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7.影とスライム

 半分はオレンジ色に侵略されている部屋の中。

 自己主張控えめなヒカリゴケの光に包まれ、俺はある悩みを抱えていた。


『……暇だ』


 暇なのだ。

 やることが無さすぎる。

 俺は石だから、休息をとれない。

 何も考えずにぼっーとしていることは出来る。

 出来るが、やはりつまらないのだ。

 眠ろうにも眠れない。

 まるで呪いだ。

 暇つぶしに自分で動くこともできないとなると、これはもう拷問にほかならない。

 せめて、身動ぎくらいはできないだろうか。

 身体機能がないのは自分が一番わかってるので、魔力で試す。

 空気に溶け込ませるのは結硬を扱う時に習得できた。

 なので、次は難易度を上げて物理干渉を目標にしよう。

 まずは、これまで通り魔力を空気中に散布する。

 そして、ここからが今回の課題。

 空気中に撒いた魔力を一点に集束。


 ……。


 できなかった。

 気流の向きを変えることはできたが、集められない。

 ある程度動かせはするし、視覚に納めることも出来る。

 紫の霧が、かかっている印象だ。

 でも、掴めない。

 まるで雲だ。

 紫の雲とは、なんとも不吉な……。

 ってあれ?

 これを暇つぶしにすれば万事解決じゃん?


 ……。


 お騒がせしました。

 こうして、俺の暇の過ごし方が決定した。

 そんな矢先。

 幹の隙間から差す月明かりに、小さな影が刺した。


「おい、やっぱり人間だぞ」


「えぇーでも、葉っぱの下に隠れてるから仲間だよぉ」

「あんなデカさの仲間が居るはずないだろ。お前正気か」


 なんだろ。

 声を潜めていることもあるだろうが、聞き取り辛い。

 一人はおっさんっぽい声で、カナちゃんを仲間だと思ってる方は女の子だってことはぎりぎり判別できた。


「正気だよぉ。リテルフ食べてたし絶対仲間だってぇ」


 判断材料それだけなの?

 リテルフってのはオレンジ果実の事だよね。

 カナちゃんにはそれ以外食べさせてないし。

 大抵の生物当てはまるけど大丈夫?


「そりゃ本当か!っんならもしかして……」


 納得しかけるな。

 おっさんそれでいいのかい?

 良くないと言え。頼むから。


「……ふむ。ひとまず今日のところは帰るぞ」

「えぇー!様子見だけとかつまんなーい!」

「仕方ねぇだろ!俺達じゃ敵かどうか判断つかねぇんだから!」

「ちぇぇ」


 女の子は心底つまらなそうにしている。


「帰るぞ」

「はーい」


 小さな来訪者達は帰って行った。

 逆光で外見は見えなかったが、あの口ぶりだとまた来そうだ。

 敵か味方か判断しようとしているし、上手く事を運べれば友好を結べるかもしれない。

 次回があるなら声をかけてみるか。

 そして、夜は明けていく。


 ◇


『夜のあれはなんだったのかな』

「お兄ちゃんどうしたの?」

『うん?いやね、昨日夜中に……やっぱなんでもないや』

「えぇ気になるよぉー」

『お兄ちゃんの勘違いだったから何も無いよ。ほれ、かいさーん』

「ぶぅー」


 この子に心配事をさせちゃいけないな。

 ただでさえ複雑な育ちかたをしたんだ。

 徒労に終わるかもしれない細事などカナちゃんには聞かせなくてもいい。


『それよりカナちゃん。今日は保存食を作ろうと思います』

「ほぞんしょく?」

『この実……リテルフ?を、放置してしまうと当然腐るので、近日中に食べきれない分を干します』

「干したら腐らないの?」

『そゆこと。でも、うまくいかないかもだから最初は試験的に少しだけでやること。わかった?』

「少し?わかった!」

『カナちゃんは頭がいいね。難しい言葉使ったけど大丈夫だった?』

「うん!リテルフを少しだけ捨てるんだよね!」


 ……。


『うん!そのくらいの意気込みで望んだ方がいいよね!カナちゃんあったまいいー!』

「えへへ」


 カナちゃんはいつもの照れたポーズをとった。

 相変わらず目しか隠せてないところが愛くるしい。

 ごちそうさまです。

 ブラコンだろうが、なんだろうが、好きに呼ぶと良い。

 俺はカナちゃんに懐柔されたんだ。

 これから、とことん甘やかしてやる。

 覚悟しとけ!


『っと、その前にカナちゃん。水浴びしようか』

「水浴び?うん!」


 勘違いするなよ。

 俺はただカナちゃんの裸が見たいだけだ。


 ……。


 冗談だよ?

 え?信じられない?

 またまたご冗談を言いなさんな。

 カナちゃんを大事に思ってるからだよ。

 割と本気で、サバイバル中でも衛生管理は欠かさずしないといけないからね。


 サバイバルと聞くと、泥臭いイメージばかりあるかもだけど、それは違う。

 むしろ、体力的に厳しい環境で生活するのだから、病への免疫力は下がると考えた方がいい。

 汗を放置してしまうと細菌の温床になって、傷を炎症、化膿させたりと後が悲惨だ。

 せっかく水資源が近くにあるのだし、利用しない手はないだろう。

 本当なら衣服もどうにかしたくはある。

 麻で拵えた簡素な衣服は、血が相当量付着していてみるからに不衛生だ。

 せめて血糊だけでも落としたい。

 でも、服を洗うと着るものがなくて風邪を引きそうだし。


 うーむ。


 仕方ないと割り切るべきかな。

 考えている間に湖に到着。

 カナちゃんは乱雑に服を脱ぎ捨て、水へと急……。


 !!


『ちょっと待った!』

「んん?」


 カナちゃんは立ち止まり、抱えていた俺を見下ろした。


『安全かまだ確かめてないでしょ!魔物が擬態してたらどうするの!』

「そっか……ごめんなさい」

『いや、怒鳴ってごめん。今度から何かやる時はちゃんと一言いってね』

「わかった」


 危機管理能力がザルだな。

 これは、目を光らせとかないとだめね。

 そそっかしい子なのかな?


『そんなに慌てなくても湖は逃げたりしないよ』

「でも、スライム流れて行っちゃったよ?」


 ん?


「スライムが溺れてるから助けようと思ったの……」


 その言葉に、俺はハッとし、湖を見やる。

 なんの起伏もなく昨日と同じ光景が広がっているはずだった。

 しかし、そこにはおかしなものが浮いていた。

 白い……饅頭?

 あ、スライムって言ってたね。

 某ゲームの影響でてっきり青いのかと思ってたよ。

 そして、カナちゃんが呟いたようにスライムは溺れているようだった。

 慌てふためいているのがここからでもわかる。


『スライムって泳げないの?』

「他の子は泳げるよ」

『なら大丈夫じゃない?』

「ママが魔物でもいろんな子がいるって言ってたの……だから、あの子は泳げないんじゃないかな」


 そっか、生きてるんだから当然個体差は出てくるよな。

 でも、カナちゃんを危険に晒してまで助ける義理はない。

 無情かもしれないが相手は魔物。

 情けをかけたらこちらが喰われるんだ。

 すまないなスライム。


『ところで、スライムは危険な魔物なの?』

「無害だよ?洞窟でも、汚れとかゴミとか食べてくれてた優しい子」


 汚れを食べる……だと。


『それって角膜とかも食べてくれちゃうの?』

「かくまく?身体の汚れをキレイキレイしてくれるんだよ」


 つまり、全身版ドクターフィッシュってか!

 是非とも欲しい。

 利用価値があるならウェルカムだ。


『しょうがないなぁ〜。カナちゃん、木に蔓が垂れてたでしょ。あれを投げてやって』


 片方に石を括りつけてひたすら投擲。

 成功するまでやります。

 そして、一時間ちょい(体感)掛けて救出完了。

 助けたスライムはカナちゃんの足に張り付いて離れなくなったとさ。

 そんなに怖かったのかな?

 俺の死因は溺死っぽいけど眠いしか思わなかったぞ。

 普通は苦しかったりするのかね?

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