。
わかんないよね。
でも、説明してもわかんないと思うよ。
おそらくカナちゃんと俺とでは事象への認識に差がある。
まずは認識の誤りを正すところから。
『カナちゃん。カナちゃんから見て俺って何に見える?』
「お兄ちゃん?………ませき?」
『ませき?』
「うん!」
そう来たか。
俺の見立てが正しければ魔石って魔物の心臓部だよね。
それだと俺は該当しないんだよな。
『魔石って魔物の中にある奴?』
「そうだよぉ」
『カナちゃん。たぶん俺は魔石じゃないんだ』
「違うの?」
違うの。
結構序盤に発覚していたことだけど、実は俺、装備品なんだ。
その証拠に、ステータスには装備補正値が表示されている。
//////////////////
恩恵/攻撃補正値+10
防御補正値+50
魔導補正値+50
//////////////////
見た目はただの石(ナイルグリーンで透明な結晶)だから、そう思われても仕方ないんだけどね。
『俺って実は装備品なんだ』
「そうびひんってぇ〜?」
『剣とか盾とかのことだよ』
「お兄ちゃんは剣なの?」
『見ての通り違うよ』
「う〜ん?」
にこにこ笑顔でまたも首を傾げているカナちゃん。
頭上に大量のクエスチョンマークを浮かべている姿は、とても愛らしい。
よく分からないか。
そうだよなぁ。
今の説明だと戦いに使うもの=装備品になってしまって、補正値の有用性の説明に欠くからなぁ。
補正値……おっ、そうだ。
『カナちゃん。魔道具って知ってる?』
「知ってるよぉ」
『おぉ!』
「首につけて悪いことすると苦しくなるやつだよね?」
『おぉ……』
その覚え方をされると、俺が同じ系統の道具って言えないじゃないか。
「カナ、あれ嫌い!」
嫌いとまで言われてしまった。
でも、あらゆる分野で半自動化できる夢の道具である魔道具を、奴隷首輪にしか使ってないなんてことは絶対にないと思うんだよ。
だから、どうにかしてカナちゃんの意識改革をしないと俺の説明が出来ない。
何より今後の生活に支障が出るしね。
『あのね?魔道具にもおそらく種類があって、俺はカナちゃんを護るための魔道具なんだ』
内容を簡略化するとこんな所か。
「護る魔道具?」
『そうそう』
「違うよ?」
ん?
「カナがお兄ちゃんを護るんだよ?」
あぁ、そこにこだわりますか。
『ありがとう。でも、お兄ちゃんはお兄ちゃんだから、妹のカナちゃんを護らないといけないんだ』
「そうなの?」
『そうなの。でも、俺は自分じゃ動けないから、カナちゃんが怪我をしないように体を強くしたり、怖い魔物から逃げられるように足を速くしたりしてるの』
「う〜ん?」
『今はわからなくてもいつかわかる時がくるよ。今は、お兄ちゃんはカナちゃんを護る魔道具だってことさえ覚えてくれてたらいいよ』
「う〜ん……わかった!」
『いい子だ』
「カナえらい?」
『偉いぞぉ』
「えへへぇ」
いつもの照れ照れポーズをするカナちゃん。
相変わらずにやけた口元が隠せていない。
うん、可愛い。
『そこで最初の話に戻るけど、俺はカナちゃんを護るために傍を離れたくないんだ』
「ありがとうねぇ!」
『当然のことだからね。っんで、思いついたんだけど、アンプはカナちゃんにベッタリで少しも離れようとしないじゃない?なら、アンプの中にいれば移動もできて一石二鳥だなぁと』
「おぉ!!」
ぷみ〜ん、ぷみ〜ん!!
『ふふん、もっと褒めてもいいんだよ?』
「お兄ちゃん頭いいね!」
ぷみ〜んぷみ〜ん!!!
ふふふ。
満足だ。
アンプに運んでもらう案はとても効率的だと思う。
この世界に来て最初に出会ったゴブリンは、カナちゃんを連れていた男たちの反応を見るからに規格外な力を発揮していたのだろう。
しかし、行動を共にしていた俺としてはその考察じゃ納得がいかない。
勿論ゴブリンの自力が強かった線を完全に消すことは出来ないが、あんな鼻くそほじりながら考え無しに敵に突っ込んでいく能無しがそこまでの力を持っていたかと聞かれれば、素直に頷くことが出来ない。
となると、あの膂力はどこから出ていたものかと、疑問が残る。
ゴブリンは特別に魔法を使えた訳でもないし、特殊な装備をっと、あっれれ〜おっかしいぞぉ〜。
あの時、ゴブリンの手元には外道達が目ん玉をひん剥くような品物が握られていたじゃないかぁ!
そう!
俺だよ!
つまり、魔物が装備しても補助の効果は発揮されるってことになる。
ならば、魔物であるアンプが装備して、効果が出ないわけがなかろう。
つまり、カナちゃんを外に出さずに近辺の索敵が可能に!
ついでに、レベリングの効率を上げられる!
これは一石二鳥どころの騒ぎじゃない。
やらない手がないくらい、うっまうまな実験なのだ!
斯くして、その実験は成功を遂げた。
透明なスライムボディの中に収まった俺。
透明故に視界が遮断されることも無い。
カナちゃん曰く、アンプと俺は同じ色らしいから外見上では特段変わった点はないだろうが。
補助の効果は十全に発揮された。
移動速度から耐久性までありとあらゆる能力が上昇している。
異世界生活、これでようやくスタートラインだ。
次回はレベリング